子守唄バフ効果
前回のあらすじ~
土砂崩れが起きた。
「土系は苦手なんだよな~」
全力で抗ったら倒れた。
下着姿になろうとする前にはさすがに止められた。
「はあ~…」
オックスが外に出て状況を確認し、感嘆の声を出す。
「しかし、これは前後挟まれてしまって動けませんな」
前にも後ろにも土砂がどっしゃり、じゃなくてどっさり。土砂を退けないと動くことはできない。
「よし。俺達の出番かな」
ジャッカスとフィリップがカッパを着て馬車を降りてくる。フィリップは鎧があるとカッパが着られないので鎧は脱いでいた。
「いや~、さすがにこの量を退けるのは無理くさくない?」
まだ回復しきれていないサーガがだらけた様子で外を覗きながら言う。リラはカリンとエミリーに挟まれて監視されている。というかリラも回復しきっていないはずなのだから大人しくしていろ。
「無理でもやらなければ動けないだろう?」
「リラ、土魔法とかで退けられたりしないの?」
サーガが後ろのリラに問いかける。
リラが横に首を振った。
「壁は作れる。土を退ける魔法なんて聞いた事ない」
「そっかぁ。やっぱ俺の知ってるのとは違うんだな」
「どういうこと?」
サーガの呟きにリラの目がギラリと光る。
「何か聞こえまして?」
サーガはすっとぼけた。
「まあ退かさないと皆通れないってのはあるけどさ。たった2人で除去作業して何日かかるさ」
「2人じゃないだろう」
ジャッカスがサーガを見つめる。
「もちろん回復してからでいい。カリン達だって出来るさ。皆でやればすぐに終わるよ」
最低でも3、4日は掛かりそうだ。
「うへえ。ゆっくり回復致します」
サーガが嫌そうな顔をしながら横になった。
リラを縄で縛って転がして、皆で土砂の撤去作業。しかもまだ雨は降り続いている。もちろんだがサーガの支援はないので、皆カッパを着ての作業だ。
しかし土砂と言えど砂や土ばかりではない。
大きな石、岩も転がっており、折れた木なども転がっている。
皆汗だくになりながら土砂を撤去する。
「これは、時間が掛かりそうですね」
オックスの言葉に皆手を止めた。夕刻になり薄暗くなって来たので作業を中断することにする。皆泥だらけである。
雨は小降りなっており、止む気配が見えてきた。雨が止んでくれるだけでも有り難い。
「お疲れさん」
馬車で転がっていたサーガが声を掛ける。リラは縄で縛られ動けないままだ。
「この調子だとあと3日くらいは掛かりそうですな」
オックスが泥を落としつつ馬車に乗り込む。
「そっかー。気長にやるしかないね~」
「そろそろ動けるんじゃないの?」
カリンがリラの縄を解きながらサーガを見る。
「う~ん、もそっと休みたいかな」
「働きたくないだけじゃないの?」
「バレたか」
この日の夕食は、皆にオックスが食事を用意した。
「皆さん頑張ってくれましたからね。せめてものです」
「オックスさん太っ腹!」
サーガが嬉しそうに手を叩く。
実際に腹は出ているが、この場合は褒め言葉である。
美味しい食事を頂いて、見張りを残して狭いが皆で馬車の中で横になる。
「やはり寝付きにくいな…」
疲れてはいるが、固い床に狭い寝床とくればなかなか寝付けるものではない。
「しょうがないなぁ。俺が子守唄でも歌ってあげようか?」
冗談交じりにサーガが呟く。
「是非に」
一部から声が上がった。誰の物かは察しがつく。
若干頬を引き攣らせつつも、サーガは横になりながら静かに歌を歌い始めた。
それは何処にでもある子守唄。幼い頃誰もが聞いた事があるようなそんな他愛もない子守唄。幼い子供に眠りを誘うそんな歌。
そして、風を操るサーガにとって、言葉、それも歌ともなれば強烈なバフ効果を生み出す物であった。
「~♪ って、なんだ。全員寝てるじゃん」
例に漏れず、ものの数秒で全員が眠りに就いた。ただ一人サーガを残して。
ポケ○ンのプ○ンじゃあるまいに。さすがに落書きまではしなかった。
