ママ(♂)になるためには、第11歩
「レディ…もしや、呪いの影響が……?」
「いいえ!!全くもって!!」
ルーカス達についていた傷跡が、単なる虐待の跡ではなく呪付きと判明したため、ユウにも影響がと思ったが、当の本人から全力で否定された。
「しかし……」
「ルイ。ユウは大丈夫ですよ。さ、人の事より自分の事です」
「ほら、ルイ。口を開けて。まだ傷があるでしょう」
アズールとジルにも否定され、結局、ジルから差し出された薬をのせたスプーンを口に入れる。
「打撲跡もあるんですから、キリキリ口開けて下さい」
「うぅ……」
こういう時のジル容赦ない。飲み込んだと思ったら、即、次の分の薬を口に入れてくる。お薬嫌と子供のように言うわけではないが、この回復薬がとにかくまずい。ただせさえ、独特の青み臭さとエグミがあるのにそこに誰も求めていないトロミ感と甘みがあり、とにかく。
「まじゅい…」
「はいはい。あとちょっとだから、頑張りましょうねぇ。はい、あーん」
こんな嬉しくないあーんはいらない。声は優しいのに、手を容赦ない。私がもしこの先、ルーカスやミッシェルに薬を飲ませるときがきたら、絶対優しく慈愛の心でやろう。
「何言ってるんですか。こういうのは短時間でスパッとやる方がいいんですよ。はい、これで最後です」
「ウゥ……」
歯をくいしばって抵抗したが、全く無駄に終わり、隙間から入れられる。
「はい。飲み切りましたね。ルイ、お疲れ様でしたほら、お水でも飲んで」
静かに見守っていたアズールから差し出された水の入ったコップを遠慮なく頂く。あぁ、ただの水がこの上なく甘く感じる。
「さてと、話しを進めましょうか。ルイ、貴方、どの段階で呪いと判断しましたか?」
「…傷を、転移されたとき……。あとは、先程の、ポーションの、反応が……」
「あぁ、呪いの反応でしたか。」
昔から貴族のやっかみやら柵やらで、毒殺暗殺はもちろん呪いだって受けてきた。その度に神殿や神殿特製の聖水で作った呪いの解除の特製ができる回復薬にお世話になってきたが、その時と全く一緒だった。
「しかし、呪いまで転移できるとなると、厄介ですね。ユウ、貴女……。ユウ、ユウ?聞いてますか?」
「…ハッ!すみません、アズール様。その、ルイ様が大変良くエロ……いいえ!目のどく……いえ!」
え?私……?あ。
「申し訳ありません。レディ、大変見苦しい所をっ!」
回復薬の副作用で身体への若干の発熱と発汗作用があるため、シャツの胸元を開けてジルに汗を拭いてもらっていたが、確かに、女性の前でする事ではなかった。
「いいえ。大丈夫です!これは私の修行が足りないせいです!寧ろ、ご褒美というか…課金させてほしいというか…」
ご褒美…?課金…?
