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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
8/81

満華楼の女将

前回のあらすじ~

アオイがこっそり満華楼に帰って来るも、お見通しとばかりに女将さんが仁王立ちで現われた。

「なるほどね。うちの子が世話になったね。お代は店の方で持つよ」

「え? いいの?! 女将さん?!」


アオイが嬉しそうに手を組むが、


「あんたの借金につけとくだけだよ。ほら、さっさと仕度しな!」

「ぐぅ…」


渋い顔をしながら、アオイは店の奥へと入って行った。


「ボウズには飯だね。準備させるよ。金を用意するのも時間をおくれ。その間にそのボウズを風呂にでも突っ込んで来ておくれ。そんな臭いさせたままじゃ奥に上げられないよ」

「分かったー。風呂どこ?」

「この廊下行って突き当たりを右だ。確か今は誰もいなかったはずだよ。一応誰もいないか確認しておくれ。いくら恩人と言えど、只見はさせないよ?」

「えー…間違えてチラ見したりして…」

「こちとら体張って商売してんだ。もちろん見物料を頂くよ!」

「わー、俺より金にしっかりしてるー」

「その前にボウズ、ちょっとお待ち。これ食ってから風呂に入りな。中で倒れられても困るからね!」


奥に少し引っ込んで、女将さんが何かを持って出て来た。それをツナグの口に押し込む。


「甘い…」


饅頭のような菓子だった。

そして女将に追い立てられるようにして廊下を風呂へと進んだ。


「待ってろ、中を確認してくる」


何故かサーガが先に立ち、中を覗き込む。


「ち、やっぱり誰もいないか…」

「いたら困るのはそっちでしょう」


ツナグの冷徹なツッコみ。

脱衣所で服を脱ぎ、風呂場へと入る。


「…ガキじゃなかった…」

「何を言ってるんだ」


何を見ているんだ。


2人で洗いっこという名の水掛競争をしつつ、しっかり体を洗って湯船に浸かる。


「お客さん方ー、タオルと着替え、置いときますねー。時間も時間だから女将さんが泊まっていけとのことですー」


少し幼い声が脱衣所の方から聞こえて来た。


「あんがとー」

「え、さすがにそこまで…」

「いいから甘えとけって」

「どうしてそこまでずうずうしくなれるの」

「貰えるものは貰っとく主義」


それで先程目ン玉が飛び出るくらいの高額な物を只で頂いてしまったのに、懲りない奴である。

風呂から出ると、甚平のような軽い服が置かれていた。


「お、いいねいいね。動きやすくて過ごしやすい」


サーガが気に入ったのか、それを着て軽く体を動かす。


「・・・・・・」


ツナグは無言だった。

靴の代わりにサンダルまで用意されており、それを履く。

そして先程の裏口の所まで戻った。


「あ、お上がりになりました?」


先程の風呂場で聞いた声の主が、2人に気付いて声を掛けてくる。12歳くらいの可愛い女の子だった。


「どーも。良い湯でした」

「ご用意は出来ておりますのでご案内致します」


にっこり笑って先に立つ。廊下を進み、奥の一室に案内された。


「こちらに座ってお待ち下さい。すぐにお持ちします」


質素だがしっかりした造りの椅子に座る。すぐに女の子は出て行った。


「ふ~ん」


サーガがキョロキョロ辺りを眺め回す。華美過ぎず控え過ぎず、センスの良さが現われているような部屋だった。

ツナグは緊張したような面持ちで椅子に座っている。


「何固くなってるんだよ」

「え、だって…」


数時間前までスラムの片隅で縮こまっていた自分が何故こんなところにいるのか。風呂ではそこまで意識しなかったが、さすがにこんな部屋に通されるといやでも意識してしまう。


「お待たせしました~」


2人分の食事が運ばれてくる。てっきり残飯が適当に盛られて出てくると思っていたツナグは、その食事を見て目を丸くする。

ツナグの目の前に置かれたのは粥のようなもの。しかし刻んだ野菜などが見られ、明らかに手が込んでいる。サーガの前にはパンやスープといった物が並べられた。ステーキのような肉までついている。


