結婚しよう
前回のあらすじ~
「どうやって稼いだかというとだの…」
「ふむふむ」
「秘密」
「てめー! 表に出ろ!」
「なんでも聖女様ってのは王族とか偉い貴族とかが結婚した時なんかに祝福を与えるために大聖堂までは出てくるらしいぜ」
大聖堂。聖宮ほどではないが結界はある。だがそこまでならば行けない事もない。
「王族や貴族の結婚かの…。まるで心当たりがないの。近々そんな話でもあるのかの?」
「いんや。さっぱり」
「では話にならぬではないか」
「そーね」
眠たそうにサーガがベッドにゴロリと横になる。
「やっぱ難しそうだ、諦めたら?」
「ん? 待て。この国に王族などおったかの?」
「ないと思ったけど?」
聖教国にあるのは5賢老と呼ばれる組織だ。そのトップにいる5人が国政を担っているらしい。
「では王族とはなんのことだの?」
「ああ、諸国連合とかの亜人排斥派の国の王族には祝福を与えてやるんだとさ。差別が激しーわね」
クロムが考え込む。
「つまり、帝国も、ということかの?」
「…知らね」
サーガがクロムに背を向けるように寝返りをうつ。
クロムがその背中を見やる。
「時にお主、帝国で指名手配されとるようだがの」
サーガの背中が微かにギクリと動く。
「そ、そんなこともあったかな~…」
「ほうほう。なるほど。勝手に貢物にされていたと…」
サーガがガバリと身を起こした。
「な、なんでお前知って…」
「我が輩の力のことは話したであろう」
「……」
「しかもそうやって表立って考えてくれると余程読みやすい。なるほど。それでそんなことに…」
「ま、ちょ、やめろ! 勝手に人の記憶見るんじゃねー!」
慌てて顔の前で腕を交差させる。それで防げるとでも言うかのように。
「普段はやらぬがの。今はなりふり構っておられぬわ。なるほどこれは使えそうだの」
クロムがニヤリと笑う。
「な、なんだよ…」
「お主がその女帝と結婚すれば良い」
「じょうっだんじゃねーや!!!」
お隣3件先まで響き渡りそうな大声を上げるサーガ。
「誰がするかそんなもん! 俺は絶対にやらねーからな!」
「1番手っ取り早い方法だがの」
「嫌ですー。俺は絶対にやりませんー」
「別に本当にしろと言っているわけではない。フリでよいのだ」
「フリでもやだ」
「確かに女帝ともあろうものがフリでも結婚式などしてはくれぬか…」
「そうですー無理ですー」
「まあ案ずるな」
クロムがポンと手を叩く。
「いざとなれば我が輩が暗示をかけてしまえばよい」
「お前…本当になりふり構わなくなって来たな…」
「帝国には悪いがその女帝使わせてもらおう。してお主が夫として大聖堂に潜り込み、我が輩も従者として入るかそれとも影に潜むか…」
「おい。なんで結婚する前提で話してるんだよ」
「もちろん。するからであろうがの」
クロムの瞳が金色に光った。
翌日。
帝都の城の大門の前に、黒ずくめの男がやって来た。その肩には簀巻きにされた人を担いでいる。
「何用か?!」
門番の兵士が尋ねる。
「うむ。指名手配されていた男を掴まえてきてやったのだの。是非女帝に会わせて欲しい」
金に光る男の目を見て、門番の兵士が構えていた槍を下ろす。
「分かった…。奥に伝えてこよう…」
フラフラと城の中へと歩いて行く門番。
口元にあるかないかの微笑みを浮かべつつ、クロムはその背を見送った。
驚くべき速さで女帝との面会の場は整えられた。
謁見の間へと通され、クロムは肩に担いでいた人物を床に降ろし、跪いた。
すぐに女帝マリエラ・エメルラス・ユーステッド・ドルトンが姿を現わした。
「私がマリエラ・エメルラス・ユーステッド・ドルトンだ。その方が指名手配の男を連れてきたと?」
「は。私はクロムと申します。街中で手配中の男を見つけましたので、掴まえて連れて参りました」
下を向いていた顔を上げると、女帝を含めその場にいた者達が息を飲んだ。エルフに負けず劣らずのその美貌に。
