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ママ(♂)になるためには、第14歩

やっと更新できましたー!

更新が止まっている間に評価とブックマークして頂き、ありがとうございます!

 先日、ジルが問題点をあげたように、私が離婚して子供達と幸せに暮らすための道のりには幾つもの障害がある。

 そして、その中でも最難関は間違えなく、目の前に座っていらっしゃる『国王陛下』だろう。

 例えば、「子供は母といる方が良い」と彼が発言すれば、どんなに私が全財産を投げうち抵抗し祈っても、私は簡単に子供達と引き離され、死ぬまで会う事は叶わなくなるだろう。

 それほど、最高権力者であられる『国王陛下』の一言はとても重い。

 それだというのに。

「そんなに怒らないでくれ。ルイ」

「いえ、国王陛下をお待たせしてしまった自分自身を恥じているだけです。陛下」

「その割には、いつもの可愛い笑顔が見えないじゃないか」

「申し訳ごいません、陛下。生憎、生まれてからこの顔ですので。」

「流石に、驚かせてしまったと反省しているんだよ。」

 言葉とは裏腹に、陛下は鼻歌でも歌い出しそうなほど、ご機嫌よさそうで、何よりです。

 私が、今、どれほどの不安と恐怖と緊張に囲まれながら、この場に立っていると思っているのだろう。ま全く、思い付かないのか、それとも、分かった上で楽しんでおられるのか。

 あぁ、駄目だ。陛下の前だと言うのに冷静になれない。

 ルーカスとミッシェルの肩に置いてる手に力が籠もってしまう。手が震えていないといいが。

「どうしよう。レオ。ルイの機嫌が治らない」

「そもそも、陛下の自業自得だろうが」

 全く困っていない様子で国王陛下は、ここで初めて、それまで無言を貫いていた我が国の宰相であるレオナルド様に話かけた。

「陛下が、我々の静止を振り切って、ルイ達を迎えに行き、あまつさえ、勝手にクルマのドアを開けやがったりして。ルイは俺達と違って、慣例が命な貴族のお坊っちゃんだというのに。悪いがこれに関しては弁護できねぇわ」

「レオナルド様…!」

 思わない所からの援護に、つい、縋るような声でレオナルド様の名前を読んでしまった。

 ああ、流石、レオナルド様。実力で宰相閣下になられたのは伊達ではない。

 何故こうも私の心を読んだかのように、かつ、冷静に大世論を指摘してくださるのか。

「だから、悪かったと言っている」

「恐れながら、俺には悪いという態度に見えんが?」

 レオナルド様のお言葉にコクコクと大きく頷く。

 本当に、本当に、その通り。

 陛下が王太子だった頃からそうだったが、この方は本当に型破り過ぎて、その度に私はよく振り回される。

 今回だって、プライベートと言ってもいいクルマの扉を合図もなく開けるなどという蛮行は、普通なら許さない。我が国の絶対権力者である国王陛下だからこそ、何事も言えないわけで。

