影縛り
前回のあらすじ~
赤髪…赤髪…赤髪…
呼び起こされる記憶…。
「胸が足りねえ!」
突き刺さる視線。
「ち、これがあいつらが用意したコマか。だがその肉の体でこいつらの攻撃を受け続けられるのか?! 行け!」
風で足止めを食っていた紫色の怪物達が、風が止んだのを見計らい、再びサーガ達に襲いかかる。
「影縛り」
クロムが言葉を発した途端、3体の怪物がピタリと動かなくなった。
「ふうむ。人の体ではこれが限度かの。後の2体は頼んだの」
「お前こんなことまでできんのかよ」
「魔法にも似たような魔法があったはずだがの? 「シャドウスナップ」とかいう…」
「知らんがな。俺は足止めは苦手よ?」
言いつつ、クロムから愛剣を手渡されたサーガが、ル○ンもかくやというばかりに素早い動きで上着を脱ぎ捨てた。そして一瞬の間に動きを止められていない2体の足を切り落としてしまった。
「マリエラ殿にはこれだの」
「うむ。助かる」
クロムがどこに持っていたのか、マリエラの愛戦斧を手渡す。後ろに控えていた騎士達も前に出、それぞれにクロムから手渡された愛剣を構える。腰に佩いていた剣は儀式用のお飾り剣なので、邪魔だとばかりに腰から外す。そしてクロムに手渡していた。儀式用だからね。何気に高価なものだからね。傷つけたら大変だからね。結構お高めだからね。
「ははは! 切っても無駄だぜ!」
モードの高笑いに反応するかのように、紫色の怪物達の足からすぐに触手のようなものがウニョウニョと伸びてきて、切られた足とすぐに合体してしまう。
動きやすいようにとマリエラはドレスの前部分を大胆に斧でカットしてしまう。綺麗なおみ足が丸見えになる。
「よいな! 打ち合わせ通りにするのだ!」
「「「「は!」」」」
騎士達が散開し、マリエラも一番端の一体に切り込む。
「はああ!」
斬られた足がくっつき、ようやっと動けるようになった化け物に、すかさず斧を振り下ろす。綺麗に切り取られた右腕が飛んだ。
騎士達も切りつけ、その度に足が飛んだり腕がもげたりしている。さすがはマリエラの選んだ者達と言おうか。
「スカートで戦う美女か…。見えそで見えない…。なんて興奮する景色…」
アホな事を呟きつつも、もう一体の動いている化け物を縦に一閃。右と左に切り分けてしまう。
「我が輩ちときついから、もう一体解放しても良いかの?」
サーガにジト目を送りながら、クロムが3体のうちの一体を解放してしまう。
「なんで俺の仕事増やしてるわけ?」
「何故我が輩が多く背負わなければならぬ?」
解放された一体は何故かサーガ目がけて走り寄る。
「元が人だけに多少の催眠は効くようだの」
クロムの仕業のようだ。
「なんで俺ー!」
文句を言いつつ、器用に上下真っ二つに切り裂いてしまう。
下半身だけがのたのた動き回っているのはなんともシュールな光景だ。
「ちっ! てめえら! もたもたしてんじゃねえ! とっととそいつら叩き潰せ!」
モードが焦れたように叫ぶ。
しかし紫色の怪物達は同じような突貫攻撃を繰り返すばかり。体の改造ばかりを考え、知能を持たせなかったのがいけなかったようだ。
マリエラ達は5対1ながらも善戦しているし、サーガも2対1ながらも軽くあしらっている。
「なんでてめえ動かねえのよ?」
戦い初めてからその場を動かないクロムに、サーガが問いかけた。この男ならば1人観戦しているモードの所へ一瞬で移動してその寝首を掻くくらい造作もないだろう。
「うむ。この技には弱点があってのう」
「弱点?」
「縛っている間、我が輩も影に触れていなければならぬので動けぬのよ」
「・・・。なんで使ったんだよ」
「とりあえず足止めになればとの。こやつら、稼働時間があるのであろう?」