「そ、そ、そうか…。それでは、その方には褒美を与えよう…」
「恐れながら、その褒美についてお願いがございます」
「お願い、とな?」
「は。出来れば他の者には聞かれたくありませんので、マリエラ様と2人きりにさせていただけないかと」
クロムの瞳が金の輝きを増す。
「よかろう。お前達、少し下がっておれ」
「し、しかし…」
「私の言うことが聞けないのか?」
女帝に睨まれ、側仕えから大臣から兵士まで、皆謁見の間から出て行った。
誰もいなくなった事を確認したクロムが話し出す。
「お聞き届け頂き、誠に感謝いたします」
「よい。して、お願いとは?」
「その前に確認したいことがございます。マリエラ様はこの男と結婚をしたいとお考えと?」
床に転がされたままのサーガを見る。何故かサーガはピクリとも動かない。
「一度手合わせしてから考えたいと思っている。私は私よりも弱い男に身を任せる気はない」
「なるほど。まあその点では心配はございませんでしょう。それともう一つ。マリエラ様は聖教国と事を構える覚悟はおありか?」
マリエラの目が鋭く細められる。
「その方、何を言っておる?」
「是非、私共の|謀〈はかりごと〉に手を貸して頂きたいのです。事が上手く行きますれば、今お考えになっている獣王国とのことも容易に事を進められるようになりましょう」
「…その方、何を知っている?」
マリエラの目に警戒の光が灯る。
「全て、とは行きませぬが、聖教国が帝国にもその魔手を伸ばしている事くらいは」
マリエラが思わず立ち上がった。
「…そうか」
そう呟くと、再びゆっくりと腰を下ろした。
「とりあえず、詳しい話を聞いてみようではないか?」
「は。私が手に入れ情報によりますれば…」
「っだああああああああ!」
ようやく身動きが取れるようになった途端、サーガが声を張り上げる。
「てんめえ! 俺に何しやがった!」
クロムに掴みかかる。
「金縛りの術をかけただけだの。お主には催眠はあまり効きそうにはないようでの」
「てんめえ!」
サーガが殴りかかるも、クロムはそれを片手で受け止める。
「ほう、自由がなくなると力が落ちるとは、本当の事のようだの」
「のやろう! はっ倒してやる!」
「それはあちらの御仁とやってからだの」
「だからなんで俺が女と戦わにゃならねーんだよ!」
「それがあの御仁の願いとなれば仕方なかろう」
まだ謁見の間にいる3人。練兵所まで行っても良かったのだが、ここもそこそこ広さもあるし、出来れば他の者に知られる前にサーガの実力を知りたいということで、ここで戦う事になった。
サーガには意味が分からない。
「サーガとやら。早速手合わせ願おうではないか」
自分の戦斧を持ってきたマリエラが、楽しそうにサーガに向かって構えている。
帝国の王帝一族は実力主義と専らの噂である。
サーガは嫌そうな顔でマリエラを見る。
「あんまり女と戦うのは趣味じゃねーんだが…」
「私をそこら辺の女と同じように思っては困る。これでもこの国をのし上がった実力はある!」
胸を張り、高らかに宣言するマリエラ。どうやらこの国では実力も伴わせていないと皇帝の椅子には座れないらしい。
「逃げても無駄ぞ? 我が輩がすぐに掴まえに行くでの」
襟首を掴まれたままのクロムがニコニコとサーガに言う。サーガは渋い顔をしてクロムを睨みつつ、その手を放した。
「あ~あ、やらなきゃならんのね。はいはい」
サーガがマリエラに向き直った。
「しょ~がねえな。軽く結界張っといてやっか」
サーガが軽くトン、と床を足で叩く。次の瞬間、謁見の間の空気が変わった。
(ほう。さすがは風。今の一瞬でここまでのことを…)
クロムが内心感心している間に、スタスタとサーガがマリエラと距離を詰める。
「ほいじゃ、ほれ、かかっておいでなさい」
「貴様は剣を抜かぬのか?」