「レオナルド様、代弁して頂きありがとうございます。」

「別に構わない。で、ルイ」

「はい」

「俺は別に問題ないが、茶会の席で挨拶もなくずっと立っているのは、貴族とやらのあるまじき行為だと思ったが、違うか?」

「………」

 本当に、大正論ですね。レオナルド様。

「おやおや、レオの言う通りだ。ルイよ」

「…はい、陛下」

「いい加減、私に君の可愛い子供達の名を教えて欲しい」

「…」

「ルイ」

 この国に於いて、最高権力者たる国王陛下の言葉に逆らえる人間がいるはずがない。

 無言の抵抗は、数分で終わり、国王陛下とレオナルド様から守るように抱き寄せていたミッシェルとルーカスからそっと手を放す。

 …大丈夫だ。

 いくら国王陛下とはいえ、白昼堂々、私から子供達を急に引き離すことはないはないはずだ。

 不安そうに私を見上げるルーカスとミッシェルの頭を人無でし、胸に手を当て頭をさげる。

「本日は、このような席を設けて頂き誠にありがとうございます。恐れながら、席の前に我が息子を紹介させて頂けましたら幸いにございます」

「許そう」

「ありがとうございます。我が息子のルーカスとミッシェルです。ルーカス、ミッシェル。国王陛下にご挨拶を」

「はい、お父様」

 まず、ルーカスが一歩前に出て頭を下げる。

「はじめまして、国王陛下。マルティネス家の次男のルーカスです。お会いできて光栄です。」

 真似するようにミッシェルがペコリと頭を下げる。

「はぁじぇましてぇ。マルティネスけの、ミシェルゥです。おあーできぃ、こぉえでしゅ。」

「大儀である。フフッ。可愛いらしいご挨拶をどうもありがとう。さぁ、堅苦しいご挨拶はここまでだ。楽しいお茶会にしようじゃないか」

 陛下の言葉で形式ばった重苦しい空気が霧散し始める。

 身体を屈め、まだ頭を下げているルーカスとミッシェルの二人をあげるように促す。

「ルーカス、ミッシェル。もう顔を上げても大丈夫だよ。よく頑張ったね」

 頭を上げた二人を抱き寄せ、それぞれの頬に親愛のキスを贈る。

「お父様、僕、上手にできてましたか」

「ああ、上手だったよ。初めてとは思えないぐらいに。流石、ルーカスだね」

「ミシェーは?!おとぅーしゃ、ミシェーは?」

「うん。ミッシェルも上手だった。昨日、いっぱい練習したもんね。立派だったなぁ」

 二人の頭を何度も撫でる。

 国王陛下に会うことが決まり、挨拶だけでもと昨夜遅くまで頑張って練習したのが、報われた。

 あくまで非公式だが、全くの無人というわけではない。現に、給仕を行うものや護衛の者が当たり前に控えている。

 彼らがいる以上、何かあれば噂となり、最悪の場合スキャンダルとなり世間に広がるだろう。

 もう既に、スキャンダルの種を撒いた自覚は一応ある身としては、不要な物は避けるべきだ。

「ヨシヨシ。さぁ、二人も席に座りなさい。ミッシェルは左、ルーカスが私の右隣でいいかな?」

「はい。国王陛下、宰相閣下、失礼します」

 いくらか緊張が取れたルーカスが、既に着席済みのお二人に、ご挨拶をしてそっと指定された席に着く。その所作は正に完璧。偉いと言う意味を込めて、再度、ルーカスの頭を一撫でする。

