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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
59/81

帝国の女帝

前回のあらすじ~

リュウと名乗る青年に、おつかいを頼まれた。

獣王国の検問所はあのリュウと名乗った青年の采配か、それほど問題なく通ることが出来た。

問題は帝国側の検問所だ。獣王国から来たという事でそれこそ厳しく取り調べが行われた。如何に同じ只人と言えど、獣王国に味方する只人も少なくはないので、間諜を警戒してのことだろう。

ただ滞在日数があまりにも少なすぎる事などから(移動速度を考えてもおかしいなと思ったりもしたわけだが)、通りがかりの冒険者となんとか判断してもらい、無事に通り抜けた。

ただ監視の目は付くようで、そういうことに敏感なサーガは少し不快に思ったわけだがまあ仕方ない。

元よりこの自由人をいつまでも監視できるような者がいるはずもなく。普通に行動しているだけなのに、何故か監視はサーガを見失ってしまう事になる。

その後あちらこちらで発見されるサーガに疑いの目が向けられるも、その発見場所の殆どが花街ということで、それほど厳しくなることもなかった。

サーガはいつものようにフラフラとしながら、帝国の情報を集めていた。何よりもまず不穏なおつかいを済ませてしまいたい。女帝という者がどんな存在なのか、どこに住居を構えているかなどフラフラしながら集めた。サーガの場合は耳をそばだてなくとも風が情報を運んで来てくれるのだから楽なものだ。

女帝はありきたりではあるが、帝都の城に住んでいるということだ。


「まあそうだよね」


ということで、一路帝都を目指す。

帝都に辿り着いても最初に足を向けるのは相変わらずの花街だ。そういうことが好きだから、ということもあるが、花街ほど情報が集まる場所もないわけである。花街という場所にほぼ閉じ込められている女達なのに、なぜそこまで情報通なのか、言わずもがな。

しかし女達も、閨で聞いた話をそれこそ一見の客に簡単に教えてしまうほど口が軽いわけではない。中には例外もいるが、女達もいろいろ弁えているのである。それこそ客商売の見本であろう。

その辺りはサーガも心得ているもので、趣味も兼ねて女達の元へと足繁く通うことにする。趣味だけではないのだ。ここ大事。

持ち前の気軽さなども手伝い、サーガはするりと女達の心の隙間に入り込む。一度口を開いた女は、それこそ洪水のように情報をもたらす。いらんことまで教えてくれるけれども、そんな情報も後々役に立つことがあるので侮れない。

冒険者としての活動も怪しまれないくらいにこなしつつ、サーガは女帝の寝所に潜り込む計画を立てた。寝込みを襲うわけではない。一番人気が無さそうで、おつかいを済ませやすそうだからだ。そこは勘違いしてはいけない。

風で天気を読む。その気になれば一帯の雲を集めることも可能ではあるが、疲れるからやりたくない。新月を待つにも時間がいるので、雲が天を覆い尽くしたその夜に、サーガは計画を実行に移した。

風が操れるだけなので姿を隠す方法はない。なので暗闇の中を皇帝の住居の方まで高い空から飛んで行った。兵士達もまさか上空から侵入者があるとは思わないだろう。この世界では人はあまり空を飛ばないらしいので。


「ん? この世界?」


なんだかおかしなことを思った気がしたが、いつもの通り気にしない事にした。

何故花街の女性が城の内部に詳しいのかはさておき、サーガは仕入れた情報を元に女帝の寝所らしき場所の窓辺に降り立つ。さすがのサーガも会ったこともない人物の気配を辿ることなど出来ない。

