ママ(♂)になるためには、第9歩
ユウへのお願いを完了したところで、ルーカス達を呼び寄せる。
「おとぅしゃー」
「おはよう。ミッシェル。元気だねぇ」
「ミシェー、げぇきよぉー」
突撃してきたミッシェルを抱きとめる。元気でなにより。
「アランが絵本読んでくれました。凄いです!アランは字が読めるんです!」
「そんなことない。ルーカスもすぐ読めるようになる」
「本当?僕も読めるようになる?」
「俺が教えてやる」
「絶対だよ!」
ルーカスにもアランという友達ができたみたいで、良かった。それにしても、ルーカスは文字は読めなかったか。いや、あんな環境で勉強できていたと言う方が不自然だ。罪滅ぼしにはならないが、せめて絶対に最高の先生をつけて、私も全力でサポートしなくては。
と、決心したところで。
「ルーカス。ミッシェル。聖女のレディ・ユウが今から祝福をくれる。二人とも、目を瞑って感謝のお祈りできるかな?」
「お父様、僕、できます!ミッシェル、こうするんだよ。こうを手を組んで…」
「にぃに、できたぁーよぉ」
「あ、違うよ。そうじゃなくて、こう」
ルーカスがミッシェルに教えている間に、ユウと軽い打ち合わせをしておこう。
「レディ。なにか、陣や結界等の準備はいりますか?」
「……いえ、大丈夫です。あ、念の為、背中とかで良いので、触れていて欲しいです」
「分かりました。大変な役目を押し付けますが、宜しくお願いします」
「いいえ!精一杯、頑張ります!!」
よし。こちらも大丈夫そうだ。そして、息子達も。
「お父様!準備できました!」
「おとぅしゃー。みてぇー」
「うんうん。できたねぇ。じゃ、二人とも目を瞑って…うん、上手。良いよって言うまで、開けてはだめだよ」
話しながら、二人の後ろにそっとまわり、背中に手をあてる。そして、目の前のユウに目線をむけ、そっと頷く。ユウが頷き返したことを確認し、私もそっと目を閉じる。
暗闇のなかで、最初に感じたのは強い衝撃に熱だった。その後に、酷い痛み。それが無限に続く。
「………ッ」
終わらない痛みに思わず上がる叫び声を意地でもこらえる。ルーカスにもミッシェルにも、古い傷跡からまだ治っていない傷まで無数にあった。それを全て引き受けると決めたのは、私自身だ。
――忌々しい子がぁ!!
――お前のせいでぇぇ!!!!
――お前がお前が、悪役なんてなるから!!
これは、ルーカスの記憶?
なぜ、あの女の声が聞こえる?
痛みで気が遠くなり、痛みで意識が戻る。その狭間で、忌々しいあの女の声が聞こえる。
「……終わりました」
気が狂いそうになる中で、ユウの声がポツリと響く。
……そういえば、この部屋は静寂だった。
「ルイ。もう、終わりましたよ。もう大丈夫」
続けてアズールの声が聞こえる。
目を、開けないと。
ジルが顰めっ面をしてこちらを見てるのがみえた。アズールは息子のアランの肩を押さえている。正面にいるユウが心配そうにこちらを見てる。
……ルーカスとミッシェルは、……まだ目を閉じてる。私が、良いよと言ってないから、まだ大人しくまっている。
本当に良い子達だ。自慢の息子達。
握っていた手を広げて、ゆっくり私の可愛い子達を抱き寄せる。
「もう大丈夫。目を開けて良いよ。愛しい子」
「お父様!」
「おとしゃー!」
愛おしい子達は目を開けてらすぐに抱きしめ返してくれた。
「よしよし。痛いところはないかな?おかしな所は?」
「ううん!ないです!」
「ミシェー、げんきよぉ!」
「本当に?」
「はい!本当です!!僕、とっても元気です!!」
「ミシェーも!!ミシェーもよぉ!」
「それなら良かった。私の可愛い子」
本当に良かった。二人が元気なら、私はなんだって平気なのだ。
「大好きだよ」
「僕も、僕も愛してます。お父様」
「ミシェーも、だぁいしゅきよぉー」