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ママ(♂)になるためには、第6歩

念の為、前置き。

ルーカスは、プロローグからずっと自分に都合の良い夢を見ていると思っています。意識も感覚もあるけど、フワフワして現実感がない感じ。

そっからのルーカス視点の『天国を夢みて』がきて、この話に繋がります。

 爽やかな朝だった。

 爽やかな朝に、目覚めたルーカスの絶望を混ぜた細い声があった。

「……えっえっ?何で、お父様がここに、あれ?僕、昨日……夢じゃ、ない………。えっあっ。お、おとうさま。あぁ、あぁ、僕は、なんて事を……!」

 なんとなく、昨夜のルーカスの魘されながら話していた言葉から予想はしていたが、悪い意味で裏切られる。

 ルーカスの糸のよう細いその声は徐々に絶叫に変わる。

「……あっあっ!違うんです!違うんです!ヒュッ!お許し下さい…!ごめんなさいごめんなさい…!違っ!ヒュッ…僕は!僕はぁぁぁ!」

「ルーカス!」

 自分頭に手を当てて、叫びながら縮こまるルーカスの顔を両手をあて無理矢理に目線を合わせる。

「ルーカス。落ち着きなさい。大丈夫だから。私が誰か分かるか?」

 努めて冷静にゆっくりと話す。

「あっ……。ヒュッ…お、とぅ…さま……」

「あぁ、そうだ。お父様だ。良い子だ、ルーカス。さぁゆっくり息を吸って…吐いて。そうゆっくり吐いて。大丈夫だから。」

 まずは、過呼吸になりかけていたルーカスの呼吸を整えさせる。

「にぃに?」

 こんな騒ぎにルーカスが大好きなミッシェルが起きないはずがなく、ミッシェルはルーカスにノッチノッチと躙り寄る。

「ヒュッ……ハァッハァッ……!」

「にぃに?どぉしたの?いたぁいたぁ?」

 ミッシェルの声に反応したルーカスの呼吸が再び乱れ始める。今のルーカスにとってミッシェルと一緒にいては、その罪の意識に押し潰され呼吸さえままならない。

 急いでルーカスを抱きしめ、ルーカスの視界からミッシェルを隠す。

「おとぅーしゃー?」

「ミッシェル。お父様はにぃにと二人っきりでお話ししたいんだ。ミッシェルは、ジルを呼んできてくれないか?ジルは分かるか?」

「ぅん!ミッシェー、わかぁうよー」

「良い子だね、ミッシェル。じゃお願いしてもいいかな?」

「ぅん!にぃに、おとぅしゃー、まてぇてー」

 ミッシェルは良い返事をして、ゆっくりとベッドをおり、本人とっては全速力の速さでポテポテと部屋を出でいく。きっと、ジルなら上手くミッシェルを足止めしてくれるはずだ。ゆっくりとルーカスの背を撫でながら、ミッシェルが部屋から完全に消えるのをまつ。

 そして、完全にミッシェルが消えるのを待ってから、腕のなかのルーカスの様子を伺う。

「ヒュッ…!ヒュッ…!ハァッハァッ…」

 口に手をあてて息を殺し小さく震えているルーカスの顔はもはや青を通りこして白くなっている。

「ルーカス、それでは、息苦しいだろぉ。大丈夫だから。ほら、お父様とお手々繋ごう」

 目線を合せながら、ルーカスの小さな手をゆっくりと包み込み、口元から手を離す。どれほど、強く握ったのだろうか。手は冷たく、口元には強い後が残っている。

「うん、いい子だねぇ。じゃ、つぎはお父様と一緒に呼吸しようか。さっきとおなじように、ゆっくり、すって、、少しづつはこう、フー」

 焦らず、努めてゆっくり話す。

「フーフー……ヒュッ」

「だいじょうぶ。焦らなくていいからね。じゃもう一回」

 吸って吐いてを何か繰り返す。

「……はい。良くできました。もう大丈夫だね。良い子」

 最後にコツンとルーカスのおでことおでこをぶつければ、もう大丈夫。まだ、顔色は完全に戻っていないけど、呼吸は正常だ。

「ルーカス。何か怖かったか?」

 ルーカスを横抱きにし、ゆっくりと背中を叩く。朝食の前に、まずはルーカスのメンタルケアだ。

「……ちがい……ます」

「そっか。じゃあ、嫌な事でもあったかな?」

「……ちがいます。ぼく、ぼく…」

「うん」

 辛抱強くルーカスの言葉を持つ。昨日、ルーカスの夜泣きから、何となく分かるが私が言っても意味はない。

「ぼくは……あくまだから。……だから、本当はここにいちゃいけないんです。」

 小さい小さい声で、やっとルーカスの言葉が聞けた。

「そっかぁ。あくまかぁ。それは誰かにいわれたの?」

「おにぃ、さまが…」

 え。ここで、まさかの長男アルバートが登場するの。てっきり、あの女の名前がでるかと思ったら。

「お兄様が、おやしきには、悪魔がいるって……」

 3年前の最後にみたアルバートの顔を思いだす。ルーカスやミッシェルとは違う鋭さをもった、下手すれば冷たいという印象をもってしまうほどに美しい顔だ。そして、性格も顔に負けずとても冷静。

