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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
60/81

帝国から逃げろ

前回のあらすじ~

「ほう、お前が貢ぎ物とな?」

「はい?」

「ったく、勝手に人を貢ぎ物にするんじゃねーや」


命からがら城から逃げ出し、帝都の端の食堂で朝食を食べていたサーガ。ぶつくさ言いながらもその手は止まることはない。そしてその耳も。


「あいつじゃないか?」

「まったくその通りじゃないか?」


なにやらヒソヒソと、サーガに聞こえないように話される会話。全部聞こえているのだけれども。

それに周りから向けられる視線。何か狙われているような落ち着かない気分になる。

なんだか嫌な感じがして、サーガはさっさと食事を終わらせる。


「ここ置いとくぜ」


勘定をテーブルに置いて立ち去ろうとしたが、その前に立つ人人人。


「なんだぁ? 喧嘩でも売ってんのか?」


サーガが睨み付ける。どう見ても一般市民の男性達が後退る。


「い、いや、その、もう少し待ってくれないか…」

「連れてきたぞ!」


店に声が響く。その声の主の後から現われる憲兵の姿。


「いかがでしょう」


声の主が憲兵に何か確認している。憲兵は持っている紙とサーガを見比べて何かを確認している。


「間違いない! そいつだ!」


その声を合図に、憲兵隊がどかどかと食堂に雪崩れ込んできた。


「なんだぁ?」


何か憲兵に追われるようなことをしただろうかと首を傾げるが、何も思い当たらない。そして手首をがっちりと掴まれる。


「さて、少し来て話しをしてもらおうか」

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺が何したってんだよ!」

「お前には指名手配がかかっている」

「はあ?」


憲兵が手持ちの紙をサーガに見せた。そこにはサーガに瓜二つの人物の肖像画。いや、サーガそのものだろう。


「特徴が黄色い髪の黄色い瞳。そして若干足らぬ背丈。間違いようもないな」

「足らぬ背丈は余計だろ!!」

「マリエラ陛下直々の手配で、お主、かの方の伴侶として見初められたとか…。本当か?」

「知らない。まったく身に覚えがない」


サーガは首を横に振る。


「まあとにかく、見つけたら城へ連行しろと通達だ。来てもらう」

「やなこった!」


サーガは素早く手を振り払うと、憲兵達の間を器用にすり抜け、外へと逃げていった。


「! 追え! 逃がすな!」


憲兵達が揃ってサーガを追うも、そもそも身軽なサーガである。あっという間に追っ手を振り切り、帝都から逃げ去った。











「や~れやれ。まだ遊びに行ってない所もあったのに」


逃げた先で辿り着いた村で一泊しようと、宿屋でのんびりしていたサーガ。

しかしその耳に迫る足音が聞こえていた。


「まさか…」

「指名手配の男が来ていると通報があった! その方、一緒に来て…おや?」


宿屋の扉を蹴破って憲兵が中に入るも、すでにその姿は消えていた。













「まさか、もうすでに帝国中に手配書が回ってるんじゃないだろうな…」


慌てて宿から逃げ出していたサーガが、物陰に隠れながら憲兵達のやりとりと聞いていた。

いくらなんでも昨日の今日。そんなに早くお触れが回るとも思えなかったが、相手は女帝。どんな手を使っているのか分からない。


「くそう。とにかく、この村もダメか」


苦い顔をしながらも、村の外へと逃げていくのだった。

そしてサーガは行く先々で、すでに自分が指名手配されていることを知ることになる。














「なんでこうなるんだよ!」


人気の無い森の中。1人寂しく焚き火を囲む。適当に獲ってきた魚が今日の晩ご飯。本当ならばどこかの街で美味しい物を食べて綺麗なお姉さん達と遊んでいるはずだったのに…。


