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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃく。

 


 窓を叩く音で目が覚めた。


 どうやら今日は雨降りでの始まりらしい。

 さして激しくもなく、ぽたぽたと窓を叩く雨音が部屋の中に響いている。

 この調子ならそのうち晴れそうだが、さて。

「……」

 枕元に置いてあった携帯を手に取り、時間を確認する。

 もうこんな時間なのか……それにしては家の中は静かな気がする。

 まだみんな寝ているか寝室にいるか何だろうか。

「……」

 母はもしかしたら、買い物にでも行っているのかもしれないが。

 朝早くに行かないと安売りのものとか、市場の新鮮な野菜はさっさと売り切れてしまうからな……。でも昨夜は結構遅くまで起きていたはずだから、寝ているかもな。分からないが。

「……」

 父はすでに冬休みに入っていたが、母は昨日が仕事納めだった。

 だから、携帯のアラームも切っているだろうし、大人しく寝ているのかもしれない。でもあの人、休みの日関係なく早めに起きてしまうと言っていたはずなんだけど。

「……」

 今日は家の大掃除をするのだと張り切っていたはずだ。

 まぁ、そんな朝早くしなくてもいいだろうけど、張り切っていたわりにはと思ってしまう。……ということはやっぱり、早起きしたけど誰も起きてこないから買い物を先に済ませてしまおうと出かけたかもしれないな。

「……」

 とりあえず私も起きるとしようかな。

 寝直そうとしてみたが、寒すぎて寝る気にもなれない。足がもう既に冷えている。

 曇天が広がっているせいで、底冷えしてしまった部屋の中では、眠るのも大変なのだ。全く温まりもしない。なんでこんなに寒いんだ……天気が悪いからだな。

「……」

 重たい体を起こし、体の向きを変え、ベッドから足を出す。

 俯いた視界で、重量に従って、ぶらりと揺れる足が、冷えた空気にさらされる。

 裸足の足先は、冷え切ってしまって、もうほとんど感覚がない。

「……くぁ」

 そう、思わず漏れたあくびが。

 俯いていた視界を無理やり上げた。

 その先にあるのは、自分の机。

 その上に広げられた、広げっぱなしにしていた。

 紙の束。

「……」

 輪郭がはっきりしない視界の中で。

 それが何なのかだけははっきりしている。

 その正体を知っている私の中には。

 1つの記憶が呼び起こされる。

「……」

 初めて持った自分の夢。

 初めて語った自分の夢。

「……」

 それをお前なんかがと言われた記憶。

 それを頭ごなしに否定された記憶。

「……」

 アレは、初めて親につけられた傷だった。

 深くて重い、傷だった。

 その後にも、何度も何度も、重ねられた、傷だった。

「……」

 一生癒えることのない傷だった。

 一生自分のすべてを否定するに足る傷だった。

「……」

 だけど、忘れられない夢だった。

 諦めているようで諦めきれない夢だった。

 だからその度に傷を傷つけられていたのに。

 それでも捨てられない夢だった。

「……」

 だから、あの紙の束を捨てられずに。

 奥の方に仕舞い込んでいたのに。

 ついつい引っ張り出してしまって。

「……」

 今ならできるだろうかとか、今ならやってもいいんじゃないかとか、今なら今ならって。

 昨日からずっと考えていて、今も考えだしていて、やってしまっていいんじゃないかなとか思ってしまっていて。叶えられる夢でもない。それは確かにそうだと今ではわかるはずなのに。諦めきれずに捨てきれずにいるせいで。

「……」

 仕事を辞めて、現実を見ることをやめて、たまに見せられる現実に不安になって焦燥に駆られてみて、それも全部気のせいのようなきがして、結局何がしたいんだろうと自分が分からなくなって。

「……」

 それでも、あの夢だけは確実にあって。

「……」

 あぁ、それなら。

 そっちに向かって。

 走ってしまおう。


 今なら、それが。

 出来る気がする。











 お題:曇天・雨降り・傷

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