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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
50/81

魔王

前回のあらすじ~

王都観光へ。

「カップルだらけじゃねーか…」

「へ~。魔族」


カエデェスが構えている。サーガが何かしようものならすぐにでも飛びかかって来そうである。


「さすがご神託を受けただけの人だね。この角を見て私の正体を知ってそんなに平静でいられるとは」

「ん~、まあ」


サーガとしては魔族というものを情報として知っているだけなので、然程忌避感もない。これが普通の人ならばすぐに飛びかかったであろう。人にとって魔族というものは未だに敵認定されているものだ。


「そして言わせてもらうが、今代の魔王でもある」

「わお、魔王か」

「ティ、ティエラ様!」


カエデェスが慌てる。


「いずれバレるものだ。隠していても仕方ないだろう」

「し、しかし、この者が言いふらしてしまったら」

「そんなことはないと私が信じることにした。そうだろう? サーガ君」

「まあ、女の子の頼み事は断れないかな」


もとより言いふらす気もない。美人だし。美人さんが困るようなことはしたくないのがサーガである。


「しかし、勇者ってのが選別されてる最中なら、魔王さんがここにいたら不味いんじゃないの?」

「それに関しては私もそう思うのだけれど、いろいろ事情があってね」


ティエラが苦笑いする。


「そもそも私達の住む大陸はこの大陸より魔素が濃くてね。魔族はその大陸で生きられるように濃い魔素に対応出来る体となっているんだ。しかしこっちの人族大陸は魔素が薄い。だから角に魔素を出来るだけ溜め込んで活動力としているんだ。魔王である私は角を3本持っているから誰よりも多く魔素を取り込んでこちらの大陸でも長く活動できる。だから魔王である私がわざわざ出張って来ているんだ。それに自分の目で見た方が早いし、情報の正確性も信頼出来るしね」

「ふ~ん。てことはおたくは角が3本じゃないんだ」


カエデェスが答えるようにフードを剥ぎ、やはり被っていた帽子を取った。角は2本だった。

肌の色はやはり白く、髪の色は青黒かった。


「魔族は1本が平民、2本が特権階級、3本で魔王、他にも3本角がいれば魔王候補になるんだ。角が多いだけ力も強くなる」

「わあお」

「さすがに特徴的な黒髪黒眼に浅黒い肌ではフードが取れた時にばれてしまうかもしれないからね。かといって常時変装の魔法をかけていたら怪しまれるだろう? だから落ちにくい染料で髪を染めているし、肌のこれは化粧だ」

「はあ。ご苦労さん」


ティエラの説明にサーガが溜息を吐く。


「で、俺に何をさせたいわけ?」

「私達の神からの意向もある。私達と協力して邪神を討伐してくれないか」

「報酬は?」

「は?」


ティエラとカエデェスが目をキョトンとさせる。


「仕事の依頼だろ? きちんとした報酬がなけりゃ動かんぜ?」

「い、いや、世界を滅ぼそうとしている邪神の討伐だよ? そこで報酬の話しが出るかな?」

「仕事ならば出る!」


言い切った。


「ないならやらない」

「ちょ、ちょっと待っておくれよ。君はご神託の者だろう?」

「それそれ。なんでご神託の者って分かるのよ」

「ああ、私は特別な目を授かっていてね。アルカディア様の加護を付けた者が分かるのさ」

「へえー」


サーガが胡散臭そうな顔をする。


「放っておけば世界が滅びるんだぞ? 君だって困るだろう?」

「別に~。俺は明日死んでも後悔しないように毎日全力で生きてるから」


この言葉にティエラとカエデェスも唖然とする。


「き、君にだって大切な人はいるだろう?」

「いないわけでもないけど。でも皆一緒に死ぬんならいいんじゃね?」

「い、生きたいと思わないのかい?!」

「思ってるけど、死んじゃったらまあしょうがないかとも思っている」


傭兵として生きてきたサーガは、明日というものをあまり考えないうように生きてきた。つまり大切なのは未来ではなく「今」だけなのだ。


「か、神のご神託なのだよ?!」

「知らん。神なんて会ったこともないし」


あるけど…。言わないでおこう。


「な、何故神はこんな奴を…」

「ティエラ様…。これは、ご神託が間違っていたのでは…」

「まさか! 神が間違えるなんて…」

「報酬なし? ならやらないよ。んじゃ」

「ま、待ってくれ! ほ、報酬があればいいのか?」

「あればねえ。あるの?」

「ええと…」


ティエラは考える。金銭的には人族のお金はあまり持っていない。今活動出来ているのは獣王国に協力者がいるからだ。そこから出してくれとも言えない。魔族の位や土地など提供しても人族は魔素の多い魔族の大陸では体を蝕まれてしまうため、あまり旨みはない。となると、差し出せるものが何もなかった。

