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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
66/81

なんで俺が

前回のあらすじ~

「アオイさん、俺頑張ったよ~」「ありがとうサーガ!」

「でね? 多少経費というものがね…?」「あの子の初物の値段教えようか?」

「…イイデス」

「君に聖教国に行ってもらっていろいろ調べて欲しいんだけど」

「なんで俺が」


ギルドに着くと早速ギルマスの部屋に通された。今回はサララもいない。ヤンと2人だけだ。


「君、情報収集は得意だったよね?」


やっぱり力のことについて話すんじゃなかったと後悔するサーガ。


「それと、国からの依頼だから、報酬はかなりいいよ?」

「国から?」

「そう。あの赤い薬については王都の方でもちょっとあったらしくてね。丁度情報を集めているところらしいんだ。もし君が有益な情報を持ち帰ってくれば、今なら額が跳ね上がるかもしれないよ?」

「う~ん。しょ~がね~な~。やってあげてもいいよ?」


報酬がいいとなれば受けないこともない。情報収集はまさにサーガの得意分野だ。


「そう言ってくれると思ったよ。なにせ、この国はどちらかというと亜人擁護派だろ? 聖教国とはあまり仲がよろしくなくてね。向こうさんの情報が入りにくいらしいんだ。君のような冒険者が動いてくれるとこちらも助かる」

「冒険者は国に就かないって聞いたけど」

「君、帝国で指名手配されてるんだって?」


ドキリ。


「な、なんでそれを…」


もうこの国にまで話が広がってきているのだろうか。


「まあ犯罪者というわけではないらしいけど。でもお偉いさんは君のことうっかり帝国に漏らしてしまうかもしれないかもね?」

「脅してんのか?」


サーガの瞳が剣呑に光る。


「いいや。交換条件みたいなものだよ。僕達は君のことを帝国に言わない。ただし、仕事をしっかりしてくれれば、ね。もちろん報酬はちゃんと支払う」

「もらうもんもらえりゃ仕事はやるよ」

「うん。上の方にもそう言っておくよ。しかし…、君、帝国で何をしたの?」

「…勝手に貢ぎ物にされてた…」

「え?」


簡単にサーガが説明する。


「あ~…。竜王様ならやりかねないな…」

「竜王?」

「獣王国の現王だよ。ちょっと常識というか、考え方が人とズレている所があって…。使える者は何でも使うみたいな所があるんだ。でもまあ多分、君が逃げることも計算ずくだったんじゃないかなとは思うけど」

「一言の断りもなく勝手に使われちゃ困るんだが」

「私に言われてもね…」


ヤンが溜息を吐く。


(想像の域を超えないけれど、もしかしたら結婚から逃れるための態のいい生け贄って所かな?)


ヤンは思う。


長らく戦争が続いている両国ではあるが、今の女帝の代になってからはその頻度が減った。和平交渉を推し進めるのではないかと噂も流れている。和平交渉で一番手っ取り早いのが、双方の王族同士の結婚、という名の人質だ。

竜族と人族ではその寿命の長さも違う。現王の竜王も、記憶違いでなければすでに300歳を超えているという。竜族の中ではまだまだ若手だ。そして噂ではあるが、まだ嫁を取る気はまったくないという。

対して帝国の女帝は20歳を過ぎてはいるがまだまだ花盛り。しかしそろそろお婿の話も出ようという所。

帝国の王族は彼女以外に、今年で12歳になる男の子がいるだけなのだそう。後の者は原因不明の病や戦で亡くなったと聞く。それも女帝の陰謀ではないかと囁かれているが、真実は闇の中だ。

もし女帝が自分の身を犠牲に獣王国との和平を考えているならば、両国の和平の話も進みそうではあるが…。


(竜王様が嫌がったとか?)


ただ単に寿命の違う人種との結婚が嫌なのか、はたまた単にタイプでは無いのか、もしかすると結婚がめんどくさいとか考えているとか…。

代わりに面白そうな逸材のサーガを放り込んでしばらく目眩ましをさせる。はたまた運良く?その子供ができたらそちらとの結婚を考えるとか…。そうすれば女帝は帝国の安定のために腰を据えて仕事も出来るだろう。


(まあ、私に分かる訳がありませんね)


