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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
65/81

慣れてしまえば

前回のあらすじ~

「あっちのおっさんに話しかけてみて」 「は、はい…」

「次はそっちのおっさんにお茶配って」 「は、はい…」

「綺麗なお兄さん達にチヤホヤされて」 「は、はいぃ!?」

その後も男の出入りの多い食堂に連れて行かれたり、強面のおじさんの店を回ったり、別の工事現場に連れて行かれたりと、シラアイはサーガに連れ回された。


「どうよ? ちょっとは慣れた?」


少し高台になっている広場で夕日を眺めながら、サーガがシラアイに尋ねる。


「はい。皆さん親切で、私、知らなかっただけなんだなって、分かりました」


知らないということはとても怖い。だから人は勉強して知識を蓄えるのだ。学生の皆さん、勉強は大事ですよ。

「男」というものを知らなかったシラアイも、「男」も「女」と変わらない人間であるということが実地体験をもって実感できたようだった。大きな進歩である。やはり最初にホ○トに放り込んだのが良かったのだろうか…。


「ん。いい顔になったな。あとは、まあ、その、肝心の実習(・・)が残ってるけど…。まあ焦る必要はないでしょ」

「あ、は、はい…」


どういったことをするのかなど、シラアイも話には聞いている。


「とりあえず飯食って、店に戻ろうか」

「はい」


シラアイは自然にサーガと手を繋いで、歩いて行った。











店に戻るとすぐにアオイが出て来た。

サーガと手を繋いでいるシラアイを見る。そしてサーガを見る。


「ちょっと…」

「は、はい?」


サーガの首根っこを掴んで、隅の方へ引き摺って行く。


「なんか、良い感じになってるじゃない…」

「アオイさん? 目が据わってるのは気のせい?」

「気のせいよ。それで? どんな感じなの?」


気のせいではない気もするけれど…。


「ええと、それなりにあちこち連れ回して、多少は慣れたみたいよ?」

「そう。それなら良かったわ…。ええ、いいことだわ」


なんだか自分に言い聞かせている感じに聞こえる。


「さすがに今晩てわけにはいかないだろうけど…」

「いけるならいっちゃっていいわよ。じゃないと、あの子、分かるでしょ?」


アオイが少し顔を暗くする。店だっていつまでも役立たずの者を置いておける余裕はない。ともすれば今より酷い環境の所へ売られてしまう可能性だってある。


「ん~、俺の主義的に無理強いは出来ないからな~」

「あんただったら手技だけで落とせるでしょう」

「え? それマジ? そんなに良かった?」

「・・・・・・」


何故黙り込むのだろう。


「と、とにかく! いい加減店に出られないと本当にヤバいのよ! 頼りにしてるんだからね?」


そんな上目遣いで言われたら、背中が痒くなってしまうではないか。


「う~ん、なんとか頑張ってみます…」

「任せたわよ!」


ポン、とサーガの肩を叩くと、アオイはシラアイに近づき一言声を掛けて去って行った。忙しいようだ。


「とりあえず、部屋に行こうか?」

「は、はい…」


シラアイはまだ正式に店に出ていないので自分の部屋がない。なのでアオイが用意してくれた部屋へと2人は入って行った。これはもう「やれ」と言っているようなものではないか。

シラアイが目に見えて緊張しているのが分かる。緊張されるとこちらも緊張する。


「ま、まずは、汗を流そうか?!」

「そ、そうですね?!」


湯浴みの準備をしてもらう。


「え、え~と、抵抗がなければ、だけど、俺の背中、流してくれる?」

「は、はい!」


そういうこともするのだと、シラアイも知ってはいる。しかしした事がない。

タライ風呂よりは豪華な湯船に、全て脱ぎ去ったサーガが体を沈める。薄着になったシラアイが近づいて、サーガの背後に立った。


「よ、よろしくお願いします…」

「は、はい! 頑張ります!」


ぎくしゃくしながらも、サーガが身を起こすとシラアイが背中をこすってくれる。


「あ~そこそこ。あ、もそっと強めに」

「は、はい!」


シラアイも必死になって言われるがままに背中をこする。サーガは体つきは他の男の人に比べると小さいが、とても筋肉ががっつりついていて、シラアイもなんだかドキドキしてしまう。工事現場の男の人達とはまた違う。


「腕も行ける?」

「はい!」

「前も行ける?」

「はい! ?!」

「下は見なくていいです」


水面の反射のおかげでよくは見えませんでした。

サーガが終えると、次はシラアイが湯船に浸かる。サーガは覗きに来なかった。

自分の体を洗いながら、先程のサーガの体を思い出す。


(凄い筋肉…)