 反対にミッシェルは、ジルに手助けされながら問題なく席に着席したことにより、無事に全員、着席できた。

 これなら、ルーカスとミッシェルに何かあっても直ぐに守ることができる。

「微笑ましくて何よりだよ。日頃の疲れが癒される。なぁ、レオ」

「はいはい。微笑ましい、微笑ましい」

「全く、君の心は相変わらず砂漠のようだね」

 陛下達の軽く口が交わされている間に、目の前の丸い机の上に、色とりどりなお菓子が並べられる。

「ルーカス、ミッシェル。この中に二人が好きなお菓子はあるかい?色んなお菓子を用意したから、好きに食べなさい」

「あ、えっと……おとぅさま……」

 用意されたお菓子に目を輝かせていたルーカスが、陛下からの質問には答えず、助けを求めるように、可愛いお目々を潤ませて見上げてくる。

「大丈夫だよ、ルーカス。お父様がとってあげるからね。ほら、苺のタルトはどうかな?甘酸っぱくて美味しいんだ。是非、食べてほしいな」

 ルーカスの皿に苺が可愛く飾られたタルトをよそってあげる。

「は、はい。ありがとうございますぅ…」

 皿に載った苺のタルトのように真っ赤になったルーカスは本当に可愛い。ここが王宮でなければ、抱き締めることができるのに。

「おとーしゃ、ミシェーも!あぇー!」

「はいはい。…て、シュークリーム?大っきいよ?ミッシェルの顔と同じ位。食べられる?」

「たぁべぅーよぉ。おとぅーしゃ、くーだぁしゃい」

「うーん。じゃあ、お父様がアーンしてあげようか?」

「ンもぅー!だぁいじょおぶぅなの!ミシェー、ひとぉいでできぅのー!」

「分かった。じゃあ、ゆっくり食べてね。急いで食べるとゲホゲホしちゃうから。」

「はぁーい。おとぅーしゃ、ありあとーぉじゃいましゅ!!」

 ミッシェルの熱い主張の前では、大人の体裁など無意味だろう。ここは、子供の自主性に任せてみるか。きっと、いつもの芸術性を今回も遺憾なく発揮してくれるだろうけど。


「なるほど。()()だな」


 騒々しいやり取りのなかで、何故か耳に入ったレオナルド様の呟きを頭で理解した時には、子供達の肩を抱き寄せていた。

 レオ様の真意が掴めない。

「あぁ、他意はない。そんなに警戒すんな」

「は…」

「常日頃、ジルに世話をされているお前が、自分の子供の面倒をみているから、感心しただけだ」

 本当に何でもないようにレオナルド様は手を振る。

「ッたく。陛下のせいで、俺まで警戒されているじゃねぇか」

「ええ、私のせいかい?でも、ほら見てレオ。まるで親猫が子猫を守るように必死に威嚇しているようで、可愛いじゃないか。私は、今のルイも好きだよ」

 本気なのか冗談なのか分からない軽口で陛下はニコニコと笑う。

「まぁでも、可愛いルイを警戒させてしまうのは、確かに本意ではないな。ルイ」

「はい」

「安心しなさい。君と君の最愛の息子達を、無理矢理引き離すなど、誰だろうと許されない。もちろん私自身も、ね」

「陛下。格別のご配慮、ありがとうございます」

 席を立ち、ゆっくりと頭を下げる。

 その言葉こそ、私が一番聞きたかった言葉。

 ただの言葉ではない、この国の王の言葉は、何よりも力をもつ。

「ああ」

 陛下が頷いた事を確認して、今度こそ、警戒を溶き着席する。

「お父様…?」

 この状況に困惑しているルーカスといまいち状況を掴めていないミッシェルをぎゅと抱き寄せる。

「陛下が、ずーとルーカスとミッシェルと一緒にいてもいいと仰ってくださったんだよ。これからずーと一緒だよ」

「え、え、本当ですか?僕、お父様と一緒にいられるんですか?」

「そうだよ。ずっと一緒だよ」

「嬉しい。お父様。僕、とっても嬉しいです!」

「んー?いーこぉと?」

「そうだよ!ミッシェル!とっても良いことだよ!!」

「にぃに、やたぁーね!」

「うん!」

 本当に分かっているのか怪しい、ミッシェルもルーカスにつられてニコニコと笑う。

「ルーカス、ミッシェル。陛下に御礼を」

「陛下、ありがとうございます!」

「ありぃあとーございましゅ!」

「どういたしまして。君達のお父様を大切にしなさい」

「はい!」

「はぁい!」


 本当に良かった。

 子供達を保護して宣言したときから纏わりついていていた子供達と引き離されるという恐怖。

 最低な元妻だったあの女か、それともその実家なのか、目の前の座る権力者なのか。

 少しでも目を離せば、最愛で何よりも大切なこの子達が奪われてしまうのではないかと何度も不安に襲われた。

 しかし、それが陛下の宣言により、打ち消されたのだ。

「本当にありがとうございます。アーサー国王陛下」

補足情報です。

この国の宰相は、平民出身です。平民と言っても、普通に現代日本の義務教育レベルは無償で受けられますし、国民達は普通に生活してます。

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