アイツの……アイスと…ル?
俺の大学の文化祭の時期がやってきてしまった。幼馴染の機嫌は直ったんだろうか?と、思いながら彼女の部屋を開けた。
「アレでもない!コレでもない!」
昨日、出発する時間をつげてあったのに、外に来ないから部屋まで来てみると、幼馴染はパジャマを脱いだ状態で今日着ていく服に悩んでいるようだった。
「(……下着姿ですけど」
どうやら部屋の扉が開いたことに気づいていないのか、クローゼットに頭を突っ込んだまま、洋服を選んでいる。
「去年着てた花柄のワンピースにすれば?」
「なんか太ったのか、もう二の腕が入らなくなってて……着れなくて」
それで直前になって悩んでいるのか。
「ジーンズにTシャツでよくね?」
「よくない!!!推しに会うのに……って、いつからそこにいたの?」
振り返った幼馴染が、ビックリした顔をするけれど、下着姿なことを恥ずかしがる素振りもない。
「さー?」
俺って、男子として見られていないんだろうか。女みたいな顔をしているわけではないし、幼馴染も子供の頃のような体型でもないのに、「キャー」とかそういう反応すらないんだな。
「うぅ、上着はこのヒラヒラのやつがいいの!」
「じゃ、下はショーパンとか?」
着ていない上着を手に持って、コレを着るんだ!と主張されている。
「おお!」
そういえば、そんな物もあったな!とクローゼットから取り出して下だけ履き始める。
「むぎぎぎ!!コロナ太りが………むぅぅ」
おおよそチャックが上がらなければ、ボタンをしめることすら出来ない。
「これは、無理だぁぁ!!」
完全にお手上げ状態のようで脱ぐためにズボンに手をかけるようとする。
「ハッ!!ちょっとアッチ向いててっ」
「は?なんで?」
幼馴染がいきなり慌て出した。
「こんなにギチギチじゃ、一緒に下着も脱げちゃうからっっ」
「もうすでにパンツ姿さらしてるのに?」
「パンツ見られるのとお尻見られるのとでは、意味が違うでしょ!!!」
そこは恥ずかしがるんだ??なんだか、よくわからないまま、気のない返事を返した。
「…………そう??」
「いいから!!」
彼女が、ちょっと苛立ち始めたので、とりあえず指示に従っておくとする。
「はいはい」
勉強机の椅子をくるりと回転させると、俺は幼馴染に背を向けた。
ドタドタ!という音が聞こえると「よし!」という声が聞こえて、またパンツ姿の彼女の背中を見つめることになった。
「ロングスカートとか、ないの?」
「こんな?」
白いフリルの上着にピンクのロングスカートが合わさった。悪くはないけれど、活発な彼女に似つかわしくないかもしれない。
「これにサンダルでも変じゃない??」
「まー?」
「じゃ!ソレにしよう!!」
クローゼットの中からサンダルが出てくる。
もしかして、いまからメイクするつもりなのかな………本当に間に合うのか不安になってきた。
洋服を着終えた彼女が、自分の方へやってきた。俺は、勉強机の席を譲る。
「えとえと…………」
「髪留めだけ先に出して、俺がやるからメイクにだけ集中して」
寝起きのままの髪の毛に机の上の寝癖直しを吹きかけていく。櫛で絡まった部分を真っ直ぐにしながら、サイドを編み込んでいく。
可愛げのあるピンで飾り付けすると、メイクが出来上がる頃には、それなりに女の子になっていた。
「よし!出掛けよう!!!」
どこへ出陣するんだ?と言いたい気持ちを抑えながら、俺も靴を履いて幼馴染の家を一緒に出発した。
俺の大学は、隣の県なので新幹線に乗らなくてはならない。ともすれ、大学の近くにマンションを借りなかったのは、やっぱり幼馴染と離れたくなかったからだ。
「ふんふん〜♪」
推しの曲を聴いているのか、足をパタパタとさせた彼女が上機嫌で隣の席に座っている。
とくにサークルにも入ってなくてよかった。
これなら、幼馴染と1日文化祭を回れそうだ。
「……………なっ」
と、思っていたのに、事態は大学についてすぐに困ったことになってしまった。
「せ、整理券だと?!」
推しのライブを観るためには、早くに大学に着て整理券を取っておく必要があったみたいだ。
「なんで、もっと急かしてくれなかったの!!」
今日も理不尽をブツけられる俺。
大学側もこんなに女子が詰め掛けるとは思っていなかったのだろう。昨日の段階では、整理券の配布など聞いていなかった。
「(困ったな…………」
整理券の配布はすでに終わってしまっている。周りを見渡すとメインステージが見える階段部分に席を陣取っている人すら見える。
俺の大学は、山に設立されているから、急勾配なほど、建物が入り組んでいる。メインステージを上から見られる校舎の位置があれば……
「あ、そうだ。こっち」
俺は、幼馴染の手をひいて、三階の使われていない教室までやってきた。
「どこいくの?」
教室を開けて、窓の下を覗いてみる。
「わ!遠いけどステージ見えるよ!」
「よかったな」
おそらくマイクを使うから声は聞こえるだろう。
「うんうん!」
これなら、身長の低い彼女でも、下で人をかき分けて見るよりもいいはずだ。
時間になるとステージに、幼馴染が好きな推しがやってきた。
「わ!NAOくん出てきた!!」
彼女が窓に前のめりになる。
『皆さん、こんにちはー理科大学に呼ばれてやってきましたー』
ステージの方の歓声もとても多い。推しは、自分の曲を歌ったり、今度でるテレビ番組の番宣などをすると30分くらいで出番は終わってしまった。
普段、家で振り回している緑色のペンライトを彼女がブンブンと振っている。
『あ、三階の教室の遠い所からもペンライト振ってくれてるーありがとうねー』
帰りがけの推しが、彼女に向かって手を振ってくれると、他の人達が振り返るよりも早く彼女は腰砕けたのか床にペタンと座ってしまった。
「……ワッ、ワッ」
どこぞの小さな生き物のような鳴き声を出しながら、彼女が泣き始めてしまった。
「だ…大丈夫か?」
「うぇーーー今日、来てよかったぁぁ」
メイクくずれてますけどって今は言わないほうがいいんだよな…?
「あ、うん。よかったね」
その後、メイクを整えると、文化祭の出し物を回ることにした。
「あ!アレ!!」
「ん?」
彼女が指さした先には、大学内のコンビニだった。
「アレって推しの食べてるアイス売ってるコンビニ!!」
「あーそういえば」
思えば、わざわざ自転車走らせなくても、校内に同じコンビニ入ってたのかよ。
けれど、今日は購買部もコンビニも営業はしていなかった。
「お休みみたいだね。ガッカリ…」
「あー…でも、そういえば、スイカとメロンのアイスなら同じやつ買ってきてあるよ。帰ったら食べる?」
俺がそういうと、隣を歩いていた彼女の顔がぱぁ!っと明るくなった。
「え?!本当に??やったー食べる!私、スイカ棒のやつって好きなんだぁ」
「あ、それじゃないデス」
彼女が、微妙に的はずれな事を言うので、なんだか可笑しくなってきてしまった。
彼女のために買ってきたのに、冷凍庫に眠ったまま食べて貰えないと思っていたので、夏の俺の努力が救われてよかった。と、思った。
推しのグッズには、なにやら犬のマスコットがついてくるらしいです。今回、担当カラーは緑色という事なりました。全体的に緑で構成された物語です。コンビニとアイスと担当カラーのすべて。深い意味はありません。