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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
61/81

相談

出会った時はただの猫だった。

そして猫又と呼ばれる妖怪に成り、八重子と呼ばれていた飼い主が死んだ後もその魂を追いかけ、側で守っていた。

という話しを聖教国のとある宿屋で話していた。

サーガの目は何処とも知れない空をぼんやりと見つめている。


「突拍子もない話しについていけぬことは知れるが、簡単に言えば、あの聖女は我が輩の命の恩人の姿とそっくりだということだの」

「は~ん」

「信じておらぬな? お主」

「は~ん」


クロムは溜息を吐いた。


「今さらながら、神がお主を遣わした理由が知れた気がするの」

「は~ん」

「おいお主、それしか言えぬのか」

「は~ん」


だめだこりゃ。クロムは諦めた。


「どうにか彼奴に接近する手段を考えなければならぬの。しかし聖宮は結界が多く、我が輩でも手を焼く…」


命を奪うには手の届く距離まで近づかなければならない。


「今日みたいに外に出る時を狙えばいいじゃん」


やっとサーガが「は~ん」以外に言葉を発した。


「言うたであろう。聖女は滅多に聖宮から出ては来ぬと」

「でも完全に出ないわけじゃないんだろ? その時を狙ったら?」

「それも一理あるが、それまで時間があるかどうか…」

「え? 期限でもあるの?」

「邪神の企みが女神の予想以上に進行しているようだの。ともすれば、我らが行動を起こす前に、この世界が滅びの道を歩む事になる」

「は~ん」


また戻った。


「さりとて我が輩もこの世界がどうなろうと構わぬ。しかしそこに八重子が利用されているというのが気に食わぬ。どうにか事が起こる前に八重子の命を取らねば…」

「は~ん」

「お主…。やる気がまったくないの…」

「最初から俺はやるなんて一言も言ってません」

「報酬の話しかの…。やれやれ。では我が輩が絶世の美女に化けてお主の相手をしてやればよいか?」

「…あん?」

「人型であれば女に化けることも可能だの」

「いやいやいや、ちょっと待て。その場合、お…女、に、なるのか?」

「生物学的には女性の体ということになる」

「…体は女…」

「元は雄だがの」

「いや! それはなんだか騙されている感がするから嫌だ!」

「贅沢な奴だの! 我が輩であれば最高の夢を見させてやることもできるぞ!」

「なんか嫌だ!」


しばらく嫌だ! 贅沢だ! の応酬が続いた。


「ならば何なら良いのだ!」

「ん~、無難に金、か?」

「それで良いのか? 死んだら金など無意味であるぞ?」

「なんで死ぬ前提なんだよ」

「我らは役目が終えたら後は散るのみ。多分であるが用が済んだらこの体はなくなってしまうのではないかの?」

「俺はまだ遊び足りないので、さようなら」

「逃げるな!」


窓から逃げようとするサーガの背中に飛びつく。


「例え逃げても我が輩は瞬間移動でお主の元へ行けるのだぞ? 忘れたか?」

「…ち」


大人しくベッドに戻った。


「大体女を殺すってのが気に食わん」

「それしか救う手立てがないのだの。仕方がなかろう。それに殺すと言うより、肉体から解放してやると言った方が正しいかも知れぬ」

「解放?」

「八重子は無理矢理この世界に転生させられたのだの。本来生まれるはずのなかった存在。肉体に死をもたらすことで八重子の魂はあるべき輪廻の輪に戻っていけるのだの」

「結局殺すことに変わりはねーじゃんか」

「仕方なかろう。肉体の活動を停止させなければ魂を取り出せぬのだの」


クロムの顔に陰りが差す。クロムも辛いのだろう。


「我が輩1人でやっても良いのだが、いざという時に動けなくなってしまうやも知れぬ。故にやはりお主の手を借りたい。この通りだの」


小さい頭をサーガに向かって下げる。

子供に頭を下げられるというなんともおかしな場面に、さすがのサーガも尻が痒くなりそうだ。


「1億」

「ぬ?」

「女を殺すんだぞ。せめてそれくらいもらわねーと」

「死んだら金も何もないのだが、それで良いのかの?」

「てめーに払えんのか?」


ニタニタとクロムを見下ろす。


「良かろう。近日中には用意しよう」

「え…」


まさか払うと言い出すとは思わなかった。


「そうそう、金で思い出したが、お主から借りた金、今返しておこう」

「は? 俺貸したっけ?」

「勝手に借りた」


いつ? どうやって?

