長雨
前回のあらすじ~
「珍しい魔法! 教えて!」
「ベッドの中でなら…」
「分かった!」
「即答?!」
雨は止む気配を見せることなく降り続けた。
道はぬかるみ、進みにくさを増しながらも、なんとか一行はその日のうちに予定地の街へと辿り着くことが出来た。雨の中で野宿はさすがに皆嫌だ。
「雨のおかげか魔物もほとんど姿を見せなかったけれど、皆お疲れでしょう。少しですがこれで景気づけして下さい」
オックスが少量の銀貨を別料金でくれたので、せっかくなので皆で飲みに行く。ちなみにオックス達はセキュリティのしっかりしたそれなりの宿。サーガ達は別で安宿を見付けて泊まることになる。
「一杯くらいいいだろう?」
「まあ一杯くらいなら」
サーガも嫌いではない。誘われるままに大衆食堂へと赴き、一緒にテーブルを囲んだ。
「では、お疲れさま~」
「まだ初日でしょ」
「とにかく乾杯!」
わやわや言い合いつつ、皆で飲み合う。
「サーガ、今晩部屋に行く。何処か教えろ」
「まだ決めてません」
夜這い宣言してくるリラを適当に躱しつつ、お互いに情報交換をする。と言ってもサーガは殆ど何も知らないので、ほぼ教えてもらう形になる。
「この先出てくる魔獣は…」
「あの魔獣の素材は高値で売れるから…」
「魔石も売るときは少し状況を見て…」
酒の力も入り多少口が軽くなった一行がペラペラとこれまた良く喋ってくれた。ジャッカスとフィリップは魔獣の倒し方に関して、カリンは売り時やどんな素材が値がつくかなど。性格が出るな。
「神官様も酒飲むんだね」
「御酒を頂くのも神官の勤めですから」
「御酒…」
結局皆うまい言い訳をして酒を飲む理由を探しているのだ。
「サーガ、部屋…」
「じゃ、俺はそろそろ」
いい加減リラがうざったくなって来たのと、話しもだいたい出尽くしたのを見計らい、サーガが立ち上がる。
「あたしらも明日もあるし、そろそろ行こうか」
「そうだな」
「そうですね」
ジャッカスとエミリーも賛同して立ち上がる。
「部屋…」
「じゃ、お先!」
自分の分のお代を置いて、リラの手を振りほどいてサーガが逃げ出した。
「探知!」
リラが探知魔法を発動させ、サーガを追跡し始めるが、
「む?」
「ほら! リラ、迷惑かけるんじゃないの! 宿屋に行くよ!」
「探知、切られた…」
「え?」
路地裏までは追跡できたのだが、そこで無理矢理回線を魔力でぶった切られた。もう一度反応を探すが、何故か見当たらない。
「ううう…、ベッドの中で教えてくれるって言ったのに…」
「ほら。リラ。行くよ」
泣きべそをかくリラをカリンが引き摺り、見付けた安宿へと入っていった。
「魔法かぁ…。俺には難しいかな…」
フィリップがそんなことを呟いていたが、リラの泣きべその声に掻き消され、誰も聞いていなかった。
次の日も朝からザーザーと雨が降り続いていた。
「いやあ、嫌な雨ですな」
皆集まり、馬車に乗り込む。そしてすぐに出発だ。
街にいる間と街から出てもしばらくは、オックスとメイジスは雨に打たれていなければならない。地味に辛い。
街から見えなくなると、再びサーガが風の結界を張る。リラの視線が痛い。
「結界。そう、これは風の結界だ」
「にしても時間が長すぎる。あなたの魔力量どうなってる」
「さあ?」
「それにこれだけのものどうして呪文もなしに発動出来る」
「リラ! 仕事なさい!」
サーガに食いつき気味のリラを、カリンが叱りつける。実はカリンが一番この中で年下なのだが…。
「む…。すまない…」
リラも今の立場を思い出したのか、すごすご引き下がった。サーガは今日も珍しく男性陣の近くに座っている。
「すまないね…。うちのが…」
「もうちょっとどうにかならない?」
「難しいかな…」
リーダーのジャッカスもお手上げのようだ。
雨のせいというのか、雨のおかげというのか、魔物の出現率も常時より低く、途中でマーダーベア2頭と出会っただけであった。ちなみにCランクの魔物である。
最初の1匹は白焔パーティーが仕留め、次の1匹はサーガが仕留めた。
「どうして君がCなんだい?」
と不思議そうな顔をしたジャッカスに聞かれたが、適当に濁しておいた。
まさか適当にしか仕事をしなかったから昇級できなかったとも言えない。その為にギルマスが頭を抱えながらあちらこちらにいろいろ手を回してくれている、なんてことも知らない。
