苦手
前回のあらすじ~
「おつかいが済んだらいい女紹介してやるよ」
「行って来ます!」バビュン!
「女将さーん! 行って来たよー!」
「早いね…」
執務室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは、サーガだった。
「で? で? で? この街1の娼妓って?」
ぐいぐい女将さんに寄っていく。
女将さんは呆れた顔で溜息を1つ吐き、
「色彩千花って店にいってごらん。すぐに分かるよ」
「分かった! どこにあるの?!」
「この店を出て…」
つぶさに店の場所を説明してやると、
「分かった! 行って来まーす!」
「ああ、いっといで」
ダッシュで消え去ったサーガに、ヒラヒラと手を振って見送った。
そしてニヤリと笑う。
「「元」が付くけどね」
「サーガ?! 帰って来てたの?!」
店に入るとすぐに、その店の女将(仮)が出て来て言った。
「え…、アオイさん?」
アオイの姿を見て、サーガは気付いた。確かにアオイは「元」この街1の娼妓だ。
「だ、騙され…てもいないけど…うう~ん…」
「どうしたの?」
頭を抱えるサーガを覗き込むアオイ。
「い、いや、なんでもない…。アオイさん、今はこの店で?」
「うん。この店の旦那さん達もあの薬の被害者で、今治療中。この花街でこういう店が今結構あるから、女将さんが複数の店を見てるのよ。あたしはその手伝い」
「ほえ~」
やはりあの婆さんはやり手だった。
店を潰すことは出来るが、そうしたらこの花街での店が減る。働き場所を失う娼妓達も増えれば、店が少なくなることで客が減ることも考えられる。女将さんはそれを見越して色んな店を助けてやっているらしい。
修行の一環で、アオイはこの店に放り込まれたそうな。
「今の所なんとか回してるけどね」
少し疲れた顔でアオイが言う。
「そっか~。俺来たら邪魔だった?」
「そんなことない! って言いたい所だけど…。ごめん。今は相手出来るような状態じゃなくて…」
「いや、アオイさん以外の人でもいいんだけど…」
一瞬アオイの瞳が殺気を放った気がした。
「ん…いや、ゴホン。そんなこと…ない…から…」
何かゴホゴホと苦しげに言っている。
「だだだ大丈夫に決まってるでしょ。ああああんたなんか、き気にしたこともないわよ」
「でででですよね」
なんだかアオイの背後に黒いオーラが見える気がして、サーガも尻ごみする。
しかしアオイの顔は不機嫌な感じになってしまっている。どうしてなのかサーガには分からない。分かりたくないから考えない。
「! そーだ…」
アオイが何か思いついたらしく、サーガに向き直る。
「サーガ、1つ頼みたい事があるんだけど?」
「いいよ? アオイさんならサービス料金で」
と指で丸っと示す。
「女将さん並みに強突く張りだわね。そうね。お金じゃないけど、その子の初めてと引き換えってのはどう?」
「は? 初めて?」
サーガの顔がポカンとなった。
アオイが連れてきたのはどことなく影の薄い、それほど顔の作りも悪くない、可愛らしい少女だった。
「シラアイよ。優しくしてあげてね」
アオイがシラアイと呼んだ少女の肩をがっしりと押さえ、そこから動けないようにしている。
シラアイはキョドキョドと視線を動かしつつ、怖々とサーガに頭を下げた。
「し、シラアイです…」
それ以上何も言わない。
「ちょっと男性恐怖症気味でね。でもこの商売やってくのに、そういうわけにもいかないでしょう?」
そう聞いてみれば、シラアイの足は今すぐここから逃げ出したいとでもいうかのように震えている。
一見チャラそうな軟弱者に見えるサーガでも怖いらしい。
「で? 俺に男性恐怖症を治せと?」
「できればだけどね。多少慣れてくれるだけでもめっけもんだわ」
サーガ、内心ほっとする。処女と聞けば垂涎ものなのかもしれないが、やり慣れている人ばかりを相手にしてきたサーガにとって、それは未知の領域。ちょっと怖かった。
「な~んだ。初めてに手を付けてもいいなんていうから…」
「できたらそこまでいっちゃっていいわよ?」
アオイがにっこり答える。
「え? でもその、娼妓にとって初めてって、かなりお高く売れるものなんじゃ…」
初物が好きな男は多い。
「時と場合によるわよ。これだけ男性恐怖症患ってるとね。最初に恐怖心を植え付けられるとこの先やってくのがしんどくなるから。そういう子にはまあ、初めての時人を選ぶ、みたいなのは許されてるわ。女ってそれだけでも結構頑張れるからさ」
アオイが何か思い当たることがあるのか、少し遠い目をする。
「いや、でも、俺、初めての子って慣れてないから…」
「…男って皆初めてが好きなんだと思ってたんだけど」
「人によるんじゃね?」
サーガはなんとなく苦手意識を持っている。
「へえ~。あんたにも苦手なものがあるのね~」
「アリマスヨ?」
意外や意外とばかりにアオイが目を見開く。
そしてサーガの耳元にそっと顔を近づけると、
「あんたは私が認めた男なんだから、自信持ったら?」
そんなこと言われたら、やる気が起きてしまうではないか。
「あ~も~。アオイさん、俺をやる気にさせるの上手くね?」
「伊達に元1番やってないわよ」
アオイがにっかりと笑う。
サーガがシラアイに目を向けると、さっとシラアイが視線を逸らした。目を合わせることも怖いらしい。
「重症かな~? とりあえず3日くらい時間もらっていい?」
「いいわよ。せめて話ができるくらいに持って行けたらいいかな。いけたら行ける所まで行ってもいいわよ」
「…後で請求されたりしない?」
「あたし女将さんほど強突くじゃないわ」
まだケツがアオイということか。女将ならばこれ幸いとなにかしらふっかけてきそうな気がするが。
「分かった。んじゃ、とりあえずおデートでもしてみましょうか」
とシラアイの手を取った。
突然の事に驚いたのか、シラアイが咄嗟にその手を払ってしまった。
「あ…」
顔を青くするシラアイ。
「ああ、すまんすまん。びっくりした? いや~俺もこういうの慣れてないから…」
顔をぽりぽりとかきながら、謝るサーガ。
怒られるかもと構えていたシラアイが、その反応に戸惑う。
「シラアイ、この人は大丈夫だから。ちょっとは世間を知ってきなさい」
そう言ってアオイがポン、とシラアイの背を叩く。
「んじゃ、改めて、お嬢さん、俺と手を繋いでくれますか?」
差し出されるサーガの手。その手はシラアイの知る細い女の手ではなく、剣ダコもあるごつごつとした男の手。
その先にあるサーガの顔をチラリと見ると、サーガが悪戯小僧のようににっかりと笑った。慌てて目を逸らす。
(怖い人じゃないとは聞いてるけど…)
アオイから事前にその人となりは聞いているが、男と言うだけで怖い。
しかし、姐さん達が常日頃から言っているとおり、この世の半分は男なのだ。生きて行くならばそれを理解しなければならない。
恐る恐るサーガの手に、シラアイがその細い手を乗せた。
「よし。3日間よろしく」
「よろしく…お願いします…」
サーガが柔らかくシラアイの手を握った。
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