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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
4/81

ギルマスのヤン

前回のあらすじ~

サララ「試験を受けますか?」

サーガ「面白そうだから受けます」

サララ(面白そうって、遊びじゃないんだから…)

「おい、ヤン! 大変だ!」

「なんですか? 騒々しいですね」


サーガを連れてゴルドとサララがギルマスの執務室に押しかけてきた。

ゴルドが慌てながら今見て来たものをギルマスのヤンに向かって話す。


「風を使って飛んで回って修練場をぐるっとしたんだ!」


ちょっと意味不明になっている。


「え~と、つまり、宙を飛んだと?」


なんとか通じたようだ。


「そう言ってるだろう!」


ゴルドがいきり立つ。

その説明でどう分かれというのか。


「とりあえずゴルドは落ち着きなさい。サララ、君も見たんだね?」

「は、はい! この方がふわっと浮かんでぐるっと回るのを!」


微妙に説明になっていない。


「え~と、君は、サーガ君? というのかな?」

「おう。なんか偉いことになってるけど」

「そうだね。私はこのギルドのマスターをになっているヤン=ナ=コッタという者だよ。初めまして」

「やなこった?」

「大抵の人はまず初めにそう言うよ」


ヤンが慣れているのか嫌な顔もせず微笑む。


「それで、宙を飛んだというのは本当かい?」

「本当だぜ? むしろあんたら飛べないの?」

「今までに魔法で空を飛んだという記録が無いわけでは無いけれどね。それでもかなり大掛かりなものだと記憶しているよ」

「ふ~ん」

「飛んだんだ! しかも無詠唱で!」


ゴルドがまだ興奮している。


「なるほどねぇ。でも少し納得出来る気もするよ」

「ヤン? どういうことだ?」

「私はエルフの中でも精霊を見る力を持っているのは知っているよね? 彼の周りには考えられないほどの風の精霊が集まっているんだ」


そう、ギルマスのヤンはエルフであり、精霊魔術の専門家でもある。そして精霊を見る力を持っていた。ただ精霊の姿と言ってもボンヤリとした光の玉のようなものであり、今彼の目にはサーガを慕うように集まる精霊の姿が見えていた。その数が尋常ではない。


「エロフ? エロフってなんだ?」

「エ・ル・フです! ああ、サーガさんは記憶喪失らしくて。申し訳ありませんギルマス」


サララが何故か代わりに頭を下げる。


「エルフは森と共に生き、精霊を信仰する一族、とでも言えば良いのかな? まあ今は私のように森を出る者も多いけれどね」

「ふ~ん、耳が長いからダーディンの親戚かと思った」

「ダーディン?」

「あれ? ダーディンってなんだっけ?」


何故か言った本人が首を傾げている。

ちなみにヤンはよくあるエルフのイメージ通りの金髪の透き通るような白い肌、長い耳の持ち主である。


「まあサーガ君はよくよく風の精霊に愛されているみたいだから、そんなことが出来ても不思議ではないかもしれないね。今飛んでみてくれと言って出来るかい?」

「え、やだ。狭いし」

「それもそうだね」


いくらギルマスの執務室が他よりも広いとは言え、飛び回れるほど広くはない。


「じゃあ地下の修練場まで行って…」

「これじゃ駄目か?」


移動を面倒くさがったサーガが風を操る。


「おやおや」


ヤンの目の前の重そうな執務机がフワリと浮き上がった。

面白がるヤンに、呆然となるゴルドとサララ。


「凄いね。しかも無詠唱でこんなことまで」


すぐに机が床にゆっくり降ろされる。机の上は何事もなかったかのように物の配置が変わっていない。そんな細かい所まで操ったのかと感心するヤン。


「なるほど。君の力は良く分かった。ただ人前であまりその力は使わない方が良いかな?」

「面倒事が舞い込んでくる?」

「理解が早くて助かるよ」


ヤンがにっこり微笑む。


「ゴルドにサララも他言無用だよ。これはギルマス命令だ」

「わ、分かった」

「かしこまりました」


2人も居住まいを正した。


「う~ん、サーガ君にはすぐにでもAランクをあげたい所だけど、あまり目立つことをするといろんな所から反感を買うからねぇ。まずはDランクからでどうだろう? その後は早めにランクを上げられるように手配するよ」

「D? いいのか? 悪いのか?」

「実績も無いのにいきなりDランクはまずないぞ。最初はだいたいGランクから始めるものだ。破格の待遇だよ」


ゴルドがサーガに説明する。


「ふ~ん、ま、稼げりゃいいか。分かった。Dからね」


あまり仕組みをよく分かっていないサーガなので、とりあえず納得しておいた。


「じゃあ後はサララ、よろしく頼むよ」

「はい。かしこまりました。ではサーガさん、こちらへ」

「なあなあ、最後に1ついい?」

「何かな?」


サーガがヤンを見つめる。


「あんたと戦うにはどうしたらいい?」


ヤンの目が細められた。

ヤンも元はSランク冒険者。精霊魔術に優れた実力者である。サーガはなんとなく強者の匂いを感じ取っていたらしい。


「そうだね。とても簡単なことがあるよ」


ヤンが机に積み重ねられた書類にポン、と手を置いた。


「この書類の片付けを手伝ってくれたのなら…」

「じゃ、暇になったら声をかけてくれ」


サーガが背を向けてすぐさま部屋を出て行った。書類仕事は嫌らしい。

サララも慌ててヤンに頭を下げ、サーガを追って出ていった。


「手伝ってはくれないのね…」

「それはギルマスの仕事だろう…」


呆れ口調でゴルドが泣き顔のヤンに突っ込む。


「で、お前さんなら、勝てるか?」


ゴルドが真剣な面もちでヤンに問いかける。

ヤンもそれまでふわりとした笑みを浮かべていた顔に緊張の色を浮かばせた。


「私でも難しいだろうね。彼の前では風の魔法は使えなくなるだろう。得意の弓矢も封じられてしまうだろうし。他の属性の魔法も躱されてしまう気がするよ。出来ることなら即Sランクにしてしまいたいくらいだよ…」

「まじか…」

「どうして突然あんな存在が現われたのかねぇ? あれだけの実力者ならこれまでに何かしら名を上げていても良さそうなものだけれど…。本当に記憶喪失なのかも怪しい所だね」

「いや、記憶喪失だけは本物っぽいがな」


エルフや身体強化の魔法のことを知らなかったりと誰でも当たり前に知っているはずのことをサーガは分かっていない。記憶喪失というのも頷けるものだ。


「ま、しばらく無茶させないように、ゴルド、見てやっていてくれ」

「ああ。分かった」


しかし、この後すぐにサーガがトラブルに意気揚々と自ら首を突っ込んで行くことは、さすがに2人も予想できなかった。


お読みいただきありがとうございます。


今日から作者も冬休み。しかし年末2日でどう大掃除しろというのか。

せめて28日から休ませて貰えれば掃除する気にもなれるのに…。


今年の更新はこれで最後となると思います。

皆様良いお年を!

また来年もよろしくお願いいたします。

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