サーガ視点2
前回のあらすじ~
「ミャア」「ミィ」「ミャウ」
毛玉がコロコロコロ。
「寄るな触るな近寄るな!」
好きだからこそ触れない地獄。
「村を出て行ってもらいたいんじゃが」
実行日まであと3日となった夜。村長さんからそんな話が出て来た。無理もなかろうと思う。ルペンサーはもう村には来ないだろうし、そうなればサーガはただブラブラしているだけのニート状態だ。
「まあでも、あと3日だけ置いといてくれないか? 3日経ったら必ず出ていくから」
何故3日と問われるが、今全てを話すことは出来ない。下手に話していつもと違う行動をされたら連中が手を引いてしまうかもしれない。それは困る。
さっさと食べ終え、部屋へ入ってしまう。さすがに常時集音状態はいくら魔力量が多いと言っても疲れる。
夜中には明かりが勿体ないのか、洞窟の連中も眠りに入るのでその時だけはサーガも眠りに就けた。
そしてその日がやって来る。
「ちょっと大事な事を話したいからさ、村の大人達に夜寝ないで待っててくれって言っといて」
と言伝をする。何人が信じて起きていてくれるか分からないが、眠っている所を無理矢理叩き起こす作業が少なければいい。そんなことに時間を取られて誰かが被害に遭ったらまずい。
子供は仕方ないものとする。最悪大人が抱えて運べば問題ない。
夜が更け、村人の半数以上が暗い中起きて待っていてくれているようだった。僥倖だ。
連中がやって来る。ここで一網打尽にしてやってもいいけれど、一応村の人達に仕事したのよという所を見せておきたい。
後で「何も仕事しなかったのだから食費、宿泊費を払え」などと言われても困る。
連中が散開する。作戦通りに2人一組で手前の家から順に巡っていくようだ。
リーダーと思わしき男が1人待機している。なのでここで気絶させてしまう。用意した縄でグルグル巻きにして、一番近場の家へと急ぐ。
「?! 何故起きて…!」
「?! 誰だ?!」
外にいた1人を昏倒させると、家の中から鉢合わせたらしい声がした。ランタンを点けて明かりを隠しつつ、そっと後ろに忍び寄る。そして肩を叩き、振り向いた所で下からの光に変な顔。
「ばあ…」
「うっぎゃああああ!!」
思った以上に驚いてくれた。ちょっと嬉しい。
悪戯が成功した喜びを押し隠しつつ、ランタンを家の主、カイザに押しつけ、
「トエドの家に行ってね」
と指示。そしてすぐさま移動する。
こちらでも家の中で鉢合わせたらしい声。外の1人をすぐさま昏倒させ、家の中へ突入。襲いかかろうとしていた1人に後ろから襲いかかり、意識を奪う。
「すぐにカイザさん達が来るから、子供達起こしてアッシュの家に皆で向かってね」
それだけ言って次へと向かう。
めぼしい家には簡単に風の結界を張っておいたので、なかなか中に入れず苦戦している様子が窺えた。それらを昏倒させ、騒ぎを聞きつけた家の者に、また次の場所を指定して去って行く。
実行部隊はリーダーを除いて20人。10組のそれらを昏倒させ、広場に集めて縛り上げる。
後半の家々は最初の悲鳴以外何が起こっているのか分からず戸惑っているはずだ。順繰りに行く場所を指定して来たので、そろそろ集まってくる頃かなと思った時、皆がゾロゾロ広場に集まってきた。
「お、お疲れさん。全部片付いたぜ」
カイザがランタンを掲げ、皆が驚きの表情を浮かべる。
「こ、これは、一体、なんなんだ?」
ランタンを任されたカイザが問いかける。
「向こうの山のちょっと陰になった所に洞窟があってね。そこに居着いたらしい盗賊さん達です」
本当は盗賊などではなく、変な施設建設をしている妙な連中なのだがそこまで詳しく言う必要はないと判断する。
「たまたま山を巡ってたら塒を見つけちまったんだよね。で、偶然襲撃日を聞いちゃってさ」
「な、なんでもっと早く退治してくれなかったんだ!」
「ええ~? 1対21だよ? 真正面から行って敵うと思う?」
口を出した村人が黙り込んだ。
