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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
64/81

慣れませう

前回のあらすじ~

「騙されたわけじゃないけどアオイさんとはもうすでに遊んでるし折角なら他の娘と遊んでみたいものだけども…」

「? 何か言った?」

「いえ! 別に!」

店を出た2人。


「男性恐怖症を治すね~。お、そうだ。まずはあそこに行ってみよう」


何かを思いついたサーガが、シラアイの手を優しく引っ張る。


「俯いてちゃ何にも見えないよ? 前見て歩いたら?」


振り向くと、下ばかり見ながら歩くシラアイの頭が見えた。


「そ、その、お店、外、初めて、で…」

「まぢかよ。今までどんな生活送ってたのよ」

「そ、その…」


たどたどしく話す事を繋げてみると、シラアイはそこそこ裕福な商家の娘だったらしい。物心がつくまで周りにいたのは侍女やらメイドやら。オスと名のつくものまでまったく周りにいなかったそうな。唯一知っている男は父親だけ。この父親が娘を溺愛し、男から遠ざけていたそうな。

しかしこの度仕事を失敗し、あえなく倒産。多額の借金を負った。

それで泣く泣く一人娘のシラアイを花街に売ったのだそうな。

ところがそれまでほとんど男性など知らずに育ったものだから、いきなり相手をしなさいと店に出されたシラアイはパニックを起こして気絶した。

それ以来裏方の仕事をしながら、少しづつ男性に慣れようと努力しているのだそうな。

サーガは呆れ半分で聞いていた。


「ち、近頃は、やっとパニックにならない程度にはなってきたのですが…」


近頃やっと店から出て買い物をできるようにはなってきたらしい。付き添いつきだが。


「だ、誰かと、一緒なら、なんとか…」

「俺の事怖い?」


サーガがヒョイと顔を覗き込む。


「ひっ!」

「あ、傷つく」

「ご、ごめん、なさ…」

「男の何が怖いの? 顔? 体? 声とか? でかいからってわけではなさそうだね~」


サーガとシラアイはほぼ同じ身長だ。大きいということで怖がっているわけではないだろう。そういうことを推察出来るのは有り難いが、何故か虚しさを感じる。何故か。


「わ、分かりません。分からないから、怖いです…」

「じゃあ知ったら怖くなくなるかもね。さて、んじゃまずはここに入ってみようか」

「え?」


シラアイが恐る恐る辿り着いたその建物を見上げると、看板にこう書かれていた。


『秘密の薔薇園』












花街の外れにあるその店には、時折男性客が訪れることもあるが、主な客層は女性。

そう、ここは女ではなく男を買う館。男娼の館だ。

シラアイがそれを理解したのは、サーガに連れられて店に足を踏み入れた後だった。


「「「いらっしゃいませ」」」


イケメンマスクの男達が、シラアイ達に微笑みかける。

シラアイは突然のイケメン達にポカンとするだけだった。


「カップルでとはお珍しい。2対1でもご希望ですか?」


責任者らしき男が進み出てくる。こちらも少し年はいっているがイケメンだ。


「いや、そういう用じゃない。空いてる奴ら全員でこちらのお嬢さんの話し相手になって欲しいんだが」

「? 話しだけでよろしいので?」

「軽い接触はいいけど性的なことは駄目。話すだけで10万、でどう?」


責任者らしき男の目が光る。大体の経営者は守銭奴である。いや、計算高いというべきか。


「本当に話すだけでよろしいので?」

「まだ子供でそういうこと知らないし、男性恐怖症なんだ。話だけでいい。せいぜいお姫様扱いしてやって」

「かしこまりました。貴方はいかがなされますか?」

「隅っこで茶でも飲んでるよ」

「ご要望があれば見繕いますが?」

「俺にそっちの趣味はねえ!」

「かしこまりました。ではお嬢様、こちらへ」


サーガがシラアイの手を目の前のイケメンに預けた。一瞬ビクっとなったシラアイだが、イケメンスマイルを向けられ顔を赤くする。

そのまま部屋の中央に連れられて行き、群がるイケメン達にちやほやされたのだった。

まるでホ○トだなと思った人は何人いるだろう。











1時間程して二人は店から出て来た。シラアイの顔が名残惜しそうなのは気のせいではないだろう。イケメンにちやほやされて嫌な女性は滅多にいないはずだ。


「少しは慣れたみたいだな」

「は、はい…。あんな綺麗な男の人達もいるんですね…」

「女だって美人から醜女までよりどりみどりでしょうが」


サーガと手を繋いでいるが、先程までとは違い力が抜けている。イケメン治療が効いたようだ。しかし世の中綺麗な顔の男ばかりではない。


「んじゃ、ちょっとほっつき歩いてみようか」

「は、はい」


今度は商店街の方を目指した。


「じゃ、金渡すから、あの店で何か買ってみようか」


と金を渡す。


「え?」


あの店と指さす方を見ると、果物と覚しき商品が並んだ店先に立つ、ちょっと強面のおじさん。シラアイの体が固まる。


