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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
67/81

御使い様

前回のあらすじ~

「パパ。追いかけて来る者があるぞ」

「パパ言うな! さってと飯屋は~」

「この世界は我が輩のいた世界と違い、魔力の高い生物ほど神の声を聞くことが出来るらしいの。魔族とは生物の中でもダントツで魔力が高く、神の声を聞くことが出来るとか」


そう言うと、クロムがぴょんとサーガの肩から飛び降りた。そして膝を付くティエラ達に近づき手を伸ばす。


「お主らのことは女神アルカディアから聞いておる。我が輩が御使いというのは間違いではないぞ」


子供らしくない口調でそう言われ、つい差し伸べられた手に手を伸ばす。


「あ、貴方様は…」

「今は幼子の姿ではあるが、通算で考えると2000年以上生きた…むう…人のようなものだの」

「人のようなもの?」


妖でしたとも言えない。

ティエラとリィヘルムを立たせると、クロムはぴょんとベッドに腰掛けた。


「お主らのやりたいことは分かっておる。邪神の企てを阻止したいのであろう?」

「は、はい!」

「うむ。我が輩もその為にこの世界へとやって来たのだの。共に助け合おうぞ」

「な、なんと有り難きお言葉…」


感動したように2人共膝を付き、クロムを拝むような姿勢になった。

サーガは寸劇みたいだなと思いながらただ黙って見ていた。


「ただ、まだ何をどうしているのか察しがついておらぬ。一度この男と聖教国へ潜り込んでいろいろ探ってこようと思うておる」

「こ、この男とですか…」


心配そうにサーガを見上げた。

なんだかサーガは気分が悪くなってきた。


「安心せい。性格に問題は有るがこう見えてかなり有能だの。一応神に見初められるだけあって此奴の能力は役に立つ」

「御使い様がそう仰られるならば」


サーガも御使いだったはずだが。


「まずは奴等がどう動いているのかを知る。可能であれば聖女を殺す。聖女さえ殺せば邪神の企みもほぼ瓦解するはずだの」

「なんと?! 聖女が関わっていると?!」


ティエラ達が驚く。


「うむ。奴は聖女とは名ばかりのなんの力も持たぬただの人間だの。というよりただの人間よりも弱い存在であろうの」

「聖女とは人の中でも魔力の高い者がなるものだと思っておりましたが」

「うむ。普通であるならば彼奴は聖女になど選ばれるはずのない人間だの。なにせ、魔力をまったく持たないという誠に珍しい人間だからの」

「魔力をまったく持たない?! そんな生物がいると…」

「お主らも彼奴を一度でも見れば分かると思うが、彼奴に魔力は無い。まったくの無能であるの」

「そ、そんな者が何故聖女など…」

「それが邪神の企みに関係しているのだろうの」


無能。サーガはつい最近そんな言葉を耳にしていたことを思い出した。


「無能の魔女…」

「ぬ? なんだの?」

「あん? いや、なんでもねー」


ついポロリと口から出た言葉にクロムが反応する。


「おかしな言葉だの。無能なのに何故魔女となるのだの?」

「俺が知るか。そう言ってた奴がいるんだよ」

「ふむ。詳しく聞かせてもらおうかの」


クロムが、ティエラが、リィヘルムがサーガを見つめる。


「え~と、順を追って説明すると長くなるんだが…」


サーガとティエラ達もベッドに腰掛け、サーガはアオイの事件の事から話し始めた。








「なるほど。時と運命を司る女神がお主を適当に放り込んだと思っておったが、それも計算のうちであったか…」

「時と運命の女神とは、アルカディア様の姉君であると伺っておりますが…」

「うむ。我が輩も拝謁はしてはおらぬが、アルカディア様よりも高位の存在であるらしいの」


サーガがよく分からない話をしている。


「しかし、赤い薬に血液か…。ただ血を飲んだだけではそのような拒絶反応など起こりはせぬだろう。何かを仕掛けているようだの。しかし、これで奴等が何をしているのか大体の動きは分かって来たのだの」


クロムがサーガを見つめる。


「適当に遊んでいるように見えてきっちり仕事はこなしているようだの。さすがと言おうか」

「俺は何もしてないぞ?」


サーガには仕事をこなしている気はない。ただ気の向くままに行動しているだけだ。


「その赤い薬は確実に聖女の血を混ぜたものだろうの。麻薬を精製するために使われているのか、はたまたその紫色の怪物を量産するために使われているのかは分からぬが、それを使って世界に致命的なことをしでかそうと考えていることは間違いないだろうの」