「お、いただきま~す」


遠慮することなく、サーガはすぐにぱくついた。


「う、ま~い!」

「ありがとうございます」


女の子が嬉しそうに微笑む。

ツナグはなかなか手をつけようとしない。


「あ、何か苦手な物でもありました?」


女の子が気遣って声を掛けてきた。


「い、いえ!」


慌てて首を振り、スプーンに手を伸ばす。粥を掬って口の中に入れると、間違いなく手の込んだ味がした。わざわざ作ってくれたのか。

知らず、ツナグの目から涙が零れる。


「お、お客さん?」


女の子が慌てるが、


「いいからいいから。今は泣かせてやって」


なんでもないとサーガが女の子に手を振る。


「はあ…」


女の子は心配そうにしながらも、仕事があると言って部屋から出て行った。

ツナグは3日振りの食事、数年振りのまともな食事を、涙を零しながら完食した。














食事の後、サーガは女将に呼ばれ別室に。ツナグはベッドの用意が出来ていると、また別の部屋に連れて行かれた。


「ああ、来たかい。食事はどうだったね?」

「とても美味しかったです。ツナグの奴は涙零しながら食ってましたよ」

「そうかい」


なんでもないように言い捨て、サーガにソファに座るように促す。


「まずは、助けてくれたお礼からだね」


そう言ってサーガの前に革袋を差し出す。

サーガが中身を確認し、ニヤリと笑った。


「毎度」

「あんた、いける口かい?」

「嗜む程度には」


女将がニヤリと笑い、後ろの棚から酒らしきビンとコップを2つ出してくる。


「少し付き合っておくれな」

「喜んで」


注がれた酒を喉に流し込むと、体がかっと熱くなる。かなり酒精の強い酒なのかもしれない。


「あんた、銀月に喧嘩を売ったって? 怖くないのかい?」

「そも銀月って奴を知らんのでね」


女将もぐいぐい酒を煽る。サーガもつられてペースが早くなる。


「ヘタすりゃこの街でまともに生活出来なくなるかもしれないよ?」

「んなチンピラが怖くて傭兵…じゃなかった。冒険者が出来るかって」

「良い度胸してるじゃないか」


コップが空くとすぐに女将が酒を注ぐ。注がれたら飲まないわけにも行かない。


「銀月の親玉のテッドリーって奴はAランクに相当する実力者って話しだよ。Dランクのあんたじゃ相手するのは無謀じゃないかい?」

「強いのか?」

「強いね。腕っ節だけでのし上がった奴だからね」

「それは、面白そうだなぁ」


サーガは少し頭がふらついてきた。さすがにペースが早かったかもしれないとぼんやり考える。


「面白い、ね。強い奴と戦うのは好きなのかい?」

「好きだねぇ。今までに敵わなかった奴はいない…、いや、1人?」


誰かの顔が過ぎったような気がするが、思い出せない。


「あれ、いたっけかなぁ…」

「大した自信だね。女は好きかい?」

「ああ…大好きだ…」


なんだか目が回ってきた。


「そうかい。酒に呑まれてうちの子達に乱暴なんてしないでおくれよ」

「女の子に乱暴なんてしねー…」


ゴチン!


目の前が暗くなり、額をテーブルにぶつけた所で意識は途絶えた。
















「う~ん」


なんだかおでこがズキズキする…。

額に手を当てながら、サーガは体を起こした。


ん? 体を起こした?


記憶を辿る。体を横たえた覚えがない。いつの間にかベッドに入っていたらしい。というか、何故か裸だ。


「起きたの?」


横から女性の声がする。そちらに目を向けると、胸を布団で隠しながら起き上がるアオイがいた。


「え? あれ?」


お目々をぱちくりさせるサーガ。何故アオイがいるのか訳が分からない。


「やだ、覚えてないの? 昨夜のこと…」


アオイが少し迷惑そうな顔をしている。


「え? 何? 俺何かした?」

「女将さんと飲んで酔っ払って、あたしの所に突撃して来たのよ。「アオイと寝るんだー」みたいなこと叫んで。相手にしてたお客さんにも突っかかって、仕方ないから昨日は帰って貰ったのよ。誰もいなくなったらあたしに襲いかかってきて。酷い、あんなに激しいのあたし初めてだったのに、忘れたの?」


忘れる前に覚えていない。サーガの顔から血の気が引いていく。


「え? 本当に? マジ?」

「マジ本当」


アオイのシラけた目に晒されながら、サーガは一生懸命昨夜の事を思い出そうとするが、無理だった。


「それで、昨夜のお客さんを途中で帰らせた損害と、備品を壊した弁償と、あたしと一晩のお代…。合わせて200万くらいするけど、支払える?」

「ええ?! そ、そんな、アオイさんて、まさか…」

「あたし、ここで一番人気の娼婦なのよ」


アオイがにっこり笑う。

サーガは顔を引き攣らせた。


(やられた…!)


サーガは200万の借金を背負うことになった。


お読みいただきありがとうございます。


正月なので書き溜め中。出来るだけ放出して行きたいと思います。

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