ぽかん
前回のあらすじ~
「「御使い様!!」」
「うむ。くるしゅうない」
「俺も御使いじゃなかったっけ?」
「あら? サーガさ…」
通りかかったアカネが、サーガの斜め後ろに立つ人物を見てポカンとなる。
サーガは面白くない。
ここまでの道程でも皆サーガがいることなど忘れたかのように、道行く人達の視線がクロムに釘付けになっていたからだ。
断じて背が低いからではない。
美の神に愛された者と言われて、思わず納得してしまうほどの美形なのである。サーガは女性の美形は好きだが男の美形は嫌いだ。背の高さも相まって、完全に自分が蚊帳の外になってしまうからだ。そんなのが隣にいるのだ。面白くない。
「アカネさん? サーガさんですか…」
続いてやってきたツナグさえも、クロムの姿を見てポカンとなった。
「おーい? 女将さんにちょっと用事があるんだけど、いる?」
ポカンとしている2人の顔の前で手を振ると、2人がハッとなる。
「い、いらっしゃいます。執務室の方に…」
「ん。じゃ勝手に入らせてもらうわ」
とサーガは勝手知ったるという風に奥へと進む。クロムは元々あるかないか浮かべていた微笑を、ハッキリ2人の方を見て微笑んだ。
2人は顔を赤くして、さらにぽかんと固まってしまったのだった。
「女将さーん。客連れてきたよー」
ノックをし、返事も待たずに扉を開ける。
「客? なんだい珍しいね…」
開いた扉から入って来たサーガを見、その後ろから姿を見せたクロムを見て、女将さんもポカンとなる。
まあそうなるだろうとは思っていたが、内心面白くない。
「女将さーん?」
「え? あ、ああ…。お前さんにこんな綺麗どころの知り合いがいたとはね…」
女将さんの顔が若干赤くなっている気もするが、目の錯覚だろうと思うことにする。
「勝手に纏わり付いてくるガキ…いや、他人なんだけどね」
知り合いと言うほど知ってもいない。
「女将殿。急な訪問で失礼とは思うが、こちらも急を要する故、突然の訪問をお許し願いたい」
礼儀正しく頭を垂れる。
「確かに、あんたの知り合いではなさそうだね…」
「どーいう意味かしら?」
「あんたと違って礼儀正しすぎる」
サーガは唇を尖らせるが、確かに礼儀はあまりなっていない自覚はある。
「急なことだと言ったね。あたしに何用だい?」
「うむ。実は…」
クロムが説明し始める。
「…そこまでは考えていなかったね」
女将さんが顔を青ざめさせる。
「てっきり麻薬を精製するためだと思っていたが…。亜人を含む擁護派の人間の殲滅か…。あの国の人間ならば考えつきそうなことだよ」
「何か判別出来る試薬などあればとも思ったのだがの」
「あたしの伝手に話を通しておくよ。サーガ、もちろんだが、この話ギルドへ上げに行くんだろうね?」
元よりそんな感じの依頼を受けていたし、この後に行くつもりではあった。
「心配せんでも行きますよ。信用ないなぁ俺」
「女将殿。我が輩が確実に送り届けよう」
「それは有り難い。頼むよ」
初対面なのにクロムへの信頼感が半端ない。
2人は満華楼を後にし、ギルドへと向かう。
「あら、サーガさん…」
当然の反応のようにサララの動きも止まってポカンとなる。
「サララさ~ん? ギルマスに話があるんだけど~? 今大丈夫かしら~?」
サララの目の前で手を振ると、ハッとなったサララが慌てて髪を整えたり服装を整えたりする。
「は、はい。今聞いて参りますね」
今までに見たことのない輝くような笑顔で、サーガに、というよりもクロムに笑いかけるようにして奥へと引っ込んだ。
「俺の前ではあんなことしなかったのに…」
サーガは苦笑いする。
ギルド内の空気もどこかソワソワ、特に女性が身嗜みに気を使っている。そして特に女性がチラチラとクロムの方へ視線を投げかけている。クロムは涼しい顔でそれを受け流している。如何にも慣れた感じだ。
「けっ。魅了系の魔法でも使ってるんじゃねーの」
サーガが面白く無さそうに吐き出す。
「いや。我が輩が美しすぎるのが罪なのだろうの。困ったの」
