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ママ(♂)になるためには、第10歩

1話分、使う程でもなかったのですが、どうしても入れたかったので、後半にユウ視点『壁になりたい』の話しがあります。

「さっ、ルイ。もうその辺で。アラン、お父様達はお仕事の話しがありますので二人ともう少し、遊んでいて下さい」

 アズールがテキパキと仕切る。彼の切り替えの速さはピカイチだ。

「ユウは、どうしますか?混ざりますか?」

「できれば、まざりたいです。お願いします」

「はい、では、一緒に来なさい。ほらほら、ジルも突っ立てないでルイを支えなさい。」

 アズールの言葉で、ジルが近寄って私を子供達から離して。

「あっ、ジル!別に抱き上げなくても……!」

抱き上げられた。軽々と。子供達の前なのに…!

「おとぅーしゃー…?」

ああ、ほらっ。華奢なレディなともかく、大の大人が軽々と抱き上げられているのをみて、ミッシェルが固まっているじゃないか。これは親として色々駄目だ。

「おろしてくれっ」

()がしたいんです。ちゃんと待てができた俺にご褒美はないんですか?」

 いや、それを言われると反論できないが。でも、これは色々マズイ!子供達の前なのに!

「はい、そこまで。このままでは進まないので別室行きますよ。アラン、お二人を頼みます」

「はい、お父様」

「え、お父様?あ、アラン」

「ルーカス、行こう。ご本の続きを読んであげる。ほらミッシェルも」

「私達も行きますよ」

 ルーカスとミッシェルがアランに連れられて向こうに行ってしまう。そして、私はジルに抱かれたまま部屋の外へと連れ出されてしまう。

「あ、ちょ、まっ。ルーカス!ミッシェル!すぐに迎えにくるから!」

 アズール親子の手際の良さに、そう言うしかなかった。

「全く人攫いになった気分ですよ」

 そう思うならジルを止めてくれ、アズール。


 連れてこられたすぐ隣の部屋は、先ほど違い、対照的にシンプルで必要最小限の物しか置いてなかった。

「ジル。ソファを使っていいですよ」

 先程から一言も話さないジルが、ソファに私を降ろしたと思ったら、そのまま胸元のリボンに手をかけて溶きはじめてしまう。

「まっ、まって。ジル」

「……何ですか?傷の具合をみたいんですけど」

 ジルの手は全く止まらない。でも、これは譲れない。

「分かっている。ジルの好きにしていいからっ。レディ・ユウを!」

「はい?」

「……彼女の、目線から、隠してほしい。……はずかしぃ……」

 使用人のメイド達に世話をされるのと違う。家族でもない一人の女性の前に素肌を見せるのは恥ずかしい。

「……ハァ〜~。……すみません、性急すぎました。落ち着きます」

「うん」

 やっと手を止めてくれたジルに頷く。きっと私の顔は真っ赤だ。顔が暑い。

「クックックッ。流石、ルイ。(ジル)の扱いを良くわかっている。ユウ?」

「はっ、はい!後ろ向いてますので、私の事はお気になさらず!気が利かなくて、すみません!」

「よろしい。では、私は薬でも持っていますよ。フフッ」

 何がおかしいのかアズールは笑いながら部屋を出ていく。部屋には、私達に背を向けて直立不動に立っているユウがいるだけだ。

「もう、良いですね?ルイ」

「ハイ」

 その事を確認したジルの手に今度こそ抵抗せず、服を脱いでいく。

「痛みは?」

「もう痛くないよ」

 シャツを脱ぎ素肌が晒されたらそこには、昨日お風呂で見たルーカスとミッシェルにあった傷がそのままそっくりある。

「本当に?」

 ジルの手が傷を確かめるようにその上を滑っていく。

「……ンッ。……ぅん、…ほんっとう、だよ」

「ここは?」

「ヒィャッ」

「ルイ?」

「ごめん…。ンッ、大丈夫。あのね、ジル」

「何ですか?」

 痛くはないけど、ジルの手が時々脇腹を擽るように動くから、意図せず変な声が出てしまう。なるべく堪えるようにしているが勝手に声は漏れるので、話すに話せない。

