魂の人質
前回のあらすじ~
「霧から逃れることはできねえだろ!!」
「できますけど?」
「お主?!」
クロムが瞬間移動で戻ると、その目の前でサーガが炎の蛇に飲み込まれた所だった。
「ひゃははははははは!! これで1匹!」
モードがギラリとクロムに視線を向ける。
「あとはてめえを片付けて…、そしたらあとは、全生物の殲滅だぁ」
ニタリと口角を上げる。
クロムがキョトンとした顔をする。
「神とは気配を読むことも出来ぬのかの?」
「ああん?」
問われてモードが訝しげな顔になる。そしてはっとして炎の塊に顔を向けた。
「な…、なんでこの中で、人間が生きてられるんだよ…」
「おいおいばらすなよ~。機を窺ってたのによ~」
「それはすまなんだの」
炎の塊から声が聞こえ、クロムが心のこもっていない返事を返す。
唐突に炎が四散する。そこには無傷のサーガがいつもの笑みを浮かべて立っていた。
「バカな! お前、人間じゃないのか?!」
「人間ですが?」
「先程も言っておったの」
「人間がどうして炎の中で生きていられる!」
「そりゃまあ、風だから」
「おい、説明になっておらぬぞ。もう少し丁寧に言わぬとこやつ分かっておらぬぞ」
さりげなく紫色の怪物達を影縛りしながら、クロムがサーガに注意する。まだパーツから個に戻っていないものたちがモゴモゴ蠢いている。
「え~めんどくさい。別にいーじゃん分からなくても」
「! この…! 吹き荒れる風よ! 俺の元へ集え!」
モードが風を集め、サーガに向かって放つ。
しかし風の刃はサーガの目の前で四散してしまう。
「な…何故…」
「だから風なんだってば」
「だから説明になっておらんの」
「く…この! 轟く大地よ! 俺の意に従え!」
「え? こういう所で地系の力使うのやばくない?」
サーガの呟きはまるっと無視され、地面が蠢き、サーガとクロムを狙うように鋭く尖った岩の槍が次々と生える。
それを器用に飛んで躱すサーガ。
「奴等も縫い止められておるが、よいのかの?」
クロムも瞬間移動などを駆使し、器用に避ける。しかし紫色の怪物達も巻き添えに合い、地面に縫い止められていた。
「この、ちょこまかと!」
モードが掌をサーガに向けると、岩の槍が空中に浮かび上がり、サーガに向かって突進する。
「きゃー!」
可愛くない悲鳴を上げながら、時に風の障壁で逸らしつつ、サーガが逃げる。
「地系は苦手なんだっつーの!」
「自分から弱点を吐いてどうする?!」
クロムが突っ込む。
もちろんだがモードがニタリと笑みを浮かべる。
「わざわざ弱点を教えてくれるとはな! これでどうだ!」
一点集中の槍だった物を、大きな岩へと作りかえる。そしてサーガを取り囲むように襲いかかった。
「ぎゃー!」
四方を岩で囲まれ逃げ場を失ってしまう。汚い悲鳴を上げ、サーガの姿が岩に覆われ見えなくなった。
「そのまま潰れてしまえ!」
モードが手を握りしめると、それに応えるように岩が密集し、嫌な音を上げた。
「ひゃははははははは!! 今度こそ…」
「我が輩を忘れてはおらぬか?」
「あん?」
声のした方を振り向けば、サーガの襟首を持ったクロムの姿。
「あんな狭い空間にこのような奴と一緒になりたくないので、できればその技はもう使わないで欲しいの」
「あれくらい大丈夫だったのに…」
「ほう、絶体絶命のピンチにも見えたが?」
「本家じゃないから、多分大丈夫…」
自信のない声。
「な…、てめえ…」
「我が輩、最初から力を使っていたはずだがの? 気付かぬかったかの?」
サーガが岩に取り囲まれた時、クロムが瞬間移動でサーガの元へ移動し、助け出したのだ。
「て、てめえら!!」
岩の塊を集め、2人に向かって打ち放つ。
サーガを残してクロムの姿が消えた。
「ちょ! 地系は苦手て!」
慌ててサーガが風の障壁で岩を防ぐ。
「我が輩も奥の手というものがあっての」
モードの背後から声が聞こえた。
「物質を切るのではなく、その空間そのものを切るという技なのだがの。故に、固かろうが柔らかかろうが、切れぬ物はないのだの」
体勢を整えようと振り向くモード。そのモードに向かって、クロムが足を振り上げる。