ごめんなさい。報償金が欲しいだけです。やろうと思えば出来ました。
「襲撃してくれりゃばらけてくれると思ったからさ。個別だったらいけるだろうと思って。皆さんにはご協力頂きました」
と、適当に理由をくっつける。
「協力って…。せめて一言話してくれたら…」
「話したら皆パニックになってたんじゃね? 落ちついて待っていられたか?」
やっぱり黙り込んだ。
荒事になれていない者が大人しく待っていられたとは思えない。
「下手なことしてこいつらが来なかったら何時までも片付かないだろ? だからまあ、いつも通りに暗くして静かに待っててもらったわけさ。一応二次被害を防ぐためと説明するんで集まってもらったんだけど、全員無事捕まえられたし、もう大丈夫。では皆様お疲れ様。家へ戻ってお休みなさい」
「全員捕まえたのかい?」
カイザが不安そうに聞いて来る。
「ああ。21人全員捕まえたぜ」
それを聞いて皆ほっとした顔になった。実は洞窟にまだ残ってますなどとは口にしない。
「ほれほれ、明日も早いんだろ? 子供達も眠そうな顔してるし、早く帰ってベッドに潜りな。こいつらは夜が明けたら俺が街まで連行して行くから」
さっさと行けと手を振ると、安心したように皆ゾロゾロと各々の家に帰って行った。
逃げにくいようにと個々に縛り上げた連中を一纏めに縛り上げていると、ファーレがやって来る。
「サーガは? 戻るんでしょう?」
この子だけはなんとなくサーガがやっていることを察しているような雰囲気があった。元々の勘が鋭いのかもしれない。
「ああ。俺はもう一つ仕事が残ってるから。先に戻って休んでな」
「え? まさか、まだいるの?」
「もういねーよ。ちょっと、洞窟に用がな」
「え? でも、洞窟って山の向こうなんでしょう?」
「そ。でも大丈夫。俺は魔法が使えるから。ほれ、子供はさっさと帰って寝ろ」
男達を縛り上げ、ファーレの頭にぽんと手を置く。
「これ持ってけば怖くないだろ?」
ランタンをファーレに手渡す。その明るさにファーレの顔も明るくなった。
「分かった。お仕事終わったら、ちゃんと帰って来てね」
「ちゃんと帰って来てね」の言葉にちょっとドキリとなる。なんだか昔、誰かに言われた気もする…。
「当たり前よ。そのランタンは俺のだからね」
にっかり笑って、山の方へと足を向ける。途中振り返って見れば、ファーレが嬉しそうにランタンを掲げながら、家に戻って行くのが見えた。
「こんばんは~。誰かいますか~」
洞窟の奥に向かって問いかけるが、何も返事はない。当たり前だろう。
「誰もいませんね~?」
素知らぬ顔で奥へと進む。少し行くと真っ暗闇。しかしサーガは平気な様子でそのまま進んでいく。
と、奥に光が灯された。
「こんな時間のこんな場所に何の用だ? 君は冒険者か?」
ランタンを掲げながら、冒険者風の男が岩陰から立ち上がり、サーガに問いかける。
「ああ、俺は冒険者だ。あんたこそこんな所で明かりも点けずに1人で何してたんだ?」
「仲間は今外に出てるんだよ。そら、帰って来た」
男がサーガの後ろへと視線を向ける。つられてサーガも後方を振り返る。
途端に男がランタンを放り出し、剣を抜きサーガに迫る。上段から振り下ろされる剣。しかしサーガはそれをチラリとも見ずに、体を回転させ避けた。
「んなミエミエの手に引っ掛かるかよ!」
男が剣を横薙ぎに振る。サーガは後ろに跳んで避けた。
「ち」
男が追い打ちをかけてくる。
「おやあ? 大丈夫なのかなぁ?」
サーガがからかうように言いながら、剣を抜きそれを受けた。
「こんな暗い所で」
男が更に剣を叩き込もうと、下がるサーガを追って一歩踏み出す。
洞窟の中は整地されてなどいない。岩や石がゴロゴロしている。
「!」
男が足を岩に取られ、体勢を崩した。そこへ、サーガの蹴りが入る。男のこめかみに綺麗に入った爪先の蹴りの衝撃で、男が吹っ飛んだ。
洞窟の壁もゴツゴツしている。そこへ勢いよくぶつかった男が崩れ落ちた。