 ジルの手を上から掴み、動きを止めて貰う。

「本当に痛くないんだ。見た目は酷いけど痛みを感じない」

「ルイ、それは、アドレナリンがでてるだけです。交通事故を受けたのと同じなんですよ。ちゃんと理解してます?」

 そして、再びジルの手が肌の上を滑る。

「ンンッ………!アッ……」

 医療行為と分かっていても、変な声が出る自分に嫌になっている。これでは、痛み云々より羞恥しか感じない。

「ルイ。動かないでくだ―」

「はい!そこまで。いい加減になさい、ジル」

 いつの間にか戻ってきたアズールの声とともにジルの手がやっと止まった。

「ルイの顔が真っ赤でしょう。ルイもあまりジルを甘やかさずに、怒りなさい」

「……はい」

 冷静すぎるアズールの声に反論できず、頷く。

「ふむ。一応、最上級の回復薬(ポーション)を持ってきましたが、完全に消えないでしょうね。骨に違和感は?」

「ない。大丈夫だよ」

「幸いですね。さ、塗りますよ。泣けるくらい痛いですから覚悟しなさい」

「それは、俺がっ」

「駄目です。ジルは大人しく、ルイのクッション役にでもなってなさい。言ったでしょう?泣けるくらい痛いと」

「はい…」

 アズールに(たしな)められたジルがソファに腰をかけたので、遠慮なくその上の膝にのる。

「一番酷いのは背中ですね」

「うん…ッッ!!!アァッッ……」

 アズールへの返事は直に声にならない叫び声に変わる。先程、ユウに傷を移転されたときの数倍の痛みが走り、ジルにしがみつく。

「もう少しですよ。ルイ」

 遠くでアズールの声が聞こえる。目の前が極彩色になる。痛いのか熱いのか、分からない。

「…ィ…イ…ルイ、ルイ」

「…ハァハァハァ。…?ジ、ル?」

「はい。ジルです。ルイ、終わりましたよ。もう、大丈夫ですから」

 息を途中で止めていたのだろうか。まるで全速力で走った後のように息が荒い。話す余裕もなくゆっくりと頭を撫でるジルの手が心地良い。やっと全身の力を抜き、ジルにもたれる。

「お疲れ様でした。ルイ。後は、回復薬(ポーション)飲むだけで大丈夫でしょう。ジル、貴方に任せます。さてと」

 あぁ、テキパキといつも通りのこれだけはアズールにこれだけは伝えないと。

「ハァ…呪い…」

「ルイ?アズール先輩、待って下さい。ルイが」

「はい?どうしました?ルイ」

「…ハァハァ…アズール、(アレ)は、呪いだった」

 整わない声で伝えた言葉は酷くかすれていて、随分ひどい。

「なるほど」

 けど、優秀なアズールにはちゃんと伝わった。

「貴方がそうなら、間違いないでしょう。ユウ、こちらに。貴女の意見が聞きたい」

 ずっと壁のほうを向いていたユウを呼び寄せる。 

「はい!!」

「…………」

「…………………」

「……ユウ。まずは血を拭きなさい」

 良い返事で振り返った満面の笑みを浮かべるユウの鼻から血が流れていた。




【ユウ視点】『壁になりたい』

 決して下心はなかったのです。でも、まさかこんな事になるとは思いませんでした。

 聖女になれと孤児院から王都の聖殿に連れてこられ、そこで会った神官長のアズール様は、これが顔面国宝というお顔立ちで、そして息子のアラン君もまた、お父様のお顔の美しさをそのまま受け継ぎ、なるほどこれが貴族、と思わせる美しい親子でした。

 それでも私は生来の性格もあり、顔面国宝と一緒に生活することになっても今日まで冷静だったのです。

 だから、旦那様いえ敬意をもってルイ様と呼ばせて頂きますが、ルイ様と最初の挨拶のときも私は正気でした。

 が!!!!

「レディ。アズールから説明されていると思いますが、改めて私からお願いを」

 そんな、どこぞのお姫様のように、手を持たれて片膝をつき上目遣いのルイ様に魅力されない女子がいます?!?!?!

 確かに、アズール様やルイ様の息子様達と違いお顔のキラキラさはないですが、それでも、充分お美しいをお顔なんですよ!ルイ様は!!

 それなのに、そんな上目遣いとかっ!