「確か、このまま西に進めば、連合諸国と聖教国に行けるんだったよな…」


教えてもらった大まかな地図を記憶の底から引っ張り出す。

アルトリア王国から東の獣王国をほぼ駆け足で抜けることとなり、そして北の帝国へとほぼ半周した形となっている。本当ならばまだ獣王国で綺麗どころを侍らせて遊んでいるか、はたまた帝国でやっぱり綺麗どころを侍らせて遊んでいたはずなのだが…。

獣王国では嫁を押しつけられ、帝国に来たらば指名手配。何故か碌な事がない。


「宗教国家に行くのはちょっと憚られるから、となると残るは連合諸国しかねーな」


行く先々でトラブルに巻き込まれるのは分かるが、何故そこで嫁問題に発展するのか意味が分からない。嫁をとる気は毛頭無い。元より傭兵として生きてきたサーガに、家庭を持つという考えはない。


「まさか連合諸国でも押しつけ嫁があったりはしねーよな…」


そんなことになったら逃げ込む先が宗教国家しかなくなってしまう。

嫌な考えを振り払い、さっさと食事を済ませると、そのまま眠りに就いた。















そんなサーガが画策しているより少し前。獣王国の最北の街に辿り着いた2人の女性がいた。


「む~、情報を集めたけど、やっぱり帝国に向かったみたいアル」

「ですぅ…」


サーガの追っかけ嫁のディアナとサマーラである。

サーガの足取りを追いかけ、この北の街まで来たはいいが、さすがに行き詰まってしまった。この先へ行くには獣人にはかなり厳しい。

関所を睨みつけながら、どうにかサーガを追えないかと2人は画策していた。


「やあやあ、君達」


そこへ気軽に声を掛けてくる青年。

何かと視線を向けてみれば、そこには獣王国の王たる竜王の姿。


「りゅ…」

「竜王様…」


慌てて片膝を付く2人。


「ああいいよ、今は非公式な場だから」


のんきな声でそう言われ、渋々ながらも2人は立ち上がる。


「ちょっと聞くけど、君達もしかして、オーガという人物を探してる?」


そう問われ、2人は視線を合わせて首を傾げる。


「私達が追っているのは、サーガという人アル」

「ですぅ…」

「やっぱり偽名だったか…」


竜王がボソリと呟く。


「え? 何か?」

「いやいやなんでも」


竜王が手を振る。


「黄色い髪の黄色い瞳で、このくらいの背丈の男でしょ?」

「! そうアル! 竜王様、サーガを知ってるアルか?」

「うん。あそこで会ったよ。それでちょっとおつかいを頼んだんだ」


関所へ続く道を指さす。


「おつかい…?」

「帝国に行く様子だったから、なんだか風の精霊にもの凄く好かれてて面白そうだったし、報酬次第でちゃんと仕事もしてくれそうだったから」

「やっぱり帝国に行ったアルか…」

「ですぅ…」


2人が落ち込む。


「君達も帝国に行きたいの?」

「! 帝国に行きたいというか、サーガを追いたいアル! 私達の旦那様アル!」

「です!」


獣人の女性はかなりしつこいのが特徴である。


「だったらさ、僕の隠密部隊に入って訓練を受けない? 君達猫科獣人だったら隠密行動は得意でしょう?」

「へ?」

「え…」

「そこで訓練を受けて、僕のおつかいをこなしてくれるなら、帝国に入るのに僕も支援をしてあげられるけど」


2人は顔を見合わせた。竜王の言うおつかいがどんなことかも分からない。とても危険な任務かもしれない。しかし帝国へ潜入することは容易になり、帝国へ入ればサーガの情報も掴めるだろう。


「よろしくお願いしますアル!」

「です!」

「よし、じゃあさっそく案内するね」


そう言って竜王は2人を案内していく。


(帝国に行きたがる者は少ないからね~。丁度良いと言えば丁度良い人材だね。サーガ君、本当に面白い人間だなぁ)