「あんなランタンの小さな光でこんな所で戦おうとするから。奇襲が成功しなかった時点で逃げるべきだったんだよ」
暗闇の中でも自由に動けるサーガが男に近づき、男の襟首を掴んで持ち上げる。
「じゃ、奥に案内してもらおうか」
「な、にを…」
頭がふらついてまともに動けない男は、サーガに大人しく引きずられて行く。
「なんか登録してる奴の魔力でしか開かないんだろ? あれ。下手に壊してダンジョンの時みたいになったらまずいからさ~」
人数が減れば報奨金も減る。出来れば全員生かしたまま捕らえたい。
大きな岩陰の隙間に体を入れ、指定の場所に男の手を当てた。すると一部の壁が動き、整備された通路が現れた。
「ご苦労さん。あんたはここでおねんねしててちょ」
「が…」
男の意識を狩り、縄でグルグル巻きにしてそこに置いていった。
もちろんだが、ランタンはちゃんと戦利品としてもらっておいた。
「誰だお前は…ぐえ」
「何があった…ゲボ」
出会う者を片っ端から一発ノックアウトさせていく。どうも残っているのは非戦闘員だけのようだった。
施設はまだ建設途中にも見えるが、すでに色んな機材が運ばれて来ていた。
「なんだこりゃ?」
巨大なプールのようなものにいろいろな管が繋がれている。そのプールの奥に設置されている透明な容器に、半分にも満たないが赤い液体が入っていた。
「なんか、変だな…」
その赤い液体には、何故か風の精霊達も近付きたがらない。サーガもなんだか近づきたくない。
「よく分からんが、壊しておいたほうが良さそうだな」
花街で見た赤い液体を思い出す。あれが原液なのであれば容器を壊してしまったほうがいいだろう。
「何をしている?!」
まだ仕損じていた者がやって来て、容器を壊そうと風を集めているサーガに体当たりしようとしてくる。しかしそれをひょいっと避ける。
「邪魔しないでね~」
悪戯な笑みを浮かべると、容器に向かって力を放つ。
ガシャーン!!
容器は容易く割れ、中の赤い液体がこぼれ落ちる。
「無能の魔女様の血が!」
男が悲鳴のように叫んで、ヘナヘナとそこに座り込む。
「無能の魔女? おい、無能の魔女ってなんだ?」
無能、なのに何故魔女なのか。
サーガが男の肩を掴んで詳しく話しを聞こうとするが、男が何故か痙攣し始めた。
「?! 毒?! 呪術か?!」
慌てて男の顔を見るが、すでに口から泡を吹き出し白目を剥いている。手遅れな事が一目で分かる。
「くそ!」
他の者達の様子を見てみようと立ち上がったその時、
ズズン!
と大きな音。そしてガラガラといろんな所で何かが崩れる音。
「まさか…自爆?! まだ完成させてないのになんでそんなもの先に仕掛けてるんだよ!」
慌てて来た道を戻る。まだ金目の物も漁っていないというのに!
風で気配を読むが、呪術の類いだったのか、皆死んでいた。あの容器に仕掛けられてでもいたのだろう。
「そんなに重要なものだったのか…」
壊したのは失敗だったかもしれない。嫌な気配を感じたので壊したのだが、証拠品の1つとして残しておくべきだったのかもしれない。しかしもう遅い。
壁に亀裂が入っていく。サーガは死体だけでも証拠として持って行きたかったが、荷物が増えれば重くなる。申し訳ないがそのまま置いていくことにしてとにかく飛んだ。
入り口の所で気絶させていた男はまだ生きていた。そいつだけ掴んでとにかく洞窟の外へと逃れる。
ガラガラと音がして、次第に洞窟が埋まっていった。もし掘り起こして証拠を調べるにしても相当な時間が掛かるだろう。
「あ~、やっちまった…」
生き残った男達がどこまで口を割るかも分からない。となれば、そのしわ寄せはサーガにも掛かってくるだろう。
「適当に逃げよう」
唯一生き残ったその男を掴んで、サーガは夜空を飛んで村まで戻って行った。
お読みいただきありがとうございます。
にゃんこに「起きろ」と起こされる休日の幸せよ…。