「は、はい。もちろん、です。だんな、様」

 正直この時に、既にだいぶ理性はとんでいたと認めましょう。それでも、私はちゃんと受け答えをし、いつも通りその力を使いました。

 あぁ、ルイ様が苦しそう。

 とは思いましたが、それでも、ルイ様の為だと冷静に最後までやり遂げました。

 だから、アズール様の

「ユウは、どうしますか?混ざりますか?」

という提案にも、決して下心があった訳ではなく、「ジル様に抱っこされるルイ様尊い」なんて思わず、あくまで!純粋に!なにかお力になる事があるはずと思いついて行きました。

 でも!!!!!!!!!

 これは!!

 不可抗力でしょう!!!

 なんですか「ジルの好きにしていいから、レディだけにはっ…」って!「……はずかしい……」って!

 乙女ですか!?!?処女ですか!?!?

 こんなの、今どきの娘達だって言いませんよ!ルイ様!!

 なんで治療行為で服を脱がすくらいで、男性にしては可愛いらしいお顔を真っ赤にしているんですか!?

 ちょっと涙目なんですか!?


「……ンッ。……ぅん、…ほんっとう、だよ」

「ここは?」

「ヒィャッ」

「ルイ?」

「ごめん…。ンッ、大丈夫。あのね、ジル」

「何ですか?」


 ……って、音だけの情報になれば、それはそれでエロいし!!!

 え?え?私いるの分かってます?

 このルイ様のお声を聞いているの、ジル様だけじゃないんですよ!私、いますけど!!喧嘩売ってるんですか!!!!

 フー………。

 冷静になりましょう。ユウ。

 分かりました。分かりましたよ、ジル様!

 これは、牽制ですね!!

 『ルイは俺のモンだぜ』のアピールなんですね!!

 ハァ~。

 それならそうと、始めから言ってくだされば、いいのに。

 私は、そう、理解あるオタク。イケメンとイケメンがいちゃついているのに割って入るなどという無粋な真似は致しませんとも。

 ルイ様推し…いいえ、ここは敢えて、こう言わせて頂きます!ジルルイ推しと!!!

 神よ!誓わせて頂きます!

 私は、この先生涯をかけてジルルイを推し、布教していき、その未来を末永く守っていく事を!!たとえアンチが現れようと、この聖女という権力で薙ぎ倒し、祝福でお二人の道を照らし、死んだ暁には、お二人の愛の巣の壁となり、見守り続けると!!!

 あぁ、それにしても。

 背中越しに聞こえるルイ様のハァハァ声、滾るわ〜。何がとは言いませんが。

 アズール様が、泣くほど痛いって言ってましたもんね。それを泣かずに叫ばずに堪えるルイ様、偉い!!

 痛みにグッタリしているだろうルイ様を想像すると、お腹の中がキュンキュンしますわ〜。何もないですけど。 


「…ハァハァハァ。…?ジ、ル?」

「はい。ジルです。ルイ、終わりましたよ。もう、大丈夫ですから」


 えぇえぇ!全く見えませんが、心の目でジルルイを見れば分かります!

 これは、ジル様がルイ様をヨシヨシしているのでしょう?そうでしょう!

 聖女の勘がそう、告げています!!!


「…ハァハァ…アズール、(アレ)は、呪いだった」

「なるほど。」

 ハァハァのルイ様かわいい!!!

 じゃなくて。あ、なんか、真面目なお話している。

 これは真面目にならないといけない空気だ。

 推しにはご迷惑をおかけしない!これ鉄則!

「貴方がそうなら、間違いないでしょう。ユウ、こちらに。貴女の意見が聞きたい」

 そう、私は聖女です。

 冷静に落ち着いて、一つ深呼吸。

 たとえ、心の中は荒れていても、表面は穏やかに。


「はい!!」

「…………」

「…………………」

「……ユウ。まずは血を拭きなさい」


 ……オシ、ノ、マエデハ、ムリデシタ………。


ユウへの補足。

ユウは、『友達に誘われて特に興味のなかったライブに行ったら、最高に顔面偏差値の高い男達が楽しそうにキャッキャッしているのを最高の席でみて、さらに、自分にファンサまでくれて供給過多に限界なったオタク』だと思って下さい。

特に転生者やゲームヒロインとかいう設定はありませんが、聖女補正で現代オタク用語と知識の天啓がおりてきます。

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