「俺が相手したやつはそうだったけど」
「ひゃーははは! 残念だったな!」
サーガ達の会話が聞こえていたのか、モードが高らかに笑う。
「こいつらの稼働時間が短いことなど先刻承知! だからもっと長い時間動くように改良を重ねたんだ! この新型であればこいつらは一昼夜は動き続けることが出来るぜ!」
「何?!」
マリエラと騎士達の顔色が悪くなる。短時間であればマリエラ達だけでも対処出来るであろうと踏んでの作戦だ。一昼夜もこんな化け物を相手にしていては体力が保たない。
「あらまあ」
「ほう」
サーガとクロムが目を合わせる。挟み撃ちにされても面倒だと先に紫色の怪物達を片付ける気ではいたのだが。
「だったらとっとと頭取るか~」
「彼奴の始末もせねばならぬしの」
一瞬の間に、サーガが相手にしていた2体が手足を切り飛ばされ地面に転がり、クロムが縛っていた2体も縦に5つに切り裂かれた。
「あ?」
それは勘なのか、神の知覚による反応なのか、モードは咄嗟に体の周りに障壁を張った。
前から胴体を切り裂かんとばかりにサーガの剣が迫った。
後ろから首を蹴り飛ばさんとばかりにクロムの足が迫った。
攻撃は防いだもののその衝撃は大きく、モードは体をくの字に折り曲げ、祭壇を巻き込みながら壁へと叩きつけられた。
「ち、もっと魔力込めれば良かったか」
「防御魔法というやつかの。存外丈夫なものだの」
何個かのパーツに分けられた紫色の怪物達が藻掻いている。クロムが地に足を付けると同時に再び影縛りをかけたようで、触手達が絡みあおうとしているのに動く気配がなくなった。
マリエラ達はサーガ達の動きに圧倒されつつも、難なく怪物の相手をしている。
「く…そ…」
衝撃を防ぎきれなかったモードがふらつきながらも立ち上がる。
「てめえら…本当に人間か?」
当然の疑問を投げかける。
「人間だが?」
(中の魂は風の神の力の一部によって出来ているが)
「人間だの?」
(中の魂は元強力な妖のものであるが)
肉体は正真正銘人間である。
「けっ。使徒に選ばれるだけはあるか…。いいだろう。俺様が直々に相手してやる」
モードの目つきが剣呑なものになる。
「ふむ。サーガよ。しばし1人で相手を頼むぞ」
「あん?」
「我が輩はマリエラ殿達を避難させて来るでの」
「ああん?」
言うが早いか、クロムの姿が消える。
マリエラ達の方から「わ!」とか「きゃ!」とか聞こえるので、そちらに姿を現わしたのだろう。
「いやちょっと待て。あいつらも動き出すだろうが」
サーガもクロムが紫色の怪物達を射止めていたことは勘付いている。それがなくなるということは…。
「うがあああああ!」
マリエラ達の相手していた比較的元気な奴が突っ込んで来た。他も続々パーツから個へと戻って行く。
「猛炎よ。俺の喚び声に応えろ!」
モードの周りを火炎が取り囲んだ。
「あらやだ~。あいつと同じ属性かよ」
サーガの知っている同じ赤髪の女性の顔が浮かぶ。
「まあ、あいつは優しすぎて人を傷つけるのに躊躇いがあったけどな」
サーガの知っている女性はその世界で一番の攻撃力、破壊力のある力を持っていたが、だからこそ人を傷つける事を恐れている優しい女性だった。
「ま、似てるのは髪だけだし。斬るのに躊躇いはいらないな」
「がああああ!」
迫った紫色の怪物の首を跳ね上げると同時に、モードへと迫る。
「肉体を持つ者は必ず死ぬものだ!」
モードの声に反応するように燃え盛る炎が生き物のように動き、サーガに襲いかかる。
「肉の体で炎は防げまい! 死ねえええ!!」
サーガの姿が炎に包まれ見えなくなった。
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