報酬のお話
前回のあらすじ~
どこかの会議で話されていたことが…。
あの襲撃のあった日の翌日。サーガはさっさと王都を離れていた。フットワークの軽い奴である。
ものは試しと獣王国へ向かっていたある日。
「きゃあ!」
どこからか聞こえた女性の悲鳴。
「む? 金の臭いか?!」
さっそくすっ飛んで行った。
すっ飛んで行ったその先には、豪奢な馬車を襲っている盗賊らしき一団。
「誰か、誰かー!」
響き渡るか弱き女性の声。
ぐへへと笑う下卑た男達の笑い声。
「美女(と金)に呼ばれれば、助けに参りましょう今すぐに!」
と大声で言い放ち、男達の群れに突っ込んだ。
アホなかけ声に反応が遅れ、もとよりサーガの動きに常人が反応できるはずもないのだが、男達はあっさりと地に伏した。
「大丈夫ですか、お嬢さん」
馬車から引き摺り出されていた金髪の美少女にサーガが手を差し出す。
美少女が頬を染めてその手を恐る恐る握り締め…ることはなく、
パン!
払いのけられた。
「どうしてもっと早く助けに来ないのですの?!」
怒られた。
「どうしてと言われても、気付いたのが遅かったし、場所も遠かったし」
これでも最速で来たのに、まさか責められるとは思わなかった。
「まったく、お洋服も泥だらけになってしまいましたわ! ああ、早く屋敷に帰りたいわ!」
サーガの手を借りることなく立ち上がる金髪美少女。服の泥をはたき落とし、さっさと馬車に乗り込む。
「あの~、こいつら倒した報酬…」
「報酬? 貴族のために庶民が働くのは当然のことでございましょう?」
サーガが固まった。
「それより御者も逃げてしまいましたの。貴方、馬車を動かして?」
さも当然の如く言われ、サーガのこめかみに怒りマークが浮き上がる。
「報酬も払わず働けと?」
「何を仰っているのか、意味が分かりませんわ」
さも当然とばかりに、金髪美少女がサーガを見つめ返す。
「ああ分かった。こいつら気絶させてるだけだから、もう一度起こしてやればいいのね」
サーガが足元に転がる男を起こそうとしゃがみ込む。
「な、何をしているのですの?! そんなことをしたら…」
「俺は速攻で逃げるも~ん。でもお嬢さんは無理だよね?」
「当然ですわ! なんでわざわざそんなことを!」
「報酬」
「・・・・・・」
「報酬」
「で、でも、貴族のために庶民が働くのは…」
「報・酬」
「…わ、分かりましたわ。屋敷に着いたら、お父様に掛け合ってみます」
「ん! 良かろう! なら御者の真似でもしてやらあ」
気絶した男達を数珠つなぎにして馬車の後ろにくくりつけ、御者台に上がる。
「さてさて。初めてだけど、上手く出来るかな?」
いいのかこんな奴に任せて。
しかしこの呟きを金髪美少女は聞いていなかった。
「え~と、確かオックスさんはこんな感じで…」
手綱を試しに振ってみる。しかし何か違うのか、馬達は動こうとしない。
「…。ケツ叩きゃ動くよな」
風を使って馬達の尻を少し強めに叩いた。
「ヒヒーン!」
突然の刺激に驚いて走り出す馬達。
「おほっ。動いた動いた」
「な、早すぎやしませんの?!」
後ろから何か聞こえたけれど、サーガは無視して馬を好きなように走らせた。
街まではそれほど距離もなかったようで、すぐに街壁が見え始めた。
風と手綱を上手く使い、サーガは馬車をなんとか操る。
「お嬢さん、名前は?」
「あら、私の名前を知らない? どこの田舎者でしょう。私の名前はイリアーナ・ランドルステア。この辺りを治めるランドルステア子爵の一人娘ですわ」
んなもの知るかとサーガは思いつつ、門を潜る。門の所にいた衛兵達に事情を話し、そのままサーガが屋敷まで馬車を操っていくことにした。盗賊達は引き渡し、後でその報酬を受け取りに来ると約束して。
衛兵に聞いた道を進んでいくと、これまた立派な屋敷が見えてきた。
屋敷に着くと門番に事情を説明し、中に通してもらう。
「イリアーナ様!」
話を聞いたのか、侍女らしき女性が玄関から飛び出して来た。
「ライラ。お洋服がすっかり汚れてしまったわ」
気にするのは服の汚れかいと心の中でサーガはツッコむ。
「お怪我は? どこかお怪我はございませんか?」
ライラと呼ばれた40代くらいの侍女が、イリアーナの体を調べ出す。
「そうね。引き摺り出された時に腕を強く掴まれて、そこが少し痛いわ」
「まああ。なんということでしょう! 早速医者を手配しましょう!」
大袈裟なと思いつつも、なんだかサーガのことなどすっかり忘れて屋敷に入っていってしまいそうだったので、慌てて声を掛ける。
「ちょいちょい! 俺の報酬の話は?!」
そこで初めて気がついたとばかりに、ライラがサーガを見た。
「お嬢様、この者は?」
「ああ、私を助けてくれた者ですわ。報酬を寄越せとしつこくて」
