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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
55/81

獣王国へ

前回のあらすじ~

報酬についてきちんとお話しするために、ちょっと来て頂きました。

翌日。

サーガが子爵邸を訪ねると、すぐに中へと通された。そしてすぐに子爵とイリアーナが揃ってやって来た。

揃って顔色が悪く、揃って満面の張り付いた笑みを浮かべて。


「どうぞご確認下さい」


今までとは正反対にバカ丁寧な対応で、上等な革袋を差し出す。サーガが中を確認すると、金貨がぎっしり詰まっていた。


「ん。確かに」


あからさまにほっとした顔になった子爵とイリアーナ。


「んじゃ、用も済んだし、さいなら~」


金を受け取るとさっさとサーガは屋敷から出て行った。その後ろ姿を張り付いた笑みで見送った2人。

後に子爵の治める領内では、旅人や冒険者に親切になっていくようになるのだが、それはまだ先の話である。













サーガがそんなことをしている頃。王都に到着した一行がいた。

早速とばかりに冒険者ギルドへと足を向ける1人の女性。侍女の1人が慌てて後を付いてくることから、貴族であろう事が窺える。


「こんにちは」


颯爽とギルドへと入って行く凜々しい姿の女性。ギルド内が一瞬静まりかえる。

ツカツカと受け付けの所へ進み、


「依頼を出したいのだけれど、いいだろうか?」


まるで宝塚のような凜々しい姿に見とれていた受付嬢が、慌てて姿勢を正す。


「は、はい! どのようなご依頼でしょう?」

「サーガという冒険者に指名依頼をしたいのだけれど」

「はい。指名依頼でございますね?」


受付用紙に依頼内容を書いていく。

その話しが聞こえていたのか、隣の受付で話しをしていた男が女性に振り向いた。


「もし、突然失礼致します。もしや、クラリス様ではございませんか?」

「ん? 私を知っているのかい?」

「はい。私はサランの街を拠点に魔道具を販売しております、オックスと申します。お初にお目にかかります」

「ああ、オックス魔道具店なら聞いた事があるよ。ここには買い出しかい?」

「はい。左様にございます。ところで、今サーガくんの名前が聞こえた気がしましたが?」

「ああ。彼に頼みたいことがあってね。彼が王都に向かったと聞いたから、今ここで活動しているのだろうと」


オックスが残念そうな顔になる。


「誠に残念ではありますが、サーガくんはすでに王都にはおりませんよ?」

「なんだって?!」


クラリスが驚く。


「数日前にすでにここを発ち、どうやら獣王国の方面に向かったようです。私も後から知りまして…。クラリス様?」


クラリスがヘナヘナと床に座り込んだ。


「土砂崩れもやっと解消して…急いでやって来たというのに…。もう、いない?」


呆然と呟く。


「ど、どうやったら…、どうやったらあの男を掴まえられるんだっ! 行動が早すぎじゃないか?!」


駄々っ子のように叫ぶその姿は、貴族らしからぬ姿であったという。












そんなことなど知るはずもなく、サーガは順調に獣王国へと近づいていた。

そして近づくほどに耳にする言葉。


「獣人とは喧嘩をするな」


獣人はほぼ完全な弱肉強食社会であり、強い者ほど偉いらしい。そんな社会に馴染めないものが王国に流れてくるということだ。

強い者ほど尊敬され、弱い者ほどいじめられる。只人から見れば十分に強い獣人でも、獣人社会で弱ければ普通の生活もままならないらしい。そんな者が王国へと流れて来て冒険者になるとか。

そして只人は体の構造的にも獣人には力では敵わない。時に拮抗できるほどの怪力の持ち主などがいるが、それも稀だ。ただし只人はそれを補うかのように、魔法の扱いが獣人よりも上手い。なのでなんとか獣人とも普通のお付き合いが出来ているのだった。

そして獣人は喧嘩っ早い。強い者と闘いたがる傾向があり、それに巻き込まれる只人もいる。そして負ければ見下げ果てられ、勝つと持ち上げられるらしいのだが…。勝ったら勝ったでまた面倒くさいのだそうだ。


「ふ~ん、面倒くさいねえ」


何が面倒くさいのかと思いつつ、サーガは無事に国境を越えた。

そして国境の街で早速酒場へとしけこみ、情報収集。


「なんだ? ここはガキの来る所じゃねーぞ?」


まるでテンプレ通りに絡まれた。

お相手は身長180㎝は優に超えたがっしりした体格の、耳からして猫科の獣人らしかった。尻から生える尻尾からして、虎のようにも見える。

1人でひっそりと飲みつつ交わされる会話に耳を傾けていたサーガの側にやってきて、声を張り上げたのだった。


「ガキじゃないから来てるんですけどー」

「がはは! お前みたいなチビがガキじゃなけりゃなんだというんだ」


サーガのこめかみがひくりと動く。


「獣人とは喧嘩をするな」


という言葉を思い出しつつも、売られた喧嘩は買わねばならぬ主義。


「お前みたいなチビのガキはミルクがお似合いだ」


ダン!