ヤンは思考を放棄した。


「では、できるだけ早く頼んだよ」

「へいへい」


いつもとは違い、サララに手続きを頼まずヤンが直接サーガのサインをもらう。


「何か有益な情報が入ったら手紙でもいいからすぐに私に寄越しておくれね」


契約書もサーガには渡さず、自分の机の鍵付きの引き出しへ入れてしまった。


「へ~いへい。分かりました~」


サーガはいつもの通りののんきな足取りで、執務室から出て行った。











「あら、サーガさん、お話は終わりで?」

「うん。いや~また変なこと頼まれちゃったよ」

「そうなんですね。で、そのお子さんは?」

「お子さん?」


サララに言われてふと見れば、いつの間にいたのかクロムがサーガの服の裾を掴んでいた。


「パパ♪」


空気が凍る。


「お、おま! だからパパなんて呼ぶんじゃねーって!!」

「サーガさん…そんな大きなお子さんが…」


サララの目が再び絶対零度になっている。


「ち、ちが! どう考えたって俺の年でこんな大きな子供がいるわけないっしょ!!」

「パパ…。僕のこと忘れたの?」


クロムが哀しそうにサーガを見上げる。


「だからパパじゃねー!」


ギルドのあちこちでひそひそとなにやら囁かれる。


「サーガさん…。ちゃんと責任は取らないとダメですよ?」

「だから違うっちゅーに!!」











慌ててクロムを抱えてギルドを飛び出したサーガ。なんだかどう説明しても墓穴を掘ってしまう気がした。何故だ。


「くっくっく…。面白いものだの…」


クロムはサーガに抱っこされながら、腹を抱えて笑っている。


「てめぇ…。面白がってるだろ…」

「うむ。お主が周りの者に誤解されてあわてふためく姿は誠に面白い」

「いい性格してんじゃねーか」


喧嘩腰気味のサーガに対し、笑いを抑え切れないクロム。


「で? なんだよ? まさかもう1億稼いだとか言わねーよな」

「まさにそうだが? これでお主も我が輩に協力せざるをえまい?」

「げ、まぢかよ…」


別れてからまだ3日しか経っていないというのに、どうやって稼いできたのだろうか。


「詳しい話と金銭の譲渡は宿に行ってからで良かろう。話は聞いていたが、お主、聖教国へ行く用もできたようではないか」

「?! どこで聞いてやがった?」


サーガは風なので、ほぼ常に周りの気配を感じとっている。それに反応はなかった。


「影の中で」

「影?」


意味が分からなかった。


「まあそれはそれとして、なんだか珍しい気配を持つ者が付いてきているようだがの?」

「そうみたいねー」


王都で一度会った気配であるが、こんな聖教国に近い街まで来ているとは思わなかった。


「勇者とか大丈夫なんかな?」

「人族の勇者と呼ばれる者なら、王都へ向かったと聞いておるぞ?」


すれ違ったのか?


「人族が魔大陸に渡ってどうするのか知らぬが、今は魔大陸へ行くには獣王国からしか船が出ていないらしいからの。王国で獣王国への渡りをつけてもらう手筈なのであろうの」

「そりゃ、勇者が行くのは魔王退治するからだろう?」


その魔王が魔大陸にいなかったらどうするのだろう。まあ、サーガには知ったこっちゃない話だ。


「で? 話しかけぬのか? 話しかける機会を窺っておるようだがの」

「うん。どこで何を奢ってもらおうか考え中」

「せこい奴だの…」


以前のように酒場にでも入って酒の一杯でも奢ってもらおうと思うが、今は面倒なお荷物付き。

サーガは適当に目に付いた食堂へと入っていった。


「まあ、我が輩も腹が減っていたところだしの」


クロムも賛成のようだ。

適当に座り、適当に注文する。すぐにフードを目深に被った2人組も入ってくる。


「おっす。こっちこっち」


サーガが当たり前のように手を振る。その様子に2人は驚くも、素直にサーガ達のいるテーブルへと近づいて来た。


「やはり、私達の事に気づいていたね?」


女性の声がフードの中から聞こえる。


「まあね。そちらさんは前とは違う人みたいだけど?」

「! 分かるのか」

「そういうのは得意でね。ほんで? 用件は?」

「そうだね。そちらのお子さんについて話が聞きたいんだが…」

「おまちどおさまでした~」


料理が運ばれてきた。

サーガとクロムの前に置かれ、クロムは早速食べ始める。


「食ってからでいいだろ?」

「あ、ああ…」

「もちろん、奢ってくれるよな?」

「・・・・・・」


払わなければ話を聞かないと言い出しかねない。もう1人のフードの方を見て、コクリと頷く。慌てて見られた方は懐具合を確かめ始めた。









食事を終えると、フードの2人が泊まっているという宿屋へ行った。それなりにお高くてセキュリティがしっかりしているらしい。

部屋に入るとやはり厳重に鍵を閉め、カーテンも閉める。結界までしっかり張られたようだ。


「久しぶりだね、サーガ君」


女性の方がフードを取った。


「誰だっけ?」


女性が滑った。


「ティエラだよ…。魔族の王の…」

「ああ、そーそー! ティエラさんだっけ」


魔王ということしか覚えていなかった。


「そちらさんは?」


もう一人のフードの方を顎でしゃくる。


「カエデェスは限界が来てしまったのでね。今は違う者が付いている。リィヘルムだ」


もう一人の方がフードを取ると、少し目つきの悪いショートヘアーの女性が顔を出した。やはり帽子を被っていて、角らしき膨らみが2箇所あった。


「それでその…」


ティエラがちらりとクロムを見る。


「私の目がおかしくなければ…、そちらの坊や、その、御使い様のように見えるのだが…」

「ああ、あの変な話の? まあそうかもね」

「ああ…」


ティエラが崩れ落ちる。


「ティエラ様!」

「やっと見つけたと思ったらなんだか適当な感じの男とまだ幼い子供とは…。我が神は何を考えていらっしゃるのか…」

「ティエラ様、やはりあの御神託は間違いだったのでは…」

「まさにそうとしか思えないな…」


なんだか何かを話す前に、すでに2人共諦めムードになってしまっている。


「ふむ。お主らが女神アルカディアの言っていた魔族というものかの」

「「え?」」


幼子とは思えない口調で話しかけられ、ティエラ達がサーガに肩車されているクロムを見上げた。


お読みいただきありがとうございます。


やっと暑さも一段落、と思ったら急に寒くなって来ました。

そろそろ猫が膝に乗って…まだ来ない。

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