「ぼく、なんのことだろうって、思って……」

「うん」

「もしかして、ぼくのこととかも、って…ヒック」

「うん、うん」

 ベッド向こうにあるティッシュを引き寄せ、再び泣き始めたルーカスの目元にあてる。こういうとき、魔法が使えるって便利。

「そっかぁそっかぁ。ルーカスはこんなに良い子なのになぁ」

「ぼく、良い子なんかじゃない!」

「そうなの?こんなに可愛くて、優しくて、礼儀正しくて、弟思いの、お父様の自慢の息子なのに」

「違うの、違うの。うぅ…う、うあぁぁぁあん、あぁぁん」

 やっと健全なと言ったら、駄目なんだろうが、子供らしい泣き方をしたルーカスに一安心だ。本人がスッキリするまで、泣かせるがままにする。ただ、昨日から涙で、目は腫れそうだが。

「よーしよーし」

「あぁぁぁん、ヒックうぅぅ、あぁぁぁ」

 悲しいのか、痛いのか、怖いのか。それとも全部ひっくるめてなのか。たぶん、本人もちゃんと分かっていない。

「ルーカスはいっぱい、いっぱい我慢したもんなぁ~。よしよし」

 ルーカスから差し出された腕を私の首にまわさせて、よりギュッと強く抱く。

 少しでも、この子の痛みが取れるように。


「…ヒック…ヒック」

 スンスンと鼻をならすルーカスに、水が入ったコップを差し出す。

「一杯泣いたから、のどが渇いているだろう。飲みなさい。ゆっくりだぞ。ゆっくり」

 泣くこと約5分。泣き続けたルーカスは、少し眠そうだ。今ならきけるだろうか。ポンポンと背をたたきながらそっと質問をする。

「ルーカス、もし、嫌ななら答えなくていいからね。聞いていい?」

「…コクン。」

 無言で頷くルーカス、可愛い!!!

……では、無くて。これだけはどうしても分からなかったこと。

「どうして、自分を悪魔って思ったのかなぁ?お父様には、とてもルーカスが悪魔には見えないなぁ。教えてほしいなぁ?」

「ぼく、ぼく……ミッシェルに消えちゃえって思ってしまったの……」

 え、酷い事を言ったとか、手を挙げたとかじゃなくて、思っただけ。

 …いや、思っただけでも、きっと心優しい持ち主のこの子の中では重罪になるのだろう。

「ミッシェルが、あくまだと思ったの…だから…」

 ルーカスの目に残ってた涙が、一つ二つと落ちていく。

「おとうさま……ぼく、ミッシェルに…嫌われたら、どうしよう……」

 止まった涙が、再び溢れ出す。

「ぼく、わるいこに、なっちゃった……!」

 ミッシェルのお兄ちゃんと言っても、この子はまだ幼くて、きっと、心で思ってる事の半分も言えてない。純粋で優しくて、きっと心は柔らかく、誰よりも傷つきやすくて。恐らく、ルーカスの心におった傷は直ぐには癒せない。それでも。

「よしよし。それは怖かったねぇ。ルーカス、ミッシェルの事、大好きだもんねぇ」

「う“ん”…!!」

「じゃあ、お父様と一緒にミッシェルに、ごめんなさい、しようか」

「……ぅん」

「ごめんなさいして、大好きって言ったら、ミッシェル、許しくれるよ」

「ほんとぅ……?」

「うん。本当。お父様、嘘つかないよ」

「うん……」

 ルーカスの顔をティッシュで拭く。もう、涙が止まったら、大丈夫。

「ルーカス、抱っこようか?」

「ううん。……てぇ」

「うん、お手々繋ごうねぇ」

 ルーカスと手を繋いで、ミッシェルのもとに向う。



「にぃに!にぃに!にぃぃぃにぃぃぃぃ!!!!!」

 ……こっちはこっちで凄かったみたいだ。

その、ジルは、なんで、ミッシェルから顔を足で蹴られながら、抱き上げることができるんだ。ミッシェルもミッシェルで、逆さになりながら、よく動けるな。怖くないのだろうか。

「ミッシェル!」

「あっ!にぃに!!!」

 私の手を離し、ルーカスがミッシェルの元に向かえば、ミッシェルは即ご機嫌になる。傍からみたら、こんなにミッシェルは分かりやすいのに。

「にぃに!いたぁいたぁい?」

「ううん、あのね、あの…」

 あと一歩が踏み出せないルーカスを、勇気付けるように背中を、ポンと叩く。

「…あのね、ミッシェル…ひどいこと思って、ごめんなさい!」

「う?」

「本当は、大好きだよ!」

「ッ!ミシェーも!ミシェーも、にぃに、だぁすきぃー!!」

 正直、ミッシェルとってルーカスのごめんなさいがどういう意味なのか分かってないだろう。

 が、今は、二人仲良く抱き合ってるから良しとしよう。

「……ちょっと、俺の事、無視しないでください」

「ジル」

「もう、本っ当に大変だったんですから」

 息子の二人を真似るように、私もジルから抱き着かれる。

「泣くわ、暴れるわ、叫ぶわで、何度駄目かと。もっと労わって下さい」

「うん、そうみたいだね。ありがとう、ジル」

 ジルとミッシェルのとんでもない大乱闘が起きた事は、何となくさっきの体制で垣間見れた。でも、あの時に、ルーカスと二人きりになれなかったら、ルーカスが負った心の傷は誰にも気付かれずにルーカス自身を蝕んでいたかもしれない。まだまだ、傷は簡単に癒えないだろうけど、それでも少しはルーカスの傷に寄り添えていたなら良かった。

「ジル、君がいてくれて、本当に良かった。ありがとう」

 労りと感謝を込めて、優秀な乳兄弟の頭を撫でる。





 因みに後日、ルーカスが泣いてた原因を聞いたジルは、

「え、叩いたとか、言ったとかじゃなくて、思っただけ?思っただけで、罪悪感で泣くとか。尊っ。可愛いと優しいの権現かよ」

 と言った。

 うん。私もそう思う。

 ルーカスは良い子でとっても優しい子。

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