「ハァ。ユウ。落ち着きなさい。これでは話しが進みません」
「申し訳ありません、アズール様!もう大丈夫です!ええと、転移の時ですね…。特に異変はなかったです。いつも通りというか…。そもそも呪いというのを今初めて知りました」
「あぁ、貴女にはまだ話していませんでしたね。一般には出回っていませんが、証拠を残すことなく対象人物を確実に苦しめ殺しめることが出来る呪いというのは、主に貴族間で暗殺手段として普通にあります」
「そんなこと……」
もちろん、こんな事をしておいて呪った本人が無事なはずもなく、きっちり代償を払うことになる。それに、呪いによっては聖水なんて効かずに、最終手段の呪詛返しでしか解除できず、周囲を巻き込んでの大惨事なんてザラにあったりする。
今回はそこまでのモノではなかったのが幸いというべきなのだろうか。
「…そこまでして、あの子達を呪いたかったのかなぁ」
「ルイ」
「分からないんだ」
確かに仕事で家庭をちゃんと顧みることができず、彼女に家の事を任せっきりにしていたのは、私だ。それでも、偶にしか会えない子供達はいつも笑顔で、今だってとっても良い子達で。
私を恨み呪うならまだ分かる。でも、なぜ愛すべき子供達なのだろうか。そこまでの報いをうけるほどの罪とは一体なんだというのだろうか。
呪いは無くなったというのに、心の中に鬱々とした気持ちが広がる。
「自分の子供を呪う人間の気持ちなんて分からなくていいですよ」
「ジル…」
「貴方がママになるんでしょう」
「うん」
「大丈夫、俺もいますよ」
「うん、……ジル、ありがとう」
「はい」
本当にこの乳兄弟は心強い。ジルがいてくれて良かった。ポンポンと背中を優しくジルの温かく頼りのある手に身を任せる。
「……はい、二人ともそこまで。ユウもこの先、二人に関わっていくつもりなら慣れなさい。」
「は、はぃ…すみません」
アズールの言葉で、ユウを見れば、やはり鼻をティッシュを抑えていた。
「ともかく」
とアズールが言う。この人がいるとドンドン話しが進むから楽だ。
「今はまだ、聖女の力からして色々不明です。不明な事を憶測だけ話しても意味はありません。陛下にはとりあえず、今日のことを踏まえて近日中に報告しに参上すると伝えておい下さい」
「分かった伝えておく」
「宜しい。さ、子供達の所に戻りますよ。」
そういえば、今日は他にも用事があった。あんまり時間はないのを思い出す。
ジルに服を整えてもらい、子供達の元に行く。
「ルーカス、ミッシェル。迎えにきたよ〜」
「おとぅしゃー!」
一番に駆け寄ってきたミッシェルを抱きとめる。この子は呼ぶ度に全力で駆け寄ってきてくれて、とても可愛い。
「お父様!もう、帰るのですか?」
その後に、ルーカスがアランと手を繋いで駆け寄ってくる。
「うん。このあと用事があるし」
「そうですか…」
あぁ、そうか。
「また、遊びに来ようね。今度はアラン君に会いに。」
「はい!!アラン、また、遊ぼうね!」
「うん、いつでも来い。また遊ぼう」
ルーカスに友達ができて良かった。この短い時間でちゃんと友達になれるなんて、やっぱりうちの子供達は最高に素敵な子達だ。
「アラン君、ルーカスと仲良くなってありがとう。これからも宜しくね」
「いえ…こちこそ、宜しくお願いします」
「レディ・ユウ。今日はありがとうございました」
「とんでもないです!ルカ様!こちこそ、大変貴重なものをありがとうございました!!またお待ちしてます」
「ええ。こちこそ、またお会いしましょう」
どこかクールなアランに元気なユウにそれぞれ挨拶し、部屋を退室する。二人とはここまでだ。
「さ、行こうか。ジルが待ってる」
「外まで送りますよ」
先に乗り物の手配しにジルが神殿の外にいる。心配させてしまう前に、来た時と同じように、アズールに案内され外に向かう。
今度はミッシェルとルーカスで手を繋ぎながら、元気にあれしたい、これしたい、と次きたときの遊びを話している。
そんな中で。
「ルイ」
アズールに呼び寄せられたのは、神殿の出入口だった。唐突に肩を捕まれ、抱き寄せられる。
「アズール?」
「貴方の家族に何があったのか深くは聞きません。が、何かあればちゃんと頼りなさい」
「アズール…」
「伊達に国の神殿をやっているわけではありませんよ。貴方方、三人を匿ってを養うくらい造作もありません」
「……ジルとアルバートは?」
「あの二人はほっといても生きていけますよ」
「ふふッ。アズール、ありがとう」
相変わらずのアズールに思わず笑ってしまう。本当に私は友人に恵まれている。
「今度はちゃんと会いに来る」
「お待ちしております」
今度はお土産のチョコとブランデーを持って友人に会いに来よう。
アズールの補足。
アズールは、学校で言う所の委員長とか副会長を務めていそうなタイプです。基本きっちりしていますが、プライベートでは周りと一緒にはっちゃけるお茶目な一面があります。