「丁度いいや。やっちまうか」
むくりと体を起こし、馬車から降り立った。雨はすでに小雨になっていた。
「馬車ごと運ぶか、道を拓くか」
土砂の山の前でサーガが思い悩む。
「まあどうせ、あとで道は切り開くしかねーしな。ついでだから多少はどけておいてやろうじゃないかい」
半日近く馬車でゴロゴロしていたのだ。ほぼ魔力も回復している。
馬車に遮音結界を張っておく。起きてこられても説明が面倒だ。特に1名は。
風を集め、局所的に小さな竜巻を作る。
「げ、小さい方が制御がムズいとか。まじか」
マジだ。
倒れない程度まで頑張って、サーガは道を埋め尽くした土砂のほとんどを取り除いたのだった。
朝、オックス達が爽やかに目を覚ますと、前だけだが、道を埋め尽くしていた土砂がほとんどなくなっていた。
あんぐり口を開けつつ、1人グースカ眠っているサーガに皆目をやる。
「まだ寝かしておいてやろう」
ジャッカスの潜めた声に、皆静かに頷いた。
サーガを起こさないように皆で馬車を降り、残りの邪魔になりそうな土砂を撤去していく。
雨は止んでいたが、厚い雲はまだ取れていなかった。
「そろそろ朝食にしましょう」
サーガは寝ているが仕方ないとオックスが用意をし始めると、
「おはよ~。皆早いね~」
パチリと眼を覚ましてサーガが起き上がった。起きてたんじゃないのか?という考えは押し込んでおく。
さすがのオックスもそこまで食料のストックはしていなかったらしく、今朝は携帯食料となった。
「ち。なんだ。期待して損した」
とぶつくさ言いながら、サーガは自分の収納袋から豪華な食事を出していた。
あるなら自分の分を食え。と突っ込んだのは何人いただろう。
リラの作った土壁はリラが火の魔法で全ては壊さず一部を壊した。後ろの土砂が少し崩れたが、被害を被ることはなかった。
全てを壊すとその向こうにある土砂が一斉に降り注いでくる。なので残していくことにした。
「では、行きましょう」
後方の土砂はそちらの方が本流なので、サーガ達だけで片付けるのは手間が掛かり過ぎる。なので近くの街へ通報して人手を派遣してもらわなければならないという。
オックスは久しぶりにカッパを脱いで御者席に座り、馬車を発進させた。
それから半日ほどして次の街、オリエントの街についた。王都まではまだ遠い。本来ならばこのまま時間の許す限り前に進みたい所だが、途中の土砂崩れや予定外の物資の消費などがあったのでこの街で少し買い出しなどをしていくことになった。
明朝まで自由となった白焔パーティーとサーガ。今回はオックスからのお小遣いはなかった。通報やらなんやらでそれどころではなかったのだろう。
「どうだい? サーガ君。一緒に…」
「お断りします」
「いや買い物でも…」
「お断りします」
どこまでもお断りして、サーガは白焔パーティーからさっさと逃げ出した。
「仲間にするのは無理かな?」
「無理っぽいな」
ジャッカスとフィリップは溜息を吐く。
「あたしたちの方が戦力不足でしょ。仲間になったらおんぶに抱っこになっちゃうわよ。もっと実力を付けてから、また誘ってみましょうよ」
一番年下なのに一番しっかりしているカリンが言った。
「そうですね。確かに私達の方が役不足と思えます」
エミリーも頷く。
「仲間じゃなくても良い」
「「「「え?」」」」
リラの言葉に全員が驚く。
「旦那にしたい。いや、旦那じゃなくても良いから種だけでも欲しい! あんな男の種をもらったら、どんな子供が出来るんだろう…」
リラの瞳が妖しい光を灯している…。
「リラ…、ちょっと…」
「彼はすでに人を越えてる…。欲しい、あの男の種が…!」
「ふん縛って宿に放り込んでおくか?」
ジャッカスが半分真面目な顔でカリンに問いかけた。
サーガも物資の調達をして、そして向かったのは相変わらず花街の方であった。
こやつもブレない男である。
お読みいただきありがとうございます。
連休も楽しくお過ごし下さい。