ゴトゴトとぬかるんだ道を一行は進んで行く。と、ガタリと音がして馬車が傾いだ。
「どうやらぬかるみに嵌まってしまったようです」
メイジスが振り向く。馬に合図を送るも、馬も動けないとばかりに足踏みをするばかりだ。
「しゃーない。やるか」
サーガの言葉を合図に、男性陣が馬車を飛び降りる。
「おや? これは君が?」
「サービスね。ま、情報もたらふくもらったし」
濡れると馬車の中も悲惨なことになるので、他の2人も雨に濡れないように簡単な結界を張ってやった。
「行くぞ」
3人で同時に馬車を押し込むと、馬車がぐらりと前進した。
3人が乗り込むのを確認し、再び馬車が動き出す。
「う~む。濡れないというのはなんとも有り難いな…」
フィリップがちらりとサーガを見る。
「ま、そーやね」
「サーガ君、一人旅は何かと大変じゃないかい?」
「今の所そんなことはないな」
と、小指の先にも引っ掛からないようなつれない返事。
フィリップが残念そうな顔をする。
雨なこともあってか、何度かぬかるみに嵌まることが続いた。
「これは、今日は街は難しそうですな」
オックスが空を見上げる。
厚い雲に覆われているせいもあってか、暗くなるのがいつもよりも早かった。
所々に用意されている野営場所で、今夜は一晩過ごす事になった。
濡れたままでは馬たちも可哀相だと、サーガが簡易持続結界を張ることにする。もちろん料金は別払い。
今日は下のマーキングでは流れてしまうので、髪を抜いて馬と馬車を囲むように四方に埋め込んだ。そして結界を張る。
「これは…」
その規模と利便性に、白焔のメンバー達は驚きを隠せない。特にリラはサーガに躍りかかろうとしてカリンとジャッカスに押さえ込まれていた。
焚き火をするほどのスペースは確保されていなかったので、それぞれに持っていた携帯食を食べる事になる。
ここで大活躍するのが収納袋である。
オックスはもちろん、収納袋を持っている。その中にはメイジスの分の食料なども一緒に入っている。
そしてサーガも収納袋を持っている。なのでその中に出来たてほやほやの料理などを詰め込んでいた。
つまりオックスとメイジスとサーガは出来たてほやほやの美味しいお食事。白焔のメンバーは味は二の次の栄養価満点の携帯食となる。
恨めしそうな顔をしてサーガを見つめる5人。同じCランクなのに何故収納袋などという高価なものを持っているのかと顔に出ている。
「1食1000エニーで売ってやっても良いぜ?」
少し多めに食料は持ってきてある。もちろん調理済みのものから調理前の物まで。
サーガが提示した金額は相場のおよそ1.5倍の値段。いわゆる観光地価格である。
白焔のメンバーがゴクリとツバを飲み込む。手が出せない値段ではないがちょっと痛手になる値段である。
「あ、あたしはいいわ…」
お金にしっかりしているのか、カリンが最初に断わった。
「わ、私もいいです…」
エミリーも携帯食を齧る。
「お、俺は、もらおうかな…。どうにもこれだけじゃ足りなくて…」
フィリップが手持ちの携帯食料を見る。
「自分の手持ちから出しなさいよ?」
「もちろんだよ!」
カリンの視線から逃れ、フィリップが懐に手を突っ込む。
「お、俺ももらおうかな」
ジャッカスも懐に手を突っ込んだ。男性陣はやはり足りないようだ。
「私はこれでいい。慣れてる」
リスのように携帯食料を齧るリラ。研究に没頭する時などはご飯を食べろと注意されると、この携帯食料を囓っていたものだ。
しかし視線はサーガに注がれている。視線が痛い。
「毎度」
2人から1000エニー受け取り、同じメニューを出してやる。
「うん、美味い!」
「やっぱり出来たてはいいな!」
とぱくつく男2人。その2人に視線を注ぐ女性3人。若干食べにくそうにしているのは気のせいではない。
食べ終わると多少雑談をして、交代に見張りに立つ相談をする。
ジャッカスとエミリー。フィリップとリラ。サーガとカリンでペアになった。リラがサーガと組みたがったのは言うまでもないが、全員が全力で阻止した。
特に異変が起こるでもなく、夜は過ぎていく。
明け方、サーガとカリンが見張りについていた頃、雨がさらに強くなっていることに気付いた。
「嫌な雨だな」
「そうね」
空気も少し冷えて来ていた。
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