ちなみに人族は魔素が多くて活動出来ないということをいまだ理解していない。


「あるの? ほれほれ」

「その…」


ティエラの目が泳ぐ。頑張って考えてはいるものの何も思いつかない。


「ティエラ様…」


カエデェスもティエラの考えを悟ってアワアワしている。


「ないのね。んじゃあね」

「あ、いぅ…」


サーガは2人に背を向けてドアノブに手を掛ける。


「ああ、もちろん2人の正体を言いふらす気はないからね。下手に襲撃してくれるなよ。男相手には特に加減は出来ない」


それだけ言い捨てて部屋を出て行った。


「ティエラ様…」

「これは、カエデェスの言う通り、ご神託が間違っていたとしか…」


2人は顔を見合わせて溜息を吐いた。

人族大陸では動きにくい2人が切望していた強力な協力者のはずだったのだが…。












「私の体で払うとは最後まで言わなかったな」


ちょっと期待していたのだが、最後までその言葉は出てこなかった。やはり王族だからなのだろうか? しかし王族こそそんな時には自分の身を差し出しそうなものであるが。


「良い体してそうだったけど、実は男、とか?」


それならば納得も出来ると1人頷きながらサーガは宿を探した。

王都観光も一通り済ませたし、この街で仕事する気もないし、他に面白い事もなさそうなので明日には街を出ようと考える。適当な安宿を見つけ、そこに入った。

街も眠る丑三つ時。こんな時間に活動しているのはそれこそ街を守る兵士や医者などだろう。

もちろんサーガもグースカとベッドで眠っていた。

そして例外的に動いている者が2人いた。それは外から壁をよじ登り、サーガが眠っている2階の部屋までやって来た。音がしないように窓を割って、部屋の中へと入って来る。

サーガがよく眠っていることを確認すると、1人が短刀を構え、サーガに向かって勢いよく振り下ろした。

しかし短刀が振り下ろされる瞬間、掛け布団が跳ね上がり2人の視界塞いだ。

布団越しにサーガの足が1人の腹部にめり込む。


「ぐ…」


蹴られた方が壁にぶつかり、気絶したのか動きを止める。

もう1人が慌てて布団を切り裂き、そのままサーガに斬りかかる。サーガは転がってベッドから落ち、ベッドの下に潜り込んだ。


「ち」


暗殺の失敗を悟ったのか、残った1人が窓から外へと飛び出した。

しかし不思議な事に、その体は地面へと落下せず、空中で制止してしまう。

訳が分からず空中で藻掻く暗殺者。それを窓から、のほほんとサーガがのぞき見てニヤリと笑う。


「まあ訳分からんだろうけど、衛兵が来るまではそこで我慢しててちょ。俺のお財布を潤す助けになってもらうからね」


サーガの声を聞き、暗殺者が覆面で顔は分からないが、顔色を変えたのが分かった。そして腰につけた小さなバッグをまさぐり、何かを取り出す。


「?! 何を?!」


暗いのと手で隠されていたのでよくは見えなかったが、それは赤い色をしているように見えた。小瓶の蓋を開け、一気に中身を飲み干す。すると、目をカッと見開き、


「あ…、ぐあ…」


と呻き声を上げる。


「何を飲んだ?!」


何かしらの身体強化薬かと身構える。


「あが…、そんな…、聞いて…ない…」


暗殺者がそう呟くと、突然左の腕が膨れあがる。


「?!」


ついで右腕、そして右足左足、体も頭も元の体の3倍くらいに膨れあがり、肌も紫色に変化した。


「ぐがあああああ!!」

「人間じゃねー…」


その様相を見てサーガがポツリと漏らす。突然の体重の増加に張っていた風の結界が切れて、紫色の怪物が地面に地響きを立てて降り立った。


「ち」


サーガが慌ててもう1人の気絶している暗殺者の腰のバッグをまさぐる。出て来たのは見たことがあるような小瓶。中には見たことがあるような赤い液体が入っていた。しかしサーガが見たことがあるそれよりも色が濃い。


「これか…」


ズズン!


地響きがし、建物がぐらつく。


「やべえな」


サーガが風で剣をを手元に引き寄せ、窓から飛び出した。


「おい化け物! こっちだ!」


紫色の怪物が建物を壊していた。サーガの声に振り向き、襲いかかる。


「ぐがあああああ!!」

「こっちだこっち、あっかんべー」


わざとらしく尻を向けてぺんぺんする。怪物は腹を立てたのかただ単に獲物と見定めたのか、サーガを追いかけ始めた。



「うひょっ。思ったより早えぞ」


サーガが珍しく真面目な顔で逃げる。目指すは存分に戦う広さのある広場。昼間に下見しておいて良かった。

途中ボガン、ズガンとついでに建物が壊されているが、さすがにそこまでサーガも庇いきれない。運が悪かったなと心の中で手を合わせる。

先程、暗殺者の腰元しか(まさぐ)っていないが、とても金目の物を持っているようには見えなかった。弁償は誰がするのだろう。


(まさか俺に来ないよね?)


きちんと被害者だと主張しなければと思いながら、広場に到着した。


「さあ~て、存分に相手してやるぜ!」


剣を鞘から抜き放ち、鞘を放り投げる。きちんと安全な場所まで風で運んだのはいうまでもない。鞘だって作り直すとそれなりに金がかかるのよ?


「ごがあああああ!!」


紫色の怪物に成り果てた元暗殺者が一声吠えると、サーガに向かって来た。


お読みいただきありがとうございます。

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