襲撃
前回のあらすじ~
綺麗なお姉さんは魔王だった。
その夜にいらん襲撃者が2人来た。
それは闘牛のようにサーガに向かって一直線に突っ込んで来た。
もちろんひらりとそれを躱しつつ、ついでに体を切りつけていく。切り傷から流れ出た血は赤いままだったが、不思議な事に傷はすぐに治ってしまった。
「うわ~、何その回復力。いくらなんでもおかしいだろ」
サーガの言葉など耳に入っていないようで、紫色の怪物となった元暗殺者が反転して再び突っ込んでくる。
「腕を切り落としても治るのかな?」
サーガがそうぼやきつつ、突っ込んでくる巨体に自らも迫った。大ぶりの拳を華麗に避け、風を纏わせた剣を一閃。怪物の腕が宙に舞った。
「ぐおおおおお!!」
怪物が悲鳴ともとれる咆吼を上げる。
「はい、腕1本…。うげ…」
怪物の腕からなにやら触手のようなものがニョロニョロと伸び始めると、切り落とされた腕からも同じものが生えてきた。それは腕を伸ばすように重なり合い紡ぎ合い、あっという間に腕が切り落とされる前の状態に戻った。
「本当に人間やめたのね~。キモ」
口元を押さえつつ感想を述べるサーガ。怪物はそんな言葉など気にもせず、再び襲いかかってきた。
「これは、細切れの挽肉くらいにしないとダメか?」
それでも復活するようならばもう他に手はない。試しとばかりにやってみることにした。
「風はね~、挽肉にするのは得意なのよ~」
口元は笑いつつも、サーガの瞳に本気の色が浮かび出す。
怪物の攻撃を避けつつ、サーガが魔力を練る。
「風よ。来い」
突然広場に突風が吹き荒れ、2人の姿を大きな竜巻が包んだ。
なにやら騒ぎが起きていると住民からの通報により、広場にやって来た衛兵2人が見たものは、
「う…」
広場に点々と散らばる紫色の肉片。
「あら、やっと来た?」
とのんきそうに言う黄色い髪の男。
「こ、これは…」
「何が…」
広場に広がる濃い血の臭い。なんだか頭がクラクラしてくる。
「ああ、ちょっと不可思議なことが…、て…?!」
広場に転がっている肉片がサワサワと動き出す。あちらこちらから触手が伸び、それらが合わさっていく。それは時を待たずして、紫色の怪物へと戻った。
「な、なんだ…? こいつは…」
突然の怪物の出現に固まる衛兵達。
「ち、お前ら! 隠れてろ!」
「ぐがあああああ!!」
怪物は3人目指して突っ込んでくる。
「にゃろう!」
サーガは咄嗟に風の結界を張るが、その前の大規模魔法の後遺症か、強度が足りなかった。
バキイ!
結界は簡単に壊され、振り下ろされた腕をサーガが剣で受け止めた。しかしやはり疲れからが踏ん張りがきかず、吹っ飛ばされてしまう。
そして衛兵達の目の前に立つ怪物。
「ぐるるるるうううう」
「ひ、ひいっ…」
恐怖により固まってしまった衛兵達が薙ぎはらわれた。2人は固まって飛んで行く。
「ぐう?」
その感触に少しおかしなものを感じつつも、次はどこを壊してやろうかと怪物が辺りを見回す。
「お前の相手は俺だろ…」
瓦礫の下から這いだしてきたサーガが、膝に手をつきつつ立ち上がる。そして剣を怪物に向けて構える。
「ぐがあああああ!!」
そうでなくては面白くないとばかりに怪物が突っ込んでいく。
振り下ろされる腕を、サーガが最小限の動きで躱していく。頭の何処かをぶつけて切ったのか、右の顔面を赤い血がとめどなく流れる。
「ち、邪魔だな」
流れ落ちてくる血がサーガの視界を塞ごうとする。サーガはそれを拭いつつ、他に被害を出さないようにと怪物を広場の中心へと誘導して行く。
(しかし…。細切れにしても意味が無いとなると…)
もう打つ手がない。ここにあの水娘がいてくれれば、動きを止めるなりなんなり出来たかもしれないが…。
「…水娘って誰だっけ?」
思わず呟いた。
「ぐがあ!」
「く…」
一瞬の油断から、サーガは重い一撃をくらってしまう。なんとか剣で受けたものの、その衝撃で体が宙に舞った。
「やべ…」
平時ならばすぐに風を纏って退避するところであるが、頭を打ったせいか思考がまだ霞がかっていて咄嗟に対処出来なかった。怪物の拳が眼前に迫る。
(まずい…)
まともにくらったら、今度こそ立てなくなってしまうかもしれない。そうなればこの怪物は街を蹂躙しに行くだろう。
多少なりとも衝撃を和らげなければと、必死で風を纏おうとした。
しかし、何故か怪物の拳は途中でピタリと動きを止める。
「?」
これ幸いと着地と同時に距離を取る。しかし怪物は追いかけてくるどころか、拳を振り上げたままの姿勢で止まったまま動かない。
いや、よく見ると、プルプルと小刻みに震えている。
「ぐが…ああ…」
怪物が苦しそうに声を漏らすと、途端にボコボコボコっと体中が膨れあがっていく。
「が、あああああああ!!!」
パン!