サーガがその疑問を口に出す前に、クロムが空間に手を突っ込む。


「手…手…消え…」


空間魔法を見るのは初めてのサーガだった。

よいしょとその空間からクロムが金貨を5枚取り出す。


「我が輩は空間系の魔法?が使えるのだの。故にそこから伝ってお主のその収納袋から勝手に金を借りたのだの」

「はあ?! はああ?!」


収納袋には結界を張っていたはずなのに、クロムはサーガが思いもつかない方法で金を取っていったと知り、驚愕の表情を浮かべるサーガ。


「ど、泥棒?!」

「借りただけだの。だから今返すと言っておるだろうの」


微妙な顔をしつつも、しっかりクロムから金を受け取り収納袋に入れる。


「さて、となると問題は、どうやって聖宮に潜り込むかということだの」

「俺はまだ金もらってないから何もやらないぜ。おやすみ」

「ぬう…。そう言われては何も返せぬ…」


クロムに背を向け、ベッドに潜り込むサーガ。

クロムは溜息を1つ吐き、同じようにベッドに潜り込んだのだった。













辺りに響き渡る鐘の音に目を覚ます。


「ぬ、起きたかの」


小生意気なクロムも既に起きていた。子供のくせに早起きだなと思いつつ、体を起こす。

さて朝食だと食堂の方へ降りて行くと、既に食べ始めていた旅姿の者達と、その場に跪いて同じ方向を向いて手を合わせている者達の姿と別れていた。


「なにこれ?」

「あんた、知らないのか?」


近くにいた旅姿の者がサーガの言葉に反応してくれた。


「朝のお祈りの時間だよ。この時間の間は街中の人間がお祈りしてるんだ。だから朝飯にありつきたきゃその前か終わってからでないと給仕してくれないぜ」

「マジか…」

「ぬう、忘れておったわ」


クロムを軽く睨み付けると、クロムも困ったように腕を組んだ。

間もなくして終わった祈りの時間の後に、ようやく朝食にありついた2人。

食べ終わるとさっさと身支度を整え、とっとと宿を出た。


「さ~て、帝国から逃げられたは良いけど、どこ行こう?」


聖教国に突然拉致られて来たのはある意味有り難いが、今自分がどこにいるのか正確な位置が分からない。


「我が輩は一度王国の方へ戻ろうと思うのだが、そちらでよければ運んでやるぞ?」

「王国ねえ」


ふむ、と一息吐いて、サーガは考える。

連合諸国の方へ行ってみたい気もするが、一応見知った顔のいるサランの街に少し顔を出して行ってみようかなと。

なにより聖教国にある意味密入国した状態なのが居心地悪い。王国ならばその辺り多少融通は利かせてくれるかも知れないとも考える。


「よし、折角の申し出だ。受けてやろう」

「言わずに置いて行けば良かったかの」


2人で人気の無い路地へと入り、次の瞬間姿を消した。












サランの街の手前でクロムと別れる。


「我が輩はちと金を稼いで来よう」


そう言ってクロムは姿を消した。


「や~久しぶりに見るな~」


のんきに街壁を見上げながら、サーガは最初の街、サランの街へと入っていった。


「こんちは~」

「え?! サーガさん?!」


突然ギルドに姿を現わしたサーガに、サララが素っ頓狂な声を上げる。


「久しぶり~サララさん。元気だった?」

「はい、元気です…。じゃなくて! 獣王国の方へ向かったと聞きましたけど?!」

「あ~、うん。まあいろいろあって近くまで来たから寄ってみた」


相変わらずお気楽な調子のサーガに、サララは肩を落とす。


「なんだか相変わらずですね。まあいいんですけど。で? お仕事を探しに?」

「いや、ちょっと顔出しただけ。じゃ」


急いで回れ右しようとしたサーガの肩を、サララはがしっと掴んだ。


「丁~度、あなたのような人に任せたい仕事があるんですよ…」

「サララさん? 笑顔が怖いよ?」


にっこり笑顔のサララが一枚の依頼書を取り出した。


「この街から北の方へ行った所に小さな村があるのですけれど、その周辺で紫色の怪物が出現したので、その調査依頼です」

「紫色の怪物?」


サーガの瞳が一瞬光ったが、サララはそれに気付かなかった。


「はい。未確認の魔物の一種なのか分かりませんが、人型で大きな体格なうえに獰猛なので、なかなか側まで近づく事も出来ないので調査が捗っていないのです。近くの村の様子も気になりますし」

「ふ~ん…」


サーガは目を逸らしつつ、気の乗らない返事を返す。


「サーガさんでしたら、こんな依頼もちょちょいのちょいなんじゃないですか? そういえばランクは上げられました?」

「うんにゃ。まだCのままよ」


サララが固まる。


「…これだけ時間が経ってるのに…、なんでまだC…」

「いろいろあってね~」


逃げたりとか、逃げたりとか、逃げたりとか。


「サーガさん、お仕事、しましょう?」

「…ええと、はい…」


なんだか逃げられない圧を感じ、サーガは渋々仕事を受けた。


お読みいただきありがとうございます。

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