なんだか顔が赤くなる。筋肉が嫌いな女性も滅多にいないはずだ。

体を拭き、薄衣を纏って仕切りから出ると、サーガは既にベッドに横たわっていた。


(えええ、えっと、ま、まずは、どうするんだっけ…)


いろいろ詳しく聞いたはずなのに、シラアイはどうしたらいいのか分からず佇む。


「突っ立ってたら疲れるでしょう。何もしないから、おいで」


サーガがベッドをポンポンと叩いた。

恐る恐る、シラアイがサーガの横に潜り込む。


「緊張してるね」


ドキリとなるシラアイ。


「実は俺もデス」


シラアイが横にあるサーガの顔を見ると、サーガもシラアイを見た。


「この後、どうしたらいいのか、俺もよく分かりません」


慣れてる人と遊ぶのは慣れているが、初めての子とするのは慣れていない。どうしたらいいのかサーガもよく分かっていなかった。


「ここまでできたってことは、それなりに男に対する恐怖心は消えたってことだよね?」

「はい…」


まだ大きい人には反応してしまうが、サーガにはすでに恐怖心はない。


「じゃあ、触ってみる?」

「ひゃ? ひゃい?!」

「いや、腕とか…」

「あ、はい…」


恐る恐る、サーガの腕に手を伸ばす。先程の湯浴みでも触れたが、とても筋肉がついていて固い。緊張からなのか、少し肌が汗ばんでしっとりとしていた。不思議とその感触が心地よい。


「うお、なんか触り方エロいな…」

「え? はい?!」


思わず手を放す。


「ああ、いや、いいから。存分に触りなされ。そうだな。今日は俺の体を弄んでいいよ。まずは慣れだよね。慣れ」

「は、はい…」


また腕に触れる。

肩から肘へ。肘から指先へ。

自分の細腕とは違うその筋肉を指先で感じながら、シラアイは自分の体が熱くなっていくのを感じていた。














「サーガ。本っ当にありがとう! やっぱりあんたに任せて良かったわ!」


アオイが満面の笑みを浮かべてサーガに礼を言う。


「いやあ。それでねアオイさん。ちっとばかし経費がかかったんだけど…」

「そうね。相場だと50はくだらないかな? それ以上?」

「・・・・・・」


アオイもしっかりしている、とサーガは思った。


「それにあんたなら、それくらい冒険者の仕事ですぐに稼げるでしょう?」


それはそうだが。なんだか釈然としない。


「それに、楽しめたんでしょう?」

「・・・・・・」


サーガは視線を逸らした。


「似たような子がいたら、また紹介してあげるけど?」

「・・・・・・」


サーガは目を瞑った。何も言えない。

そうです。楽しんだんです。楽しめたのです。自分色に染めるというのがなんとなく分かった気がするのです。徐々に徐々に花開いていく様子を観察するのもとても楽しめたのです。

というわけで、サーガは何も言えなかった。


「ああ、それとね。ギルマスが出来るだけ早めに来てくれって。さっき言伝を預かったわ」


それは早めに言ってほしかったかな?









「サーガさん!」


店を出ようとしたサーガに飛びついて来たシラアイ。その様子は3日前とはまったく違うものだった。


「行ってしまうんですか?」


サーガの腕にその豊満なものを押しつけ、上目遣いで媚びてくる。この子が男性恐怖症だったと今なら誰が信じよう。


「こら。サーガも忙しいのよ。離れなさい」


アオイがシラアイを引っぺがす。


「あん。寂しくなりますぅ」


見事な甘え上手になっていた。


「また遊びに来るから。それまで腕を磨いておいてね」


サーガがにっかりと笑うと、


「はい! 頑張ります!」


輝く笑顔で返され、サーガはいたたまれなくなる。


「それじゃ、アオイさんもまたね」

「ええ。また…」

「絶対きて下さいね~! お待ちしてますぅ~」


アオイは少し寂しそうに、シラアイは元気に両手を振って見送った。


「さ~てと、むさい男の顔でも見に行きますか」


少し早足でギルドへ向かったのだった。










サーガの姿が見えなくなると、


「シラアイ、あいつに本気になっちゃだめよ?」


アオイがぽつりと言った。


「アオイさんが狙ってるからですか?」


少し棘のある言い方でシラアイが返す。

アオイが寂しげに微笑む。


「あいつにはもう想い人がいるからよ」

「え? うそ! そんなこと言ってませんでしたよ?!」

「忘れてるだけよ。さて、今日からあんたもしっかり働いてもらわなきゃだからね! 覚悟しなさい」


アオイの真剣な瞳を受け止め、シラアイも真剣な顔で頷く。


「はい」


シラアイの戦いはこれから始まる。


お読みいただきありがとうございます。

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