ルードヴィッヒからの提案
婚約破棄の慰謝料と奪い取った共同経営は全てマリアベルへと預けられ資金繰りに使うと良いとにこやかに父は言った。
それを有難く頂き仕事は軌道に乗っている。
逆に、多額の慰謝料を請求されたマキシマム侯爵家は辛うじて対面を保っている。
失った事業の代わりに他の事業に力を入れてなんとか食いつないでいるようだが、一人息子のガウリィはかなり焦っているようだ。
婚約破棄とは、既に不良物件。
しかも相手は公爵家で、かなり理不尽な対応をしていたと噂になっていた。
人の口に戸は立てられないと言うように、簡単に社交界に広まる噂に青ざめている。
こんな状況で、次の婚約者が決まるわけがなく、傷物令嬢だったり問題がある令嬢、はたまた婚期の遅れた女性の紹介をされたがガウリィはどれも嫌だと首を振る。
そんな贅沢は言ってられない! 家の存続の為だぞと毎日喧嘩が絶えないようだ。
「我が家は公爵家ではあるけれど、国との結びつきがまだ弱くて良かったわよね」
「……そうねぇ」
ナターシャの言葉にマリアベルは苦笑する。
公爵家と侯爵家の問題だったが、もし双子の母が王族に連なる人だったならマキシマム侯爵家は今頃取り潰しになっていただろう。
こんな話が双子の間に出たのは、以前王の妹の降下先がリンクエラ公爵家が良いと話が上がった事があったらしいからだ。
その話は流れて、今の母が嫁入りしたからこそ双子が生まれたのだが、もし王の妹が母だったならこんな馬鹿げた考えはなかったのかしらねとナターシャはハラレバを話す。
「………………どうかしら。欲深い一家だったようだし」
首を傾げて言うマリアベルに、そっか……と頷くナターシャ。
そうしていると、ナターシャの友人がお茶会に集まりだした。
色々あり疲れたマリアベルはしばらくはゆっくりすると決めていたのだが、ナターシャは逆に勢力的に動いている。
どうやらナターシャも本格的に婚約者を探した方がいいかと悩み始めたからだ。
ガウリィみたいな不良物件に捕まるのではなく、自ら選び取りたいとアグレッシブに言うナターシャにマリアベルは笑う。
これからは茶会で情報交換をして、舞踏会などにも参加するようだ。
両親はお転婆なナターシャがやっと動き出したかと笑って見守っている。
そして、マリアベルはというと。
「マリアベル様、お時間がありましたら私との時間を頂けませんか?」
にこやかに笑って跪き手を差し伸べるルードヴィッヒに顔を赤くした。
ナターシャの婚約者候補となっていたはずのルードヴィッヒだったが、ナターシャが全力で拒否をした。
いやよ! 誰がこんな腹黒と結婚するもんですか!! と指を指し両親に言ったナターシャに頭を抱えるリンクエラ公爵。
元々娘たちの婚約者になってくれたらと侯爵家の4男を連れてきた。
騎士であるし、なにより容姿も良く教養がある。
社交に出れば視線を集めるだろうルードヴィッヒはかなりの好物件だ。
だが、ナターシャは嫌だと顔を歪める。
そしてマリアベルは最近まで抑圧されてきた。しかも、婚約者にだ。
そんなマリアベルに無理は言えないと諦めかけた時、ルードヴィッヒがマリアベルの前に跪いた。
「……マリアベル様、宜しければ私を見て判断してくださいませんか? 是非、あなたの婚約者になりたいのです」
蕩けるような笑みを浮かべてマリアベルを見るルードヴィッヒにナターシャは嫌そうな顔をする。
「マリアベルゥゥ……これは顔だけのスケコマシよ。女には皆にいい顔をするからまた大変な目に合うのが目に見えてるわ。だめよ頷いちゃ。本当に執念深いったら」
「おやめ下さいナターシャ様。私の気持ちは本物ですよ、婚活の邪魔をしないでください」
「あのねぇ、私の大事なマリアベルが危険な蜘蛛に捕まりそうならなんとか逃がさないといけないでしょ?」
「…………蜘蛛、ですか?」
「獲物を糸でぐるぐる巻きにして身動き取れなくして食べる蜘蛛と大差ないじゃない」
「……なるほど、いいですね。逃がさず身動きを取れないようにして私に食べられてしまえばいいと」
「言ってないわよ! この変態!!」
マリアベルはナターシャに抱きしめられ、威嚇する姉を見た。
そして、笑みを浮かべるルードヴィッヒも。
「……仲が……いいのね」
「良いわけありますか! マリアベル、騙されちゃだめよ! こんな見た目で性悪なんだから!」
「好感度を下げる発言は控えてくださいナターシャ様」
言い合う2人に目を丸くする。
遠くから見るふたりは何時も穏やかに笑って仲が良さそうだったのに、今のふたりはいがみ合い嫌そうに顔を歪ませたり、アルカイックスマイルを浮かべたりと忙しい。
そして、ルードヴィッヒの様子に笑顔を浮かべたリンクエラ公爵はマリアベルに言った。
「では、マリアベル。しばらくはルードヴィッヒとの時間を作ってみたらどうだ? ルードヴィッヒを婿にと私は望むが、全てはマリアベルの一存に任せるよ」
いいね? と3人を見て聞く父にそれ以上は言えず頷いたのだった。
こうして、ルードヴィッヒのマリアベルを口説く日々が始まり、元々ルードヴィッヒを好ましく思っていたマリアベルは心臓を常に跳ね上げさせて暮らすことになる。