まるで困った様子もなく、頬に手を当て溜息を吐く。その姿もまるで絵画のように美しい。
そこへサララが足早に戻って来て、にっこりと2人に(主にクロムに向けて)笑いかけた。
「お会いになるそうです」
サララの後に続いてギルマスの部屋へと行くと、ギルマスも同じようにポカンと固まった。
(いい加減見飽きたな)
あまりのお決まりの光景にサーガが思った。
「た、只人の中にもこんな美を湛える者がいるとは…」
ギルドマスターのヤンが何か呟いている。ヤンは美形が多いと言われるエルフだ。そのエルフが驚愕するほどの美しさらしい。まあどうでもいいが。
何故かサララも部屋に残り、戸口の側で話を聞く様子だった。いつのなら嫌々という感じなのに、今日はなんだか嬉しそうだ。
「忙しい所、時間を取って頂けて有り難い。火急の用件を伝えに参った」
「うん。何かな?」
さすがに美形に見慣れているのか、誰よりも立ち直りが早かったヤンが、クロムの話に耳を傾ける。
そして話が終わると、女将と同じように顔を青くしていた。
「そんな陰謀が…。まさか国をあげてとはね…。しかし、サーガ君はさすがというか。仕事が早いね」
「たまたまだよ。たまたま」
謙遜ではなくそう思っていた。
「これは急ぎ上に上げなければならない問題だな。伝えてくれてありがとう。私は急ぎ伯爵様の所へ行ってくるよ。サララ、サーガ君のランクをAに上げておいてあげておくれ」
「かしこまりました」
「いや、別にいーけど…」
「いっそのことSランクに上げておくかい? そうなると任せられる仕事が増えてこちらも助かるんだけど」
「俺を使う気満々かよ!」
Aランクで我慢することにした。
ヤンは急いで仕度を整えると、約束の取り次ぎもせずにさっさとギルドを出て行った。それほど急いでいるのだろう。
サララにカードを書き換えてもらう間、ギルドの中で待つのだが…。クロムに対しての視線の集まり方が半端ない。
(これなら子供の姿の方がましか?)
しかしそうなると「ぱぱ♪」である。いないのが一番いいと結論づける。
「サーガさん。お待たせ致しました」
今までにないほど丁寧な、そして輝く笑顔でカードを手渡される。
「サララさん…」
「なんでしょう?」
「早くいい男見つけてね…」
「な、どういう意味ですか!」
サーガの言葉に貼り付けていた笑顔が崩れ、サララがハッとなる。
「あ、あの…これは…」
何故かクロムを見てあたふたしている。
「じゃね…サララさん」
少し悲しそうにサーガがギルドを出て行った。
クロムはサララを少し見つめると、
「飾りすぎた笑顔よりも素の笑顔の方が良いと、我が輩も思うぞ」
そう微笑んでギルドを出て行った。
「はい…」
クロムの笑顔に心臓を撃ち抜かれたサララが、零れると息と共に返事を漏らした。
冒険者ギルドはその日、特に女性達の残業が多かったという。
魔王達の待つ宿へと戻り、試薬など出来次第届けると伝えた。
「しかし、どのように?」
と問うティエラに、クロムが瞬間移動を目の前で実演して見せた。女神にもらった力だと言うと、また2人は跪いてクロムを拝むような格好になる。
「よい。お主ら仕度は出来ておろうな? 急ぎ魔大陸へと戻るのだの」
「は。いつでも出発出来るよう準備は整ってございます」
「うむ。街などには最低限立ち寄るようにし、特に水には気をつけるのだの。特に色つきや濃い味の飲み物は口にせぬように。できるだけただの水を飲むようにの」
「は。かしこまりました」
そして2人は急ぎ足で宿を出て行った。門が閉まる前には街の外へ出るのだろう。
宿はせっかく払ったのに勿体ないからと、一晩サーガとクロムが泊まることになった。
「お前さんもなかなかせこいじゃねーの」
「なんのことかの?」
そこそこいい宿で、しかもティエラ達が部屋で食事を取ると申請していてくれたおかげで、目の前に居るのがいけ好かない相手ではあるが、これまたなかなか豪勢な食事にありつけたのだった。
そしてサーガとクロムはふっかふかな布団でぐっすり眠ったとさ。