と盛大な破裂音がして、肉片と血の雨が当たりに降り注いだ。
「なんだ…?」
突然のことに唖然となるサーガ。風による自動結界のおかげか、肉片や血の雨を浴びずにはすんだが…。
「うっわ…。まだ俺がやった方が親切だったよ…」
サーガがやったものであればその肉片の元の形など想像させないように細切れにしたものだが、自爆したその肉片は、よく見れば元の形がなんであったか分かるものがいくつか…。目玉や脳髄の欠片など常人が見たら卒倒しそうなものが転がっている。
「どーすんだこれ」
とりあえず気絶しているだろう衛兵達を呼びに、サーガは歩き…は肉片を踏みそうなのでやめて、低空で飛びながらそちらに向かった。
薙ぎはらわれる寸前、サーガが風の結界を張り安全な場所へと移動させられていた2人が気絶して転がっていた。
多少衝撃はあったろうので、2人共殴られたと勘違いしていてもおかしくはない。
「お~い、おっさん達~。起きてちょ~」
サーガがペシペシと頬を叩くと、2人共目をパチクリさせながら起き上がった。
「あ、あれ? 生きてる?」
「勝手に死なんでちょ。一応証人なんだから。あんたらが腰抜けて動けなくなってた怪物、ほれ、あんなんなってるよ」
サーガが指さした先には転がる肉片肉片肉片…。
「う…」
思わず口元を押さえてしまったのは責められないだろう。
そこまでに至った経緯を簡単に説明し、あの謎の赤い液体の入った小瓶も押しつけて、後の事を任せてサーガは宿へと引き返す。
もちろんだが壊した街の施設は全部怪物がやったものだから!と念を押して。
宿へと帰ってくると、見事に1階正面の壁がぶち抜かれていた。
「な、何があったんだ?」
騒動でさすがに起きてきていたのだろう。宿の主人がサーガに聞いてくる。
「うん、実は…」
サーガが突然現われた謎の怪物を広場までおびき出して退治したのだと、自分の都合に言いように説明した。自分を狙った暗殺者が姿を変えたのだなどと言ったら「お前のせいか」となりかねない。
宿の主人から感謝されつつ、もう少し休むからと部屋へと戻る。
「ちぇ。やっぱり逃げてるよな」
大規模な魔法を使った後に吹っ飛ばされた時、一時的に集中が切れて拘束が解けたのが分かった。その隙をついて逃げ出したのだろう。
何故自分を狙ったのか、どこの誰が依頼主か聞き出したかったのだが、逃げられてしまってはしかたがない。
「まあいっか」
もしかしたらまた日を改めて襲撃に来るかもしれない。その時にでも今度は油断せずに聞き出せばいい。と考える。
夜明けまではまだ時間がある。サーガは再びベッドに入って眠った。
「血の臭いって、こんなにフラフラするものだったっけか?」
「うん…。なんだかフラフラするな…」
夜通し後片付けに精を出す衛兵達。常とは違う血の臭いに頭を少しふらつかせながらも、懸命に肉片を回収していた。
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