ミレ
前回のあらすじ~
「…という事があったの」
「臭えな…」
「え? 臭う?」クンクン
「お前じゃない」
レミは人形をミレと名付けて可愛がった。
暇な時はミレが話し相手になる。と言っても結局一人言であることには変わりないのだが。
しかし人形がいるとただの一人言も会話のようになり楽しい。おかげで退屈を紛らわすことが出来た。
あとはサーガに「暇なら筋トレとストレッチでもやっとけ」と言われたので、教えてもらった腹筋背筋腕立て伏せを合計100回を目標にこなしていたりする。
元々朝から晩まで働いていたレミである。やはり体を動かさないと気持ち悪いのだ。
そんな退屈な日が続いて、7日目。
今日もサーガは朝からお出掛け。レミはもちろんお留守番。
「ミレ、今日は曇ってるわ。雨が降らないと良いわね」
「そうね、レミ。でも外に出なければあまり関係ないわね」
などと窓の外を見ながらミレと話していた時。
ドカドカと品のない足音が聞こえ、それが部屋の前で止まった。そして扉が勢いよく開けられる。
「ほう! まさか本当にいるとは思わなかったぜ」
「ねえ? 旦那。本当だったでしょう? で、約束の報酬」
「ほらよ。んじゃ、こいつは貰って行くぜ」
「どうぞどうぞ」
「な…」
そこにいたのはあのカーツォの手下の男達。ぺこぺこしながらそいつらから金と覚しき物をもらっているのは、サーガだった。
「あんた…、まさか、あたしを騙したの…?!」
「何言ってんの。こうやってちゃんと報酬ももらったし、7日間きちんと面倒見てやったじゃねーの」
「でも、こいつらにあたしを売ったのでしょ!」
「そうとも言う」
「大人しくしろ!」
「いや! 放して!」
男達は準備していたのかレミの手足を縄で縛り上げ、口には猿ぐつわを噛ませた。そして大きな袋にレミをすっぽりと入れてしまう。
「んん! んー!」
レミは必死で体をくねらせる。
「大人しくしねえか!」
男がレミの腹に蹴りを入れた。その痛さに悶絶…しなかった。
(あれ? 痛くない…?)
不思議に思いながらまた動こうとするが、何故か強烈な睡魔に襲われ、レミは意識を失った。
「達者でな~」
そんな呑気なサーガの声が、完全に意識を失う前に聞こえた。
「起きろ!」
耳元でそう叫ばれ、レミがハッと目を開ける。すると目の前には禿げデブ親父のニタリとした顔があった。
「きゃあああ!」
「おや、起きてしまったか」
反射的に体を遠ざけようと後ろに下がるが、すぐに壁があった。というか下は布団。ベッドの上だ。
「眠ったままでも一興かと思ったが、やはり起きて抵抗してくれた方が面白い。さて、続きと行こうか」
「つ、続き…?」
はっと気付く。服が脱がされかけていた。
禿げデブ親父のドルナオ・カーツォはすでにパンツ一丁の姿になっている。
「ひ…」
その気持ち悪さに引き攣った悲鳴が出る。
「ほ~れほれ、逃げなくていいのかな~?」
「いや! 来ないで!」
慌ててベッドを飛び降り、扉へと向かう。ノブに手を掛けて扉を開けようとするが開かない。
「もちろん、鍵を掛けているよ」
ニタニタしながらカーツォが近づいてくる。
必死に窓の方へと逃れるが、やはり鍵が掛かっているのか開かない。
「うへへへへ、さあ次はどうする?」
気持ち悪い肉の塊が近づいて来る。
「いや! 来ないで!」
どうもレミは足癖が悪いのか、つまるところ切羽詰まると足が出るらしく。
「ぐえ!」
潰れたカエルのような声を出し、カーツォが床に這いつくばる。
レミの華麗なる蹴りがカーツォの股間を直撃したのだ。
今のうちにと床で悶絶するカーツォを放っておき、出口を探すがどこもかしこも鍵が掛かっているようで開かない。
「開けて! 出して!」
扉をドンドン叩くが、鍵が開くわけもない。
「この小娘が…」
背後から低い声が聞こえ、思わず振り向くと怒りの形相となったカーツォが立っていた。右手は股間に当てている。まだ痛むのか。
パン!
カーツォの左手が動いて、レミは頬に痛みを感じた。衝撃で体が揺れ、床に崩れ落ちる。
「優しくしてやりゃぁつけあがりやがって!」
カーツォがのしかかってきた。
「いやあ!」
必死に逃げようとするが、カーツォの巨体を女の子の細腕でどうにか出来るわけもない。
ビリイ!
服が破かれ、胸が露わになる。
カーツォの顔が近づいて来て、必死に腕でそれを止める。
「大人しくしろ!」
再び顔を叩かれ、頭が揺れた。腕に力が入らなくなり、カーツォの顔が近づく。
「ふひひ、農村の娘にしちゃあ肌が綺麗だとは思ったんだ」
カーツォが舌を出し、レミの肌に這わせようとする。
(助けて…)
レミの瞳に涙が溢れてきた。その時。
ドカン!
