ママ(♂)になるためには、第2歩
そんなわけで、数時間後、私達家族とジルは、王都にあるホテルに来ていた。
「うんうん。初めてきたが、中々立派だね。ルーカス、ミッシェル、今日はここに泊まるよ」
乗り物から降りて、二人と一緒に目的地であるホテルを見上げる。
「おっきー…」
「大きいです。お父様」
総面積でいえば我が領地にある屋敷のほうが広いし大きいのだが、王都でこの大きさと20階建てというホテルは中々に迫力がある。
ポカンと口を開けながら、ホテルを見上げるルーカスとミッシェルの可愛さに思わずニコニコと目尻が下がる。私の可愛い息子達は、どんな表情をしていても可愛い。
「旦那様!手続きが終わりましたので、部屋に行きますよ!」
「ジル。手続きを代わりにしてくれて、ありがとう」
天使のような二人を堪能していれば、ホテルから出てきたジルが「さぁ早く早く」と中に入るように急かす。どうやら、ホテルに貴族がいるのは思った以上に目立つらしい。
小さいミッシェルを抱っこして、ジルにの後に続く。本当はルーカスも抱っこしたかったのだか、流石に私の筋力が足りないため、代わりに私の服の端を掴んでもらった。
昔から宿という文化はあってもホテルという概念はなかった。このホテルというものは宿とは似て異なるものらしく、最近、提案された新しい宿泊スタイルらしい。
が、各地に屋敷や別荘を持つ貴族には、やはりあまりこのホテルというものに馴染みがない。なんだったら、社交界では、ここが必要なのは愛人との密会所や秘密の逢瀬等と噂され、余り良い印象を持つ人は少なかった。
しかし、現実はどうだろう。
「凄い!お空にいるみたい!お父様、バルコニーに出でも良いですか?」
「うんうん。落ちないように気をつけるんだぞ。」
「はい!ほら、ミッシェル、おいで!怖くないよ」
ジルが借りたスイートルームというところは、リビングルームが1部屋、ゲストルームが1部屋、寝室が3部屋に、書斎が1部屋、クローゼットが2箇所、使用人の控室が2部屋とその他諸々の部屋という、狭いながらも、充実している。
何よりも、20階という高さがとても良い!!夕暮れ時の王都を上から見下ろす景色はなんとも言えない美しさがある。
「これで、屋敷のメイド達に支払う賃金より安いとは、儲かっているのだろうか。どう思う?ジル」
「はい?そんな心配より荷解きの心配をしてださい。ここにメイドはいないんですからね。自分達の事は自分達でやらないと」
ホテルの素晴らしさと経営の心配をしていたら、荷解きをしていたジルに一蹴された。
「荷解きは、さっき、荷物を運んでいた者にお願いすればいいんじゃないのか?」
「ホテルにそんなサービスはありません。彼らはせいぜい、荷物を部屋に運ぶ位ですよ」
ジルが言うには、荷解きまでしてしまったら物が紛失した場合に大変に問題拗れるだからだとか。なるほど、賢い。
それなら私も、自分で自分の荷物を片付け始めないと。荷解きなんて学生時代以来だ。
「なぁ、ジル」
「なんですか?言っときますけど、まだまだ荷物はありますよ」
「いや。こうしていると、学生時代を思い出すなぁと思って」
「あぁ、そうですね。はい、感傷に浸ってないで手を動かして下さい。手を」
とにかく、男二人で手当たり次第に服やら日用品やらを積めてきたので、バックのなかはぐちゃぐちゃである。これ、本当に片付くのだろうか。
「なぁ、ジル」
「なんですか?」
「お腹空かないか」
「………」
ジルの代わりに、「くぅ。」とバルコニーから戻って来たミッシェルのお腹が控えめに鳴く。
そういえば、私達の一番の目的は夕飯だった。