少女は「エウロパ」を見つめる
SF好きなので、全てSFのつもりです。「センス・オブ・ワンダー』が合言葉!
不思議な感覚の小説を作ります。残念なことに勉強不足で「転生もの」や「異世界もの」とかライトノベルはかけません。でも、簡単な言葉で綺麗な情景を描写するようにしている。
いやあ。ホント、流行に逆行します。
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最初は天体望遠鏡を月に向けた。今日は半月なのでクレーターが綺麗に見える。
お父さんが遺してくれた天体望遠鏡は高性能で小さくて軽い。寮に入る時に持って来れる荷物は限られていたがこの望遠鏡は三脚まで含めて鞄の下に入れられた。けれど、そのためにお母さんが用意してくれた裁縫箱は入らなかったけど。
木星も地球に接近している。
だから父の望遠鏡を持ち、学生寮を抜け出して森の淵までやってきた。修道院の敷地の中にある学校。生徒も先生も女ばかりだ。校長先生は副修道院長が兼務している。学生たちから「独裁者」と綽名されている彼女は先の王妃さまの妹だと言う。
本当かどうか私は知らないけど。
ここまで来ると辺りは暗闇に包まれ森の中から、静かな虫の声や得体の知れない動物の鳴声が聞こえる。
誰もいないってステキだな。そう思う。
上弦の月に木星が近づいてゆく。よく見ると木星の周りに小さな光が見える。
「初めて見えた」
ガレリオが見つけた四つの衛星が今日は綺麗に見える。
ワオ。すごい。
でも、どれがエウロパ?
明け方に帰ってきたところを早起きのシスターに見つかった。見つけたシスターは別名「魔女」すごい年寄りなのだがいつもニヤニヤと笑顔で杖をついている。
「あら。朝帰りね」
杖が地面に突き刺さる。まずい人に見つかった。寮母も兼ねていて学校では調理を教えている。腰が曲がり頭の位置が低いのでいつも上目遣いで生徒を見つめる。
告解室に入れられた。まずいな、修道院長が来るかもしれない。この学校を退学させられるとママががっかりするだろうな。女だてらに望遠鏡に夢中だった私を無理やりここに入学させたのはママだ。『良き花嫁、賢い母への学校』何代か前の王妃様が作った学校。ここを卒業すると貴族と結婚できると言われている。どんな子でもそうなるらしい。
「あなたがあの魔法使いの子供ね」
告解室の向こう側から声が聞こえた。小さな格子窓は閉められたままなので修道服の一部しか見えない。
「あなたも星の世界に行きたいのかしら」
魔法使いの子供か。いい呼び名だな。これからそう名乗ろう。
「はい、行きたいです。きっと父は今日もエウロパで地球へ戻りたいと魔法の乗り物を作っていると思います」
「あなたの父が国王様を騙して大金をせしめたことは知っています。あなたがここに入れたのは貴族であるお母様のおかげですよ。まったく従姉妹だと言うのになんであんなほら吹きを好きになったのかしら」
本当にそう、ママはとても可愛くて上品な人だ。一人で私を育ててくれた。その後何度も再婚の話があったが、その度に「あの人が帰ってくるから」と断っていた。元気だけは取り柄のような、家柄もよくない父とよく一緒になったものだ。
「星の世界へ行くなど夢のようなことを考えるのはもう終わりにしなさい。あなたはここで勉学に励んで良き花嫁、賢い母となるのです。それが女の幸せなのです」
「そうでしょうか。夢を見ることはいけないことでしょうか」
「あなたの父親をご覧なさい。星の世界から世にも珍しい宝物を持ってくると約束し、国王様から巨額の歳費を得て、悪魔の化身のような機械仕掛けの龍を作り、十年前にその機械を空へ放った後に行方しれずになっています。きっと、隣国の忌まわしいプラネリア王国へ行ったのです。しかもその機械仕掛けの悪魔のせいで王城は火に包まれ焼け落ちたのですよ。本来ならあなたの顔など見たくもありません」
あ、確かに、その火事のせいで王妃様は亡くなられたのだ。なんだが悪いような気がするな。
その時の光景は覚えている。父は巨大な細い塔のような乗り物を作り、その先端に小さな部屋を作って乗っていた。水晶の板でできた窓からオルハリコンで作った被り物をした父が見えた。
国王様を何年かがかりで説得してその乗り物を作るのに五年の歳月をかけた。星の世界に行くなんて夢物語か、ほら吹きの言うことだと何度も言われた。
王宮の前庭にその乗り物は運ばれ、数日がかりで組み立てられた。父は元々、金脈を探す仕事をしていたがその途中で星から来た金色の服を着た人に会ったことがそんなことを言い出すきっかけだったらしい。
その時にその金色の人からもらった子供の頭ほどもある黄金を国王様に献上し星へゆく船を作りたいと言ったのだ。
実はその時、金色の人から星へゆく船の設計図をもらったと子供だった自分にささやいた。
龍は空まで駆け上がったが、その時の炎が原因で王宮は火事になってしまった。悲しいことにその火事のために王妃様が亡くなってしまった。父はあっという間に悪人に仕立て上げられた。火災を見た隣国のプラネリア国が攻め入ってきたことも父が起こした火災と結び付けられた。
「分かりましたね。次に校則違反を犯したら、残念ですが放校処分にします」
「はーい。分かりました」
「なんだか軽い返事ね。お母様には報告させていただきます。この夏の休暇の間にこってりと怒られなさい」
いや、それはちょっと困るな。ママが怒るとちょっと怖い。
教会から出た時にはもうお昼休みの時間になっていた。朝ごはんも食べていない。学校は白い花崗岩の石積みでできている。例の火事が原因で火に強い建物が作られるようになった。そう、この花崗岩もお父さんが見つけたものなんだけどな。
食堂がある本講堂へ向かう。その時に空から大きな轟音が聞こえてきた。真東の空の上、光り輝く流星が見える。
「え。こんな昼間に」
轟音を聞きつけた生徒や修道女たちが建物から出てきた。
みんな、空を見上げている。巨大な光はやがていくつかに分裂した。小さなものは燃え尽きているようだ。
真っ直ぐに落ちてきた光がやがて小さくなり、白い塊に見えた。それは空を大きな縁を描いて螺旋状に落ちてくる。そして、一瞬白い煙が上がり、白い物体の上に花が咲いたように三つの輪が見えた。それは空気を受けて広がり、白い物体はゆっくりと地上へ向かって降りてきた。
空から降りてきたのは大きな釣鐘のような形をしたものだった。それは金色で覆われていて、あちこちから白い煙を吐いていた。そして白い大きな花のような帆で空気をうけてゆらりゆらりと王宮へ向かって降りて行った。
「パパだ!パパが帰ってきた‼︎」