何か大きな音がして、ドカドカと幾人かの足音が聞こえた。
「そこまでだドルナオ・カーツォ! 横領と詐欺と恐喝の容疑、そして婦女暴行の現行犯で貴様を連行する!」
凜々しい女性の声が響き、同時にカーツォが男達に両腕を押さえられて後ろ手に縄で縛られ始める。
「な、何を? お前達は誰だ!」
主格と思われる女性を睨み付けるカーツォ。
「私の名はクラリス・プレ・サクセス。この領を治めるサクセス伯爵が末娘だ!」
「へ?」
カーツォが目を点にする。
「父が治める領でも薬草栽培の出来るヤク―の村は、貴重な村だ。それを己が欲望の為に利用した罪は重い。洗いざらい吐いてもらうぞ。連れて行け!」
「ま、待ってくれ! そんな、私がそんなことをした証拠なんてどこに…」
「ここに」
クラリスがペラリと書類らしきものをカーツォの目の前に掲げて見せた。それを見てカーツォが顔を青ざめさせる。
「な、なんでこれがここに…」
「これで分かったか? よし、連れて行け!」
「ま、待ってくれ! そんな! なじぇええええ!」
パンツ一丁の姿でカーツォは連行されていった。
突然の成り行きにポカンとしていたレミに、クラリスが近づく。
「すまない。入ってくるまで時間がかかってしまった。申し訳ない」
そう言って、羽織っていた上着をレミに掛けてくれる。レミが手にしたこともないとても手触りの良い上着だった。
「君にも少し話しを聞きたいのだが、一緒に行ってくれるだろうか?」
「へ? あ、あの…?」
「ああ、頬を叩かれたのかい? 赤くなっているね。これをお飲み」
差し出された小瓶には緑色の液体が入っている。
「君達の村で採れた薬草を使って作られているポーションだよ。効果は抜群だ」
クラリスが優しく微笑む。
レミは安心したのと嬉しさで、知らず涙を流し始めていた。
レミも事情聴取を受けた。と言っても何をされたのか具に語るだけだ。なんのことはない。
そしてすぐに解放された。しかし村に帰るには微妙な時間。
「行く所がないのならうちに泊まれば良い」
とクラリスに断わる間もなく引っ張られて行き、見たこともない大きな屋敷に泊まることになった。
居並ぶ執事やメイド達。見たことも食べたこともない料理。ふっかふっかのベッド。肌触りの良い寝間着。
何もかもが初めてのレミは緊張しつつ、やはり疲れもあったのとベッドがふっかふっかで気持ちよいのも重なり、ぐっすり眠った。
起きるとメイドさんに着替えを手伝われそうになって慌てて遠慮したけれども。
着替え終わった所で扉がノックされる。
「どうぞ」
と答えると扉が開き、クラリスが入って来た。
「やあ。よく眠れたかい?」
「はい。おかげさまで!」
ぺこりと頭を下げる。村まではクラリスが馬車を用意してくれると言っていた。有り難い限りだ。
「レミ嬢に渡したい物があって」
そう言ってクラリスがレミの前に差し出したのは、
「ミレ!」
宿で男達と揉み合った際に落としたはずのお人形、ミレだった。
愛おしそうにレミがミレを抱きしめる。
「この子…どうしてクラリスさんが?」
宿で落とした物なのに何故クラリスが持っているのか?
クラリスを見上げてみるが、何故か目が泳いでいる。
「え、ええと…関係する場所をその、調査していたら、その、その宿屋にその、その人形があってね。多分レミ嬢の物なのではないかと思ったわけなんだよ」
そのが多い。
しかし関係するとしても、ただ泊まっていた宿屋を調べる意味が分からない。平民には分からない何か事情があるのかとレミが納得しかけた時、クラリスが盛大に溜息を吐いた。
「だめだ。私はこういうのはどうにも苦手で…」
額に手を当て少しの間何かを考えていたが、レミの瞳を真っ直ぐ見ると、クラリスが語り出した。
「実を言うと、それはサーガ君が持って来てくれた物なんだ。君が大事にしていたからと」
「サーガ…」
その名を聞いて複雑な思いに駆られる。なにせサーガは最後の最後に自分を売った男だ。
「その様子だとやっぱり、誤解しているようだね」
「え?」
なんのことかとレミが首を傾げる。
「実を言うと、今回の捕縛劇の画策も証拠集めも、全てサーガ君がやったことなんだよ」
「え?」
訳が分からず、レミはさらに首を傾げた。
お読みいただきありがとうございます。
近頃定時上がりなのに、家に帰ると疲れからか10時頃には眠くなるという。
書く暇ないやんけ。




