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第六話 朝が来た。仕切り直しよ、杜若。

 目覚めはいつも不快感から始まる。

 また朝が来てしまったという面倒な気持ちと、ご機嫌斜めな心をなんとか取り(つくろ)おうとする億劫(おっくう)な気持ち。

 そうでもしないと、自分がなんなのか分からなくなってしまう。

 私の朝は、そんな不安定さを整えていく時間でもある。

 大きなため息をついて身体を起こすと、いつもと違う匂いに気付いた。


「…………これってなんだっけ?」


 ハリのあるシーツに軽くて暖かい羽毛布団。ベッド生えた天井に広くて綺麗な部屋。木製のクロゼットや揃いの小卓とソファ。勉強机にしては立派すぎる机と、座り心地の良さそうなクッション付きの立派な椅子が整然と部屋に並んでいる。

 どれも知らないものだ────。


 そうしてようやくお寝坊な頭が、昨日の出来事を苺來(まいら)に教えてくれます。

 真っ暗闇に放り出され寒さで気絶した挙句、心優しき『吸血鬼』────。

 いえ、『牛乳愛好家』の皆さんに保護され、部屋を貸し与えられた記憶が一気に(よみがえ)りました。


 同時に────、指が触れた跡を思い出し、自分の指先でなぞりました。


 赤い瞳に銀灰色の髪を持つ、冷たい印象もあるのになぜか暖かさも感じるヴィクター・デュ・カリブンクルス────。記憶の中ですらその美しさに心臓が絞まり、不自然に鼓動が脈打ちました。


 憐れな私に(ほどこ)しを与えながら、涙を味見し悲嘆に暮れてみせたり、賑やかなご家族(?)を温かく見守る姿がご立派だったり、────美味しい牛乳に舌鼓(したづつみ)を打っては、レンジを『チン』と呼び自分で気まずげに表情を曇らせたりと、大変濃ゆいものを摂取した気がします。


 私の人生、こんな日があって良いのでしょうか。


 不整脈がズキズキと身体を巡り、頬が熱を持ち始めました。

 こんな場所にいるからでしょうか。

 落ち着かない気持ちに、いても立ってもいられなくなりベッドから抜け出すことにしました。

 太陽が失くなったと聞いていたので、外は真っ暗なのでしょう。──ひとりで彷徨(さまよ)っているとき、なにも見えなかった景色を思い出し、絨毯の上を歩いて行き重そうなカーテンを開けてみることにしました。


「…………まっしろだ」


 窓の向こうには一面真っ白で、白に(おお)われた景色が広がっていました。

 昨日の暗さなんかどこにもありません。

 灰色の空から燃え尽きた欠片が落ちているのか、白い大地にゆっくりと積もって行っているようでした。

 初めて見る静かな光景に、トクトクと新しい高揚が身体中に巡っているのに気付きもせず窓のその外を見入っていました。

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