「つまり、聖女ってのが、無能の魔女ってことか?」

「そうだの」


サーガは考える。これって、サーガが聖教国に入って探ってこなければならなかったことではなかろうか。


「つまり、聖女が黒幕ってことか?」

「いや。彼奴にそんなことを考える頭は無い」


聖女に対して酷い言いようではないか? というかよくそこまで人となりが分かってるな。と思ったが口にはしなかった。


「怪しいのは聖教国の崇めているバルモアとかいう神だの。一応この世界の神の名を聞いてきたが、そんな名の神はいなかったのだの」

「つまり、バルモアが邪神?!」


ティエラが目を見開く。


「おそらく」


クロムが頷いた。


「バルモアの甘言に聖教国が踊らされているというところだろうの。あの国は亜人排斥国家であるからの。亜人とそれに味方する人類の殲滅などとか言われたのだろうの」

「そんな、同じ人族であるのに…」

「仕方ないの。人族には考え方が少し違うだけで敵と認定するきらいがあるからの」

「私達もそれで仲違いすることはありましょうが、さすがに殲滅とは…」

「年中発情してポンポン子供を産むからこその考えかも知れぬ。お主ら魔族のように子供が作りにくい者達であったなら、もう少し話し合いのようなこともしたかも知れぬな」

「そうですね…。人族は増えるのが早いですから…」


そうなの? とサーガは首を捻る。確かに年中発情期かもしれないが…。


「寿命も短い故、狭量な考えしか持てぬのであろう。今ここで言っても仕方がない。しかし、我が輩達のやることはやはり1つ。聖女の抹殺だの」

「聖女さえいなくなってしまえば邪神の企ても崩壊…」

「うむ。やはり鍵は聖女だの。我が輩達はどのように聖女の側まで行けるか聖教国に潜り込んで探ってこよう。そしてお主ら」

「はい」

「お主らは魔族領まで帰るのだの」

「ええ?! それは何故?!」

「その赤い薬がどの程度まで広がっているかも分からぬ。麻薬とは分からぬ形で魔族領へと出荷されている可能性もありうる」


ティエラ達がゴクリと喉を動かした。サーガも背筋が寒くなる。気付かないうちに飲み物に混ざっていても、サーガには分からない。


「此度の勇者の選別やら遠征やらも話がトントンに進みすぎておる。勇者を通して魔族領へその薬を運ぼうとしているのではないかの? 何かの拍子にお主達魔力が高い者達がその薬を接種すれば大事となろう」

「た、確かに…」

「すぐに国へ帰り、しばらく、事が終わるまではこの大陸からの輸入品は控えて勇者の動向にも注意するのだの。どんな形で魔族領へ入ってくるか分からぬ今は、警戒しすぎるということもあるまい」

「は、はい…」

「そうだの…。何か判別出来る試薬でもないかの? 女将さんは何か知ってはおらぬかの?」


そう言ってサーガを見る。


「俺は知らん。でも聞きには行ってみてもいいかもな」


もしあるならばサーガも欲しい。


「うむ。そうしよう。聞いたならばすぐに戻って来る。お主らは帰り支度をして待っておれ」

「は!」


2人はクロムに向かって頭を下げた。ちょっとサーガは面白くない。


「おお、そうそう。勇者は今魔大陸へ向かっておるそうだぞ。道中会わぬよう気をつけての」

「ああ、ちらりと見ましたが、どう見ても担がれた感がすごい若者達でしたよ」


見たのか。

しかしティエラ達に見られていたことに気付かないようならば、然程の実力者でもなかろう。出会って返り討ちにすることはあっても討伐されるような危険はなさそうだ。


「では行ってこよう。少し待っておれ。サーガよ、案内を頼む」

「なんだか使われてる感が…」

「おおそうそう。お主にはこれであったな」


そう言って空間にまた手を突っ込むと、大きな袋を取り出した。それをどしんと床に置く。


「一億ある。数えたければ数えてもよいが?」

「…。分かったよ」


それを収納袋へと突っ込んだ。


「これで、契約は成立だの?」

「ああ。やりゃーいいんだろ」

「うむ」


頷くと、一瞬にしてクロムの姿が成人男性の姿となった。


「では行こう」

「へいへい」


クロムの姿を見てポカンとしているティエラ達を残し、サーガとクロムは満華楼へと向かった。

長らくお休みを頂きましたが、再開致します。

最期まで書き切ったので毎日更新出来ると思います。

よろしくお願いします。

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