「まあ! お嬢様を助けて下さったと? そうですか…」
何故か申し訳なさそうな顔をしてサーガを見るライラ。
「そ、それでは、とりあえず中へ。ご案内致します」
中へ入り手を叩くと、別の侍女がやって来てサーガの案内に立った。イリアーナとライラは身支度を整えると言って、奥へと入って行った。
応接室へと通され、サーガは待った。
しばらくするとあのライラという侍女がおずおずとやってきた。
「あの、この子爵家から報酬をもらうのは諦めた方がよろしいと思います」
何を言っているのかとサーガは首を傾げる。
「その、この子爵家は庶民を人として扱わないことで有名でして。おかげでこの屋敷も年中人手不足で、管理に手が回っていない状態なのです」
確かになんだかあちらこちら埃っぽいなとは思っていた。それに働いている人の数もずいぶんと少ないなと。
「多少ではございますが、こちらをお受け取りくださって、早々に立ち去られた方がよろしいかと」
数枚の金貨がそっとテーブルの端に置かれた。サーガはそれをちらりと見るが、受け取ろうとはしない。
「受け取れないよ、そんなはした金。それに俺が助けたのはあのお嬢さんであって、あんたじゃない」
ライラがビクリとなる。やはりかとサーガは思う。この金はライラの財布から出ているお金なのだ。
「子爵様から金を受け取るまで俺はここから動かないよ」
「でも、あの子爵様が払うとは…」
「払わせるさ。心配しないで、仕事に戻んなさい」
サーガを説得するのは無理だと思ったのか、ライラは頭を下げて部屋を出て行った。
そしてサーガは待った。とにかく待った。待ちに待った。待ちくたびれて居眠りしてしまうほどに待った。
たった一杯のお茶に少しの茶菓子。それも食べて飲んでもおかわりを持ってくる気配もない。皆手持ちの仕事が忙しく、サーガに構っていられないのもあるのだろう。
昼頃屋敷に着いて待ちに待ち、ついには夕食の時間になるほどに待った。報酬の話がなければとんずらしているくらいに待った。
「来ねえ…」
風でそれとなく屋敷の中を幾度か探る。あのイリアーナというお嬢様は部屋で身支度を整えると、そのまま父親のところへ話に行くのかと思いきや、昼食を食べ始めた。まるでサーガのことなど忘れてしまったかのように。
「報酬…」
この言葉を風に乗せ、イリアーナの耳まで届かせる。どこからともなく聞こえる声に、何度もイリアーナがビクリとなっていた。
その後のお茶の時間やくつろいでいるところへ、何度も「報酬…」と呟いたのが功を奏したのか、夕方近くなってやっとその重い腰を上げた。
雰囲気からして父親らしき男の元へと足を運ぶ。
やれやれ、これでやっと報酬も支払われるかと思いきや、やはり来ない。
「何故だ…」
風で探ってみれば、話は終わったのかイリアーナは部屋を出ていた。そして父親らしき男は座ったまま動こうとする気配もない。
「報酬寄こさねえなら適当にそこらへんのものかっさらってくぞ」
と風に言葉を乗せ、父親らしき男の元に届かせる。
「なんだと?!」
突然聞こえた声に男は反応するも、他に人もいないのに声が聞こえたことに首を傾げていた。
そしてどうやら観念したのか、溜息を吐き金庫の方へと足を向けた。
「や~れやれ。こんなところで足止めくらわされるとは」
男がイリアーナを伴って部屋へ向かってくることを確認し、ようやっと動けるとほっとする。
部屋の扉がノックもなしに開けられ、少し小太りな男とイリアーナが一緒に入ってきた。
「貴族の為に働けることを誇りと思えばいいものを。庶民は金金とうるさいな」
礼もなしにサーガの目の前にお金が入っている粗末な袋を投げて寄越す。
「全く、品がないですわ」
こちらもろくな礼も言わずに非難の目を向けるイリアーナ。サーガはこんなに助けたことを後悔したことはない。
まあ報酬さえ払われればと、袋の中を確認する。
「…。ずいぶん少ないようだけど?」
金貨がぎっしりかと思いきや、銀貨がぎっしりだった。金貨もちらほら見えるが、ほぼ銀貨だった。
万札の束がもらえるかと思いきや、同じ厚さの千円札の束をもらったようなものだ。明らかに金額が少ない。
「庶民にはそれでも多い方じゃないのか?」
馬鹿にしたように男が吐き捨てる。
「金も払ったし、さっさと出て行ってくれたまえ」
用は済んだとばかりに、男とイリアーナは部屋を出て行った。
これで普通の庶民ならば「貴族って奴は…」と文句を言って終わるところであるが、もちろんだがサーガは違う。
「ふ~ん、そういう態度を取るのねぇ…」
サーガの瞳に剣呑な光が灯った。
お読みいただきありがとうございます。
なんとか今週も更新出来ました。
読んでくださる方々に改めてお礼をば。




