表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

脆い宝箱


 ルードヴィッヒが専属騎士として着いたのはナターシャが15歳の時で、ルードヴィッヒが20歳の時。

 奇しくもマリアベルが婚約をした1週間後の事だった。

 現在はルードヴィッヒが専属騎士としてナターシャの傍に来て3年半が経過していた。

 2人の絆が育まれるのに3年半は十分すぎる期間。

 そして、それを視界の端で見てきたマリアベルはもう時期婚姻する。

 ガウディが20歳の誕生日を過ぎたらすぐに婚姻すると言う話で纏まっているので、マリアベルに残された時間は1年半程であった。


 マリアベルは、その1年半で大きく膨らみに膨らんだルードヴィッヒへの恋心に蓋をする。

 少しでも力を緩めると簡単に開いてしまう宝箱のような脆い心ではあるけれど、他人への恋心を持って嫁ぐのは不誠実だと真面目すぎるマリアベルは考えていた。


「あ、マリア! マリアベル!!」


「ナターシャ……?」


 今日の習い事が全て終わったマリアベルは、夕飯が始まるまでの少しの休憩時間を自室で過ごそうと歩いていた。

 もう少しで部屋に着くと言う時に呼び止められ、心臓が跳ねる。

 恐る恐る振り向くと、満面の笑みを浮かべるナターシャと、その後ろにいるルードヴィッヒの姿を見てしまい、ドクン! と強く胸を打ち気持ちが波打つ。


「……あ、えと……どうした、の?」


「最近お稽古ばかりでマリアベルに会えなかったから、今会えて嬉しくて! ねぇ、夕飯まで一緒に話をしましょう! ね? いいでしょ?」


「え? ……でも……」


 困ったように視線を揺らめかせてから、一瞬だけルードヴィッヒを見る。

 その瞬間を見逃すルードヴィッヒではなくて、片眉をはね上げながらも笑みを浮かべた。


「…………マリアベル様、お疲れでしょうか?」


「え?! あ……いえ、そんなことは……」


 きゅっ……と胸の前で手を組んでみるみるうちに顔を真っ赤に染めたマリアベルにナターシャは飛びついた。


「じゃあ、たまにはいいわね。 姉妹で仲良くお茶を飲もうよ」


「2人ではなく、最低4人です」


「なんでよ、たまには姉妹ふたりでお茶会したいじゃない」


「いつなんときあるか分からないのにそばを離れる訳にはいきませんから。ですので、私とヘレンは連れて行ってください」


「…………ヘレンはいいけどルードヴィッヒは……」


「悩む必要が何処にありますか」


「全てだわ!」


 そんな軽口を叩いている2人をマリアベルは羨ましそうに寂しそうに見つめていた。


 結局、マリアベルの部屋で4人でのお茶会となり場所を移動する。

 勿論参加者は姉妹だけでお互いの専属騎士は壁際に立っている。

 位置的にナターシャの後ろにいる為、嫌でもルードヴィッヒがしっかりと視界に入ってしまい、マリアベルは無意識に赤面してしまう。

 そんなマリアベルの後ろにはヘレンがいた。

 彼女は16歳の時にマリアベルの専属騎士としてそばに仕える女性だった。

 ガウディが女性にしろと言ってきたので、変えざるを得なかったのだ。

 それまでは50代前半の男性騎士が務めていて、穏やかだがしっかりとマリアベルを守る良い騎士だったのにと、当時残念に思っていた。

 勿論ヘレンが駄目な訳では無い。


「マリアベルとこうやってゆっくり出来るのは久しぶりだから嬉しいわ。最近はどう? お稽古ばかりで婚約者と会ってる?」


「そう……ねぇ、月1回くらいかしら」


「それだけ? もっとお互い時間を作れたらいいのにね。で、月1回のデートはなにをするの?」


「…………なにを」


 なんの気なしに聞かれた内容に、マリアベルは悩む。

 顔を顰めて口を開けては閉じ、最終的には首を傾げたマリアベルにナターシャが眉をしかめた。

 婚約者がいないから、デートをした事がないし、男性と二人きりなど今まではルードヴィッヒ以外にないナターシャ。

 そこに信頼はあっても甘い雰囲気はない2人だったから、理解が追いついていなかった。

  だから、どんな感じか気になっただけで、まさかこんなにも酷い仕打ちをされているなど考えてもいなかったのだ。


「………………特には」


「え?」


「ガウディ様とのお茶会も、お買い物も……特に会話はないですし……」


 そう、ただその場にいるだけなのだ。

 つまらなさそうにお茶を飲むガウディ。

 自分の書い物だけしてマリアベルに見向きもせず、数回店先に放置されひとりでの帰宅を余儀なくされた時もあった。

 それを知らないナターシャとルードヴィッヒは目を丸くする。


「…………え、本気?」


 チラッとヘレンを見ると控えめに頷く専属騎士の姿にナターシャは愕然とした。


「…………でも! 定期的にお手紙のやり取りや贈り物があったわよ……ね?」


「…………代筆、です」


 明らかに筆跡が違う。

 それは受け取る執事が顔を歪ませる程に。

 書かせる人を統一していないせいか、毎回筆跡が違い、更には内容も酷いものだった。

 適当やってますよアピールをしていればいいとでも思っているような、そんな対応だった。

 公爵家を馬鹿にしてるような対応だ。

 

「…………なによそれ。よくも公爵家の娘を蔑ろにできるわね」


 怒り狂う姉の姿を見て、だからガウディの婚約者にならなかったのだろうなとマリアベルは思う。

 ガウディの性格的に、ぶつかるような気の強い女性は要らなかったのだろう。

 さらには、仕事の共同経営を持ちかけて提携してくれる侯爵家か公爵家を探していた相手側からしたら、マリアベルは良い餌食であったのだ。


 提携を期に歳の近い2人を婚約させたのだが、マリアベルはこのまま婚姻したとしても幸せにはならないだろう。

 ナターシャは、爪でカツカツと机を鳴らす。

 気に入らないと分かりやすく示すナターシャは、すぐに身を乗り出してきた。


「マリアベル。次に会うのはいつ?」


「……明日?」


「そう。じゃあ、私も同席するわ」


「えっ?!」


 目を丸くしたマリアベルは、そうと決まれば! と立ち上がるヘレンを見る。


「お父様のところに行くわ!ヘレン着いてきて! ルードヴィッヒはマリアベルに着いていて!!」


「えっ?! ナターシャ?! まっ……」


 手を伸ばして止めようとしたが、ナターシャの方が動きは早かった。

 ヘレンもすぐに動きだし、マリアベルはルードヴィッヒと共に残されることになる。

 恐る恐る顔を上げるとにこやかに微笑むルードヴィッヒが居て、小さく息を飲んだのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