ママ(♂)になるためには、第1歩
深く考えず、雰囲気で楽しんでください。
“私がお前達のママになる”
と、宣言したところで、直に実行はできなかった。
まず離婚の件だが。
「そもそも、旦那様と奥様」
「ジル、あの女はもう妻じゃない。敬称はいらない。」
「はいはい。ては、あの女の結婚は政略結婚ですし。陛下の了承が必要です」
2つ目に子供達の件。
「そもそも、対外的にみれば、旦那様は家庭を省みず仕事ばかりしている夫となっています。一般的にみれば幼いルーカス様、ミッシェル様の養育権の勝ち取りは難しいです」
「あの女には、絶対渡さん!!」
「はいはい。大声を出さないでください。お二人ともビックリしてるでしょ」
「あっ。ごめんねぁ。ルーカス、ミッシェル。ビックリしたねぇ。お父様が悪かったよ」
興奮してしまい、つい大声を出してしまった。両腕で抱っこしているルーカスとミッシェルに慌てて、優しく二人の背中を撫でやがら謝罪する。
3つ目に、後継ぎの件。
「というか後継ぎどうするんですか。旦那様に対するご長男のアルバート様の評価は最悪ですよ。手紙の返信でさえ来ないのに。」
「……もう一度、アルバートに手紙を書き事情を説明する」
「はいはい。今度こそご返信くる事を祈ってますよ。もう直接会いに行けばいいんじゃ無いですか」
現在、我が家は後継ぎは不在といえる。後継ぎであったアルバートは家出宣言より以降、音信不通の状況。一応全寮制のパブリックスクールには、きちんと通っていることは学校からの連絡でわかっているが、卒業後に後継ぎになるとは考えにくい。
その他、あの女が行っていた領地運営の件、あの女への制裁の件、慰謝料の件、ルーカスとミッシェルの件、などなど。
課題は山積みである。
「で、目下最大の課題として―――。貴方がほぼ全員、使用人を解雇にしたため、この屋敷は一切機能できません!今日の夕飯、どうするんですか!!!!」
「うるさいぞ!ジル!二人が怖かっているじゃないか!よしよし。大丈夫だよ。お父様がいるからねぇ」
「心中お察ししますが、なんで、全員解雇しちゃうんですか!こういうのは段階を経てやるものでしょうが!」
「うるさいぞ!ジル!そんな事言ってもトラウマになる奴らを置いておけるか!」
「お父さ、ま……?怒ってますか?……グスッ」
「にぃに?にぃい?…うぅッ」
「あ、ごめんねぇ、怒ってない。怒ってないからなぁ。大丈夫だよぉ。お父様が悪くなったなぁ」
落ち着け。落ち着つくんだ、私。深呼吸をしなければ。大声を出して子供達を怖がらせてはいけない。
ずっと大声に驚いていたルーカスがついに泣きだしてしまった。そして、隣にいたミッシェルも吊られて泣きそうだ。
これでは二人のママ、いや、親失格だ。
親、特にママと呼ばれる特別な存在は、海より深い愛情で子供を包み込み安心を与えるもののだから。その反対をしては、本末転倒だ。
「つまり、ジルは今お腹が空いているから、今日の夕飯が心配ということだな。」
「自分の腹や夕飯の心配というより、この家が心配ですが、まぁ合ってますよ。」
「そうだよねぇ。ルーカスもミッシェルもお腹空いたよなぁ」
「ミシェー。ごぁん。たぁべるー」
「うんうん。そうだな〜、ご飯食べような〜」
残飯さえご飯と言って漁っていたミッシェルもそうだが、ルーカスだってちゃんと食べられていたのか分からない。
最近の愛読書である『ママになるためには』によると、こういう時にママが愛情を込めて手料理をつくるらしいのだが、私は料理どころか、料理場に立ったことがない。とてもではないが、真似することはできない。
いや。とにかく、温かいご飯を食べて、家族でお風呂に入って温かいお布団で寝るのだ。それが幸せというもの。家族団欒というもの。必ず方法があるはずだ。私は、あの女に代わりこの子達のママたる存在になるのだから。
きっと、方法はあるはず。
「あ、ジル。分かったぞ!ホテルに行こう!」
本編では紹介が難しいので、こちらで年齢紹介。
主人公(旦那様)→34,5歳
クソ女(妻)→41,2歳
アルバート(長男)→18歳
ルーカス(次男)→9歳
ミッシェル(三男)→3.4歳
ジル(主人公の乳兄弟)→34,5歳。主人公と同い年。