「大丈夫。俺も後ろから付いて行くから。さ、行きましょ」

「え、あの、ええ!」


動かないシラアイの背をぐいぐいと押し、その店の前へとやってくる。

ギロリとおじさんがシラアイを見つめた。

ビクリとなるシラアイ。


「ああああああの…、そそそそそ…」


まともに喋ることさえ出来ない。


「なんだいお嬢さん、何か用かい?」


おじさんがずいっと顔を近づけて来る。

シラアイは怖さのあまり、声を出すこともできなくなってしまう。


「おっさん。そんな顔じゃ客が逃げるぜ」


後ろからサーガが声をかける。


「なんだい。あんたか。このお嬢さんは?」

「知り合いから預かった男性恐怖症の女の子。やっぱおっさんじゃあ刺激が強すぎたか」

「なんだと? この男前の顔のどこが刺激が強いってんだ」

「自分で男前って言うところじゃない?」


ポンポンと飛び交う言葉の応酬。それを聞いていたシラアイは、なんだか体の力が抜けていった。


「ほれほれ、当初の目的忘れてない?」


一通り言い合ったのか、サーガがシラアイの背をポンと叩く。

シラアイがハッとなり、再びおじさんに目を向ける。なんだか先程より怖くなくなっている。


「あ、あの、その、そ、それを…2つ…」


適当に指さし、注文した。


「あいよ。400エニーだ。こいつもおまけでつけとくぜ。後で食べてみてくんなよ」


と、にっかり笑って小さな赤い実をつけてくれた。

その笑顔がなんとなく可愛いなと思えたのは、少しは慣れてきているのか。

その後、買った物を囓りながら、わざわざ強面のおじさんがいる店にサーガは案内していく。おじさんがおまけでつけてくれた赤い実はとても甘くて美味しかった(サーガの分はない)。

店で一通り話すなり商品を買ったりしていくうちに、シラアイは強面のおじさんは顔が怖いだけで、実は親切な人が多いと分かって来た。

言葉が多少乱暴な点はあるが、シラアイに対しては「可愛いお嬢ちゃん」とか「綺麗どころだな」など素直に褒めてくれる人が多い。褒められれば悪い気はしないものである。


「さ~て、これも少し慣れてきたな」


シラアイの様子を確かめ、サーガが向きを変える。


「んじゃ、お次はあそこに行ってみようか~」

「は、はい!」


シラアイはふと気付く。目の前のサーガに、ほぼ恐怖を感じていないことに。












「こんちわ~」

「なんじゃいお主」


次にやって来たのは建設現場だった。何かのお店を造っている最中らしい。それこそ筋骨隆々の男達が汗水垂らして働いていた。

サーガが現場監督らしき背の低い髭もじゃのおじさんと何かを話す。おじさんはちらりとシラアイを見ると、こくりと頷いた。


「まあ良かろう。そろそろ休憩の時間じゃしな」


そう言うと男達の方へ歩いて行った。


「さて。ではここで、金は出ないけどお仕事です」


サーガがシラアイに向かって言う。


「はい?」

「休憩するあのお兄さん達に、お茶を配りに行って来て下さい」

「ええ?!」


ちらりと視線をやると、筋骨隆々の男達が思い思いの場所で寛ぎ始めるのが見えた。強面に見える人やら、優しそうな面差しの人やら様々だ。

強面のおじさんに多少慣れたせいか、それほど怖いとは感じなくなっている。しかし、皆体が大きく、それだけで怖いと感じてしまう。


「大丈夫大丈夫。俺が後ろにいるから。何も起きないとは思うけど、何かあっても守ってやるから」


少し強引にサーガがシラアイの背を押す。シラアイは人数分、といっても数が多いので何度か分けることにして、盆にのるだけの茶を用意すると男達に近づいて行った。

近づくほどにその逞しさが良く分かる。座っているおかげでそこまで圧迫感はないが、体が大きいというだけで足が竦む。


「ほれほれ、皆待ってるから」


その背をサーガが押す。

そして一番近い所にいた、少し優しげな感じの男の人の前に立った。


「あ、あの…。お、お茶、です…」

「お、ありがとうね」


その人は微笑えんで礼を言って茶を受け取り、美味しそうに飲んだ。

その隣に座っていた少し強面の男の人にも差し出す。


「お、お茶、です…」

「おお、すまん。ありがとうな」


そう言って茶を受け取り、やはり美味しそうに飲む。


「いや~、こんな可愛い子からもらうお茶はいつもより美味いな」

「そうですね」


2人がそんな会話をするのを背で聞きながら、シラアイは他の男達にも茶を配っていった。


「ありがとうよ」

「ごちそうさん」


男達は必ず礼を言って茶を受け取る。嬉しそうに美味しそうに飲む姿を見ていると、不思議と怖さも感じなくなっていく。それに、礼を言われる度になんだか嬉しくなっていった。

休憩が終わり、男達が仕事に戻って行く。その姿をシラアイは、不思議な気持ちで眺めていた。

怖い、ではない。頼りがいのある背中だと思えたのだ。


お読みいただきありがとうございます。

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