剣に手を掛けようともしないサーガをマリエラが睨む。
「そんな戦斧でまともにやりあったら下手すりゃ剣が折れちまう。高かったんだぞこの剣! それに、あんたなら抜かなくても勝てそうだし」
「なにを…」
まさに舐められていると感じ、マリエラが戦斧を握る手に力を込めた。
「せいぜい後悔しないことだな!」
マリエラが戦斧を振り上げ、サーガに勢いよく振り下ろす。
しかし戦斧はサーガにかすりもせず、サーガはニタニタと笑いながらマリエラの背後に回った。
「この!」
横薙ぎに戦斧を後ろに回すが、やはりかすりもしない。
「うっわ。もしかしてあんた処○?! え? 王族とかってもっと結婚とか早くなかったっけ?」
何故かマリエラの後ろについたまま、しかもしゃがんでマリエラのお尻を眺めている。
「こいつ!」
その後も戦斧を振り回すが、まったくかすりもしない。サーガはおちょくるようにマリエラのお尻や胸をこれ見よがしに眺め回す。
「こ、この!」
何度目か振り下ろした戦斧をやはりすり抜け、サーガがマリエラの背後に立つ。
「ここらへんなんか弱そう」
とつつーっと首筋に指を走らせた。
「ひぅっ?!」
突然の刺激に、マリエラがおかしな声を出して首筋を押さえた。
「な、何をする!」
サーガを睨み付けるが、サーガはニタニタした顔のまま。
「あらら~。顔真っ赤にしちゃって。可愛いじゃないの~」
「この! 破廉恥な!」
もはや戦いも忘れ、とにかくこの破廉恥極まりない男に一撃を加えねばと戦斧を振るうが、やはり当たらない。
「はあ…、はあ…、はあ…」
「おや、やっと息切れしてきたか~。確かに、普通の女の子よりは強いわね~」
サーガはしれっとした顔をして、まだまだ余裕そうである。
「な、何故、当たらぬ…」
マリエラの戦斧の速さは普通のものならば容易く躱せるものではない。しかしサーガは普通の者とは違い、規格外であった。
「負けを認める?」
サーガがニヤリとマリエラに尋ねる。
「…! いやまだ! まだ倒れてはおらぬ!」
「倒せばいいわけ?」
再び戦斧を構えようとしたマリエラの前からサーガの姿が消える。
「え…?」
途端に、膝が後ろから押され、そのまま倒れそうになった。
「な…?」
突然膝カックンをされ、そのまま後ろに倒れそうになった。が、途中でがしっと受け止められる。
「これで倒したってことにならん? いい加減俺腹減ってきたんだけど」
そんなサーガのとぼけた顔を下から見つめ、マリエラはふっと笑みを零した。
「ああ。参った。私の負けだ…」
「そ。良かった。あ~あ。しかし、これでフリとはいえ、結婚か~」
サーガが嫌そうに溜息を吐く。
と、マリエラが腕を伸ばしサーガの首筋に絡めると、サーガの唇に自分の唇を押しつけた。
「んん?!」
突然の行動に、サーガが目を白黒させる。
マリエラが唇を離し、熱っぽい目でサーガを見つめる。
「フリでなくとも私は良いぞ?」
「いえ! フリで結構です! ちょ、離して! て、お前! クロム! 助けろよ!」
「いや~、若い者達の邪魔をしてはいかんの~」
クロムは背を向ける。
「おいてめえ! いや、ちょっと、離して~!」
サーガがマリエラといちゃつくのを他所に、クロムは謁見の間を見渡して感心していた。
(結界を張ったとは、そういうことかの)
あれだけの戦闘があったというのに、床にも壁にも柱にも傷1つついていない。
風の結界で建物の損傷を防いでいたらしい。
(能力だけを見れば確かに優秀な者ではあるの)
その戦い方が女性の体を隅々までジロジロ眺め回すという不快なものであっても。
「サーガよ。今宵は私の寝所に来るのだぞ?」
「遠慮します!」
サーガが即答する。
「クロムよ。連れて参れよ」
「かしこまりました」
女帝マリエラの言葉に、まるで臣下のようにクロムが腰を折る。
サーガに逃げ場はなかった。
お読みいただきありがとうございます。