こっそりと部屋の中の気配を探ると、女性が1人。寝る仕度をしているのだろう。部屋の外の扉の前にも2人ほど気配があったが、それは侍女か何かであろう。

女性がベッドに潜り込む気配があった。サーガは素早く部屋の中に遮音結界を張る。これで部屋の中の会話は外からは聞こえないようになった。

窓の鍵などなんのその。風の力で鍵を開け、サーガはそっと窓を開けて中に入り込む。


「誰だ?!」


なかなか勘の良い女性のようだ。


「え~と、名前なんだっけ? マリエラ…なんとか陛下? ですか?」


そこは名前を覚えておこうよ。


「いいや違う」


女性がきっぱり否定する。


「あ、ご本人様ね」


サーガがそれを否定する。


「何者だ、貴様」


ベッドに入ったはずの女性が、すでに剣をサーガに向けて構えている。なかなかいい反応をする女性だ。


「ええ、まあ、見ての通り怪しい者ですけどね。俺はただお使いを頼まれただけなので」


自ら怪しい者と認める者も珍しい。

女性がしばらくサーガを睨み付けていたが、その剣を下ろした。


「ふん。敵意は見られぬな。もし私の命を狙っているものならば、姿を現わす前に何かしていよう」


と言いつつも、剣を鞘に収める気配はない。


「いや~話しが早くて助かった。んでこれ、「リュウ」って名乗る奴から預かってきた手紙っす」


近づいたら警戒されるかと、軽く投げて寄越す。平時ならば「無礼者!」と切り捨て御免になるような所業である。

女性も接近されたくなかったのか、文句も言わずに投げられた手紙を受け取った。そして枕元でまだ明かりを消していなかったランプに近づけてその蝋印を見た。


「! これは…」


驚いた顔でサーガを見た。


「貴様…、間者か?!」

「いいえ。俺はただの旅人です」


勝手に間者にしないで欲しいと不満を顔に出しつつ答える。

警戒しつつ女性が手紙を開けた。暗くて分からなかったが、女性は綺麗な金髪でゆるくウェーブがかかっている。ランプの明かりで少し赤っぽく見える。


(…? あれ? どっかで見たような…)


既視感。なんだかとても懐かしいことを思いだせるような気がしたが…。


ずきり


「…っ!」


頭が痛んだ。


「なるほど…」


手紙を読み終えたのか、女性がサーガを見る。


「お主、強いのか? いや、強いのだな」

「は? ええと、まあ、強いけど」


何故いきなりそんなことを聞かれるのだろう。


「確かに、先程から私がこれだけ声を上げているのに、誰も反応しないのは奇妙であるな。すぐに気付くべきだった」

「あ~? え~、まあ?」


何かに納得されているらしい。


「いいだろう。お主を私への貢ぎ物として認めてやろう。明日にでも練兵場にてその方の実力を確かめ、もし私の眼鏡にかなうのであれば…」

「ちょちょちょ、ちょっと待った! 今なんつった?!」

「ん? 明日にでも練兵場にて勝負をしようとだが?」

「その前!」

「ん? ああ、貢ぎ物か?」

「そうそれ!」

「お主、それを承知で来たのではないのか?」

「初耳ですけど?!」

「なんと。竜王の奴、お主に了承を経たのではないのか?」

「俺は手紙を届けてくれって言われただけ!」


ん? 竜王?


その単語に引っ掛かったものの、なんだか嫌な予感がして腰が引ける。


「まあそんなことはこの際どうでもいいわ。あの竜王が認めるような男だ。私の伴侶としても相応しい」

「相応しくありませんので! さいなら!」


慌ててサーガが開け放っていた窓から飛び出して行った。


「あ、これ! 待たぬか!」


サーガの後をお追うにも、女性ことマリエラ陛下は空を飛べない。夜空を飛んでいく黄色い髪の男を見つめる事しか出来なかった。


「ち、竜王め。ここまで読んでおったな…」


手紙に書いてあったのは、簡潔に言えば、もういい加減飽きたから戦争を止めない?という事だった。そしてこの手紙を運んだ男は、きっと君の眼鏡にかなう男だから、こちらからの誠意の証として好きにして良いよ。ただし出来るものならね。とついでに書いてあったのだ。そして後日、違う間者を送るので、その時に返事をもらいたいとも。

実を言えば女帝マリエラも、いつまでも続くこの戦争に嫌気が差していたのだ。故に少しずつであるが、獣人に対する意識改革を行っている最中であったのだった。元々聖王国寄りの考えを持っていた帝国ではあったが、この所聖王国の動きがなにやら怪しい。それに、時折流れてくる魔族国からの珍品貴品、それに良質の薬草などに、ディアナは聖王国よりも獣王国と手を結んだ方が得策ではないかと考えていた。そして将来的には魔族国との貿易も見据えていたのだ。

それを見越したかのような今回の竜王、つまり獣王国の王からの密書。

マリエラが幼い頃から一番恐れていた竜人族。獣人は獣化することができる。それは竜人も同じ。竜とはつまりドラゴンだ。その彼らが本気で戦いに参入してきたら人族などが敵うものなのだろうかと常々思っていた。

だからこそ彼女はいろいろな手を使い、女帝となった。すべては帝国を守る為。ともすれば竜王に嫁ぐ覚悟も持っている。


「全ては竜王の手の内か? それは考えすぎか?」


マリエラはランプの火に手紙を近づけ、それを灰にした。


お読みいただきありがとうございます。

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