凍てつくような視線
前回のあらすじ~
「人様の物に手を出したら、チョン、だね」
「チョン?」
思わず股間を庇ってしまったのは男だから?
店に入ってすぐの扉を開けて中に入る。
普段ならばそこにはお客を待つ娼妓達が、それぞれに椅子に座ったり立ち話をしたりとくつろぎながら待つ場所なのだろう。
しかし今はむさい男達が数人たむろしているだけだった。
「あんまり目に嬉しくない光景だね」
サーガが呟く。
「おいなんだこのガキ。見張りはどうしたんだ」
サーガに気付いた1人の男が近づいて来る。
「外で仲良く地面に転がってるけど」
サーガが正直に答える。
「はあ? とりあえずお前、ここはお前みたいなガキの来る所じゃねーよ」
「ガキガキガキと、人を見た目で判断しやがって…」
そういうサーガもツナグのことを「ガキンちょ」と呼んでいたが。それは棚に上げている。
サーガが近づいて来る男を睨め付ける。
「なんだあこのガキ? とにかく外へ…」
男がサーガを掴もうと手を伸ばす。しかし次の瞬間サーガの姿が消えた。
「あ?」
そして男は宙を飛び、壁に激突してそのまま頭から床に落ちた。そして動かなくなる。
サーガの見事な一本背負いが決まった瞬間であった。
「俺がガキならてめえは中年のおっさんだろう! この禿げ親父!」
確かに投げられた男は頭がつるりんしているが、禿げと言うより剃っているように見える。けれどツッコまないでおこう。
「なんだこのガキは?!」
「チビのくせに!!」
他の男達も立ち上がり、ようやっと警戒し始める。
「チビ?」
サーガの肩がピクリと動く。
「誰だ? 今俺の事チビ呼ばわりした奴は…」
ギロリと振り向いたサーガの形相に、男達は思わず後退った。
その後、店の外に「誰がチビかー! 少し背が低いだけじゃー!」という声が響いたとかなんとか。
言ってる事は変わりないと思うが。
「なんだ? 騒がしいな…」
運動を終え、ベッドの脇で座っていたテッドリーが頭を上げる。
なにやら先程から階下の方が騒がしい。
その時、バタバタと誰かが走ってくる音がして、ノックもせずに扉が開け放たれた。
「か、頭! 大変でぇ!」
「何事だ?」
テッドリーがズボンに手を伸ばし、足を入れる。
「よ、よく分かんねぇ黄色い髪のチビのガキが、暴れまくってて…」
「誰がチビのガキかーーーー!!」
「げっふぅ!」
報告に来ていた男が横から跳び蹴りを食らい、派手にすっ飛んでテッドリーの目の前から消えた。
代わりに現われた黄色い髪の男。
「人を見ればチビだのガキだの。他に言葉を知らんのか!」
他に言葉…。背が低いとかかな?
「なんだてめえは」
テッドリーが扉の前のサーガを睨み付ける。
「俺はサーガ。傭兵…じゃねえや、冒険者のサーガだ」
「冒険者? 誰かの差し金か?」
誰かが何か依頼でも出したのかと勘ぐる。しかしテッドリーの実力を知っていてそんな依頼を出す者がいるだろうか。
「まあ成功報酬で金はもらうけど。俺個人的にもAランク相当って奴と戦ってみたかったんでね」
ニヤリとテッドリーを睨み付ける。
「一応俺を知ってるのか。お前は何ランクだ」
「俺は先日Cランクになった」
「は!」
テッドリーが吐き捨てるように笑う。
「CランクがAランクに? とんだアホがいたもんだな」
「なんだろう…。なんだか誰かによくアホアホ言われていた気がする…」
気がするだけだと思いたい。
「いいだろう。相手してやるよ。そして現実を知るんだな」
「あ、その前に」
サーガが手を上げ、ストップの構えを見せる。
「なんだ? 命乞いか?」
「そこのお姉さんをそんなにしたのは、お前か?」
「あ?」
サーガの指さすベッドの上では、体中青あざ生傷だらけ、顔も紫色に変貌してしまっている女性が転がっていた。かろうじて胸の辺りが上下している様子からして、まだ死んではいないようだ。
「だったらなんだ」
「いや。別に」
それまでの暢気な様子が、一瞬氷のように凍てついたようになった。しかし一瞬だけで、テッドリーは気付かなかった。
「そんじゃ、見せてもらいましょうかね。大岩さえもぶっ壊す怪力の持ち主だって?」
「てめえの頭もかち割ってやらあ!!」
身体強化の魔法を発動させ、テッドリーがサーガに殴りかかった。
身体強化の魔法は、体中に魔力を纏わせて身体能力の底上げをするものである。纏わせる魔力は均等であり、何処かに偏るなどと言うことはない。