内心ほくそ笑んでいた。















連合諸国を目指しつつ、人目につかぬよう森の中を進んでいたサーガ。そこへ突然。


「見つけたのだの」

「うぎゃあああ!!」


気配に敏感なサーガが、突然の頭の上からの声、そしてのしかかる肩の重みに思わず悲鳴を上げる。


「てめ! どこから現われた!」


少年姿のクロムが、サーガの肩に座っていた。


「我が輩は瞬間移動が出来ると見せたではないか。そういうことだの」

「心臓に悪いからせめていきなり肩の上はやめろ」


心臓がバクバクいっている。近づけば風がその気配を教えてくれるので、いままでに不意打ちを食らったことはなかった。サーガ、初めての経験である。


「お主が遊び回っている間に我が輩も情報を集めたのだの。どうやら聖教国の聖女と呼ばれている者が怪しい。ちょうど今日なんとか祭とやらで聖女が教会から出て来て姿を見せるらしい。ということで、行くぞ」

「ちょっと待て。なんで俺が…」


言っている間に、サーガの目の前の景色が変わる。どこかの街の裏路地のような場所に立っていた。


「ちょっと待て。どこだここ…」

「聖教国の首都の街だの。ほれ、その道を行かんかい」

「俺に命令するのかよ!」

「別に、言うことを聞きたくなければよいが…、泣くぞ?」

「泣くって…」

「よいのか? 幼子を肩車したままで泣いているのを見られるのだぞ?」

「落としてやる!」

「びえーーーーー!! パパが! パパが僕に意地悪するーーー!」


子供の声はとにかく響く。表通りが近いのか、道の先から何事かと覗いてくる人の目があった。


「ちょ、待て! 泣き止めバカ!」

「びえーーーーー!!」

「分かった! 言うとおりにするから!」


ピタリとクロムが泣き止んだ。


「最初からそうしていればよいのだの」

「ぐぬう…」


振り落としてやりたい衝動を抑えつつ、サーガは言われたとおりに道を進んだ。

表通りに出ると人だかりが出来ていた。


「教会の奥の聖宮と呼ばれる場所から、聖女は滅多に出てこないらしい。そこへ行くのは我が輩でもちと難しくての。ちょうど今日お目見えがあるというので、まあ一応標的の顔をお主に見せておかねばとの」

「俺はやるなんて一言も言ってないんだけどな」


ぶーたれつつ、サーガは人垣の向こうへ目を向ける。しかし背が低いのが災いして、人の頭か背中しか見えない。


「ぐぬう…」


幸い、人々の目は正面に向けられている。サーガは風の力を使い、少しだけふわりと浮き上がる。


「お、見やすくなったのだの」

「てめえ、振り落とすぞ」


そんなことを言ってる間に、通りの向こうから徐々に歓声が沸き起こる。聖女が姿を見せているのだろう。


「お、あの馬車に乗っているのがそうであるらしいの」

「聖女ってんだから、やっぱ美人なんだろうな」


少し興味をそそられつつ、馬車が正面に来るまで待つ。遠目だが馬車の中を一生懸命覗くが、絶世の美女というような女性はいなかった。言ってみれば普通。年の頃から判断しても、まあ可愛い顔立ちではないか? といえる感じの女性と気難しそうな老人が乗っているだけだった。


「ふ~ん。案外普通」


歓声が高まり、そして遠ざかっていく。


「ん? おい?」


肩に乗っているクロムの様子がなんだかおかしい。頭を掴む手も、肩口から伸びる足も冷たくなっている。そして微かに震えている。


「なんで…。なんで…」


口から零れるなんとか聞き取れる程の声。

サーガは人目を避けるためにこっそり裏通りに入った。


「おい、どうしたんだよ」


肩から下ろすにもまったく抵抗せず、その顔は青ざめていた。


「あの、…あの姿は…」

「おい、どうしたってんだよ!」


焦点の合わない目のまま、クロムが呟く。


「八重子…」


お読みいただきありがとうございます。

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