ホラーな洞穴 番外編【WEB】
ホラーな洞穴 番外編
暗雲立ち込める、しんしん雪降る九十九折。
夜道をゆっくり走る、壁からカラフルな木ノ子の生える肆畳半壱間の、おいらおいどん体験部屋を出た時は、恐らくピッカピカだったであろう、予約待ちで弐年半待ってようやく手に入れた、白いランクルの明かりが静かに闇の奥へと消えてゆく……。
あれあれあれ……久方ぶりに、いい男がやって来たんじゃない……?
いつぶりかしら……? 思い出さないけど……?
「は~い! ここでいったん休憩にするからねぇ! あっちこち徘徊したってほっとくかんね! しばらく自由行動しといてねぇ!」
「山の奥の洞穴へ、案内してくれるっていってたんじゃ……?」
「そうよそうよ! わたしたち何処へ行っていいのか分かんないんだから……?」
「早く案内してくれよ!」
ざわざわざわざわざわざわざわざわ……。
ジロッ!
「シャラップ! だまらっしゃい! わたしが休憩っつったら休憩なのよ! ここではわたしがルールブックなんだかんね! ぶ~垂れるんだったら案内しなくたって良いのよ? 勝手にそこらで野良にでもなれば良いのよ、あんたたちなんかさ! ふん!」
あっ! どこいった? あの久方ぶりのいい男は……?
「あれ……完全に迷っちまったな……? 道間違えたのか……? さっきんとこだったかな? 曲がるとこ? そんな雰囲気醸し出してたんだよなあ……? でも最新式のナビの奴がここ曲がれってしつこく言ってたしな……? 大雪過ぎなんだよ! 少し前までは毎シーズン来てたけど、久方ぶりだからな……それにしても雪は多いよな? 1000年に壱度の大寒波到来とか言ってたの当たったたりして? どか雪ってやつなんだろうな……多分?」
バサッバササ……サラサラサラサラ……。
「大丈夫かよ? 道細いし雪だらけだしガードレールないしガラス拭いても拭いてもくもってくるし……まいったなあ 最新のエアコンの調子悪い筈無いんだけどな……?」
あっ! いたいた! 迷い子ちゃんのようですねぇ! うふふふふふ……。
ふううううううううぅ~……。
まだまだ冷え込むわよ~っ! うふふふふふ……。
「も……う……だ……駄目……だ! ずっと我慢してたけど……もうとっくの昔に限界突破してんだよ! 500のペットじゃ収まる気がしないんだけど……? このナビの奴、確かにあそこで左って言ってたよな……? 今メッチャ経路さがしてるけど……? 登録してたんだけどな……? 前の車のナビの方がよかったな……? 本当にこの道であってんのかよ? この先、全然抜ける気しないんだけど……この峠? はああ~あ……余裕で着いてる時間なんだよ! もうとっくにさ! 露天風呂入ってわちゃわちゃしてる筈だったのに……もうみんな着いて、露天風呂でわちゃわちゃしてるんだろうな……くそ~っ! この最新のナビを信じたんだし、このまま突き進むしかないか……それより……どっか広いとこないかな……」
やがて、ブレーキランプがゆっくりと5回点灯して、少し広いすれ違い区間で車は停車しました。
バササササ……バササササ……パラパラパラパラと粉雪が舞い散る中、勢いよく飛び出す紅顔の美青年!
あれ? 5回点滅したの意味あるのかな……?
マジマジマジ! あのいい男が、こっち向かって走ってくるんだけど?
嘘! もしかしてわたしに遇いたくて迷ってた訳なの?
早く言ってくれれば優しく迎えてあげたのに!
わ……わたし……海の神でもあるし山の神様なのよ? 最近は誰も信仰してくれなくて、ホラーな洞穴の道案内とか、矢鱈とたのまれてるけど……わたしだって捨てたもんじゃないんだかんね! なになになに! いるんじゃないのよ! それに結構いい男だしさ。
キョロキョロ……キョロキョロ……こんな山奥に御不浄なんかないだろうしな。
「山の神さんとかおったら堪忍な、緊急事態なんやし多めに見といてな! おお寒! 限界突破の後の波の揺れ戻しに耐えて耐えてしてたから……解放感」
もあもあもわ~……。
「えっ!」
カッチ~ン!
「成る程、成る程、中々な肝っ玉ですこと! よくもよくも! わたしの目の前で……やってくれるじゃないのよ! はあ! 山の神さんおったら堪忍な? いるわよ! 目の前に……」
「あかん! とまらへんわ!」
ジロッ!
カッチン! カッチン!
もわもわもわもわもわもわもわ~……。
「はあああああああああああああぁ……助かったぁ……」
カッチン! カッチン! カッチン! カッチ~ン!
「あっ……あの~早く案内してもらえませんかねぇ……女神様! いつまで休憩してたらいいんですかね……?」
「五月蝿い! 今、それどころじゃないのよ! あそこに山の禁忌をおかした者がいるのよ! わたしの目の前でね! これはわたしに対するあらたなる挑戦なのかも知れないわね!」
ぶるるる……。
「う~う……さむさむ」
ふううううううううぅ……。
あれ……意識……が……とお……の……い……て……。
もあもあもわもわもわもわ~っ……。
「ねえあなた! わたしの唾付けといてあげるからね! や~ま!」
ちょん!
うふふふふふ……。
「きっと、もてもてだったんでしょうね! わたしのお唾付きになった、今の今からは、もう、もてもては卒業よ! 寂しい人生を終えたらまたわたしの元へ戻ってらっしゃいね! わたしを怒らせるからいけないんだかんね! プンプンだよ!」
「あの~…あれ? あいつの技量じゃ、この先むりだぜ!」
「あなたち見てしまったわね! あれ押して四畳半のここまで運ぶわよ!」
「えええええ……嫌ですけど? 山奥の洞穴に案内して下さいよ! わたしたちには関係ないでさから!」
「言ったでしょ! ここではわたしがルールブックだって! このまま野良になって 徘徊して、その内そこらの邪なものの肥やしになって吸収されればいいのよ!」
「なあ! 女神さんよ! 提案があんだけどよ! おれっち、あれ運転できっけど! いいナビ付けてるしさ行けると思うぜ! おれっちがこいつを見届けてまたここへ連れてきてやるさ! どうだい! やとってみねぇか?」
「採用! 裏切ったら、山の深いとことか海の深いとこ沈めるからね!」
「おっ! そんときゃ好きにしてくんな! へへへ! これ最新じゃん!」
ホラ~ホラ~……ホラホラホラ~……。