しかしテッドリーはそれを可能にした。他の場所の能力が下がってしまうというデメリットはあるが、腕により多くの魔力を纏わせることにより、通常の強化を遙かに凌ぐ破壊力を持つに至ったのだ。
「おらおらおらおらおらおらおらおらあ!!」
スタ○ドではない。
テッドリーが腕を振るう度に、バゴオ! ドゴオ! と派手な破壊音を響かせて壁が破壊されて吹っ飛んだり窓が割れて吹っ飛んだり。
建物を解体するには便利かもしれない。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
「おっほほ! 怖え!」
サーガはものの見事にそれを全部避ける。身体強化では破壊力だけではなくスピードも上がっているのだが、サーガはそれを悉く躱す。
「この野郎!」
躱された拳が床に突き刺さり、床が割れて階下に落ちる。
「おっほほ! すげえ破壊力」
「ふん。どうした。手も足も出ないか」
「いや~、どんなもんなのかな~とね」
まだまだ余裕な様子のサーガに、テッドリーがイラッとなる。
「このチビが。ならば俺も少し本気を出そう」
「あ? チビ? 誰がチビだって?」
サーガも気に触ったのか、テッドリーを睨み付ける。
テッドリーが纏う魔力の量を増やす。増やせば増やすほど破壊力もスピードも増す。
「避けられるものなら避けてみろ!!」
テッドリーがサーガに襲いかかった。
(何故だ…?!)
テッドリーとサーガは1階の広間まで落ちていた。テッドリーが破壊しまくったためである。上手い具合に床が抜け、吹き抜けのような状態になっている。
(何故当たらない?!)
魔力量70%まで上げ、普通ならば躱せないだろう速度で殴りかかっているにも関わらず、サーガは涼しい顔でそれを悉く避けている。
それに普通ならば例え避けたとしても、拳の風圧などで多少の傷が出来ているはずである。それも全くない。
「うん。当たれば怖いね。多分俺でも死ぬね」
サーガがうんうんと頷いている。その態度も気に触る。
「貴様…! ならば、俺の本気を見せてやる!!」
魔力量を100%腕に纏わせ、サーガに襲いかかる。
「ほお、それが本気」
サーガが瞳を煌めかせ、ここで初めて腰の剣を抜いた。
「そんな鉄の剣でこの豪腕が切れるか!!」
魔力を纏っている腕はそれこそ鉄よりも固い。アダマンタイトやミスリル、または魔法剣でもない限りこの腕を切り落とすことは出来ない。
思い切り振りかぶり、サーガに鉄拳を振り下ろす。サーガは剣を横薙ぎに振り抜いた。
ギィン!
「うわ! うそ!」
腕を切り落とそうとしたのだろうか、反対に剣が折れて飛んだ。拳は剣で軌道を逸らされたのか、ギリギリでサーガの横を掠めた。
「バカめ! これで終わりだ!」
テッドリーが笑いながら再び鉄拳を振り下ろす。
ザシュ!
「あ?」
テッドリーが呆然となる。振り下ろしたはずの腕は眼前から消え、後ろでボトリと音がした。
「うん。腕は難しいかもだけど、肩口は全くだね」
剣先がなくなったはずの剣で、サーガはテッドリーの肩を切り落としていた。よく見れば、剣先を補うかのように風が集まっている。
「な、な、な…」
何故、なんで、そんな言葉が頭を巡る。
人には反応できないほどの速度だったはず。なのに拳を振り下ろすよりも早くサーガは動いた。そして何故ないはずの剣先で肩を切り落とせるのか。
テッドリーには理解出来ない。考えようとした矢先に切り落とされた腕の痛みが頭を襲う。
「ぎゃああああ! 腕が、俺の腕がああ!!」
「あらあ、まずいね。止血だけしておこうか~」
暢気な声が聞こえ、テッドリーが風を感じた。と、不思議な事に出血が治まる。
「な、な?」
出血は止まったが痛みが消えたわけではない。
テッドリーがサーガを見る。サーガがニタニタとした笑顔でテッドリーを眺めている。
テッドリーはそこで初めて目の前の男に得体の知れないものを感じて恐怖した。
「た、た、頼む…。た、助けて、くれ…」
その言葉が口から自然と零れてくる。本能が目の前の男に敵わないと悟ってしまった。
「か、金ならやる…。命だけは…」
「あ~、大丈夫大丈夫。命は取らんよ」
サーガがにっこり笑う。
その言葉に少しほっとするテッドリー。しかし。
「命は取らんが、タマは取る」
笑顔なのに視線だけは凍てつくような寒さを感じさせるものだった。
お読みいただきありがとうございます。
連投、これにて終いにございます。
また書き溜めたら放出致します。