「が…」
モードの体が逆袈裟に切り裂かれる。
「! この!」
切り裂かれた部分から、紫色の怪物のような触手が伸び、すぐにくっついた。
「おや、その肉体も特別製かの?」
しかしダメージは負っているのか、モードの体がぐらつく。
「く…そ…。異邦人め…」
「首を落としても再生するのかの? それとも千々に切り裂いた方がいいかの?」
ドS剥き出しの視線をモードへ向ける。
「やだこの人、鬼畜…」
「お主もやったではないかの?」
サーガの呟きにクロムが突っ込む。確かにサーガ、紫色の怪物になり果てた暗殺者を一度細切れにしている。
「どれだけ切り裂けば死ぬのかの? さっさと終わらせて、彼奴も仕留めねばの」
それを効いて、モードがピクリと反応する。
「…そうだよな…。無関係な奴を連れてくるわけがねーよな…」
「? 何を…?」
「渦巻く水よ、俺の前に現われろ!」
「!」
モードの体の周りを水が渦巻いた。咄嗟に距離を取るクロム。
「なんのあがきかの?」
「俺に水は効かねーって言ったはずだけど?」
水が二手に分かれ、サーガとクロムに襲いかかる。
サーガは風で障壁を作り、難なくそれを躱す。クロムも瞬間移動を駆使して難なく躱す。
その間に、モードは走り始めていた。部屋の奥にあるもう一つの扉に向かって。
「どこへ…? 彼奴がおるのか?!」
察したクロムが瞬間移動でモードの元へと跳ぶ。しかしそれを予想していたのか、地面から岩の槍が生える。
「く…」
クロムが距離を取る。モードは扉を破壊し、中へと駆け込んだ。
「ち…」
瞬間移動は見えている範囲か、一度行った場所でなければ跳ぶ事は出来ない。つまり見たことがない部屋の中へいきなり跳ぶ事は出来ない。
「何…? きゃっ!!」
中から女性の悲鳴が聞こえた。
「! 八重子!」
思わずクロムが声を張り上げる。聞こえた声音は遙か昔に聞いていた、あの懐かしい人の声。
クロムが部屋に駆け込むと、モードが白い聖服に身を包んだ女性にもたれかかっていた。
「・・・!」
クロムが言葉を失う。
黒い瞳、黒い髪。絶世の美人とは言えないが、可愛いとは言えるそこそこ需要のある容姿。遙か昔、自分が妖しの者となった頃より寄り添っていたその人の懐かしい姿がそこにあった。
「八重子…」
懐かしい名前が口から滑り出る。
しかし、その女性はクロムを見ると、ニヤリと顔を歪ませた。
「やっぱり、この魂の関係者か」
「ぬ?!」
元の女性ならば決して見せることはない邪悪なその顔。クロムが眉を顰める。
モードが宿っていた赤髪の女の体を乱暴に放り捨てた。
「こいつを取り戻しに来たんだな? ひひひっ。残念だったな。このまま俺ごとこいつを殺したら、俺はこの魂を連れてまた逃げるぜ?」
「ぬう?!」
「この魂があれば、俺はまた同じ事を繰り返せる。体なんぞはどうにでもなるからなぁ」
ひひひひひと下卑た笑いを浮かべる。それはクロムの知っているその人が浮かべる顔では無かった。
「お主…、八重子を…!」
クロムの目的は、八重子の魂を元の世界に連れ帰ることだ。それがこのままこの体を殺してしまえば、八重子の魂が邪神に奪われたままになってしまう。
この世界のどこかに再び八重子が転生したとして、果たしてクロムがそれを追えるのか分からない。
この世界の神でさえ、その行方を特定することは難しかったというのに。
「殺してみろよ? この魂は俺様が一緒に連れて行くけどな?」
ぎゃははははと女性に憑依したモードが笑う。
「ぬう…!」
クロムの足が下がる。今のクロムでは為す術がない。
(何故妖の頃の我が輩を連れて来なかった!)
人となってしまったが為に出来なくなったことは多い。妖しの者であったならば、魂を食って選別することが出来たかもしれない。
何か時間の流れの制限でもあったのだろうか。悔やんでも悩んでもどうすることもできない。
「ほらあ! やってみろよ!!」
再び地の力を喚んだモードが、岩の塊をクロムに向かって放った。
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