と音を立てて、持っていた容器をカウンターに叩きつけるように置いた。


「2回も言ったな…」


低い声で呟く。


「あん? なんか言ったか? チビ」


大きさとは力だ。故に獣人の間では体が小さいというだけでなめられる。


「3回…。いいぜおっさん。ギッタンギッタンにしてやるよ。表に出な」

「チビのガキが、俺に敵うと思ってるのか?」

「4回…」


笑いながらサーガの後に続く獣人の男。周りはざわめくが、止めようとする者はいない。

そして表に出て対峙する。周りには見物人が集まってくる。


「さあ、かかってきやがれ」


獣人の男は完全にサーガをなめきっていた。


「ああ、行ってやるぜ」


次の瞬間、サーガの姿が消える。


「あん?」


不思議に思ったのも束の間、獣人の男は後頭部に膝蹴りを受け、顔から地面に倒れた。


「お、おつ…」

「おうおう、体がでかい分丈夫だなぁ。でもここはどうかな?」


そんな声が後ろから聞こえた後、股間に鋭い痛みが走った。


「ぎゃうん?!」


おかしな悲鳴を上げ、体を丸める。


「あらあら~、やっぱりここは鍛えられないかな?」


無情にも庇う手を押しのけ、再び足が迫る。


「ぎゃうん?! や、やめてくれ…、お、俺が悪かった…」

「4回…。4回もチビって言ったな…」


サーガの目は本気だった。

獣人の男はその時になって初めて戦慄するも、その後しっかり股間を2回蹴られたのだった。












「アニキ!」

「うるせえ! 俺はアニキじゃねえ!」


喧嘩に勝って、悠々とその場を後にした。が、痛みが治まったその獣人の男が追いかけてきて、サーガに縋り付いてきた。


「そんな小さい体であんなにお強いとは! 惚れました!」

「うるせえ! 小さい言うな! それに男に惚れられても嬉しくねえ!」

「ブッキンシュのアニキ? 何やってんでぇ?」


サーガの後ろをヘコヘコと揉み手をしながら歩く獣人の男に声を掛けてきた者達がいた。


「おう、ヒュオロにジェイダじゃねーか」


同じ猫科と覚しき2人の獣人の男。


「このサーガのアニキがな、俺を瞬殺するほどお強い人でな」

「「え?」」


2人が疑わしげな視線をサーガに向ける。


「おう! なんだてめえら! 俺が嘘吐いてるとでもいうのか?!」

「え? いやいやいや、そんなことは…」


慌てて手を振る2人。


「だからよ、俺はアニキの手下になったのよ」

「手下にした覚えはねえ!」

「「なるほど」」

「納得すんな!」


獣王国では、喧嘩をした場合負けた方は勝った者に何かを差し出す、という暗黙のルールがある。なければ己が身を差し出すのも普通の事である。


「ならサーガのアニキは俺達のアニキも同然てことだな」

「そうだな」


2人の獣人が納得したように頷き合った。


「いやだから、俺はそんなものいらねー…」

「おっと、申し遅れやした。俺はブッキンシュ。よろしくお(ねげ)ーしやす」

「俺はヒュオロと申しやす」


黒耳の男が言った。


「俺はジェイダと申しやす」


ブッキンシュと似た黄色耳の男が言った。


「だから俺はー…」

「アニキ! 是非ライオネルの旦那に会ってくれやせんか!」


話しを聞かない奴らだ。サーガはそう思った。


「そりゃあいい! ライオネルの旦那も強え奴は大好きだ!」

「是非案内しやしょう!」

「え? おい、ちょ、…」

「さささ、こっちでやす!」

「おい! まだ行くとは言ってねー!」


嬉しそうな楽しそうな3人の獣人に担がれ、サーガは訳も分からず立派な屋敷へと案内されていった。












「ほう、ブッキンシュを瞬殺」


雰囲気からしてライオンか。重厚で立派な椅子に座ってサーガを眺める獣人の男。


「へえ! もうお強いのなんの」


ブッキンシュがヘコヘコしている。雰囲気からして、ブッキンシュより強いのだろうということはサーガも分かった。


「面白い。我とも手合わせ願おうか!」


勢いよくライオネルが立ち上がった。

なんとなくそうなるのではと思っていたが、やっぱりそうなるのかとサーガ心の中で溜息を吐いた。


お読みいただきありがとうございます。

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