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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
18/81

チョン

前回のあらすじ~

アオイと女将に嵌められていたことが分かったサーガ。

「俺は自由だ!」

風は自由でなくてはいけません。

「頭湧いてんのかい?」

「いたって正気ですが?」


女将さんが盛大に溜息を吐く。


「前にも話したが、テッドリーてのはAランクに匹敵する実力者なんだよ? 2つ名は『豪腕』。素手で大岩も粉々に砕くことが出来るって自慢なんだとさ。Dランクのあんたが敵う相手じゃないんだよ?」

「先日Cランクに上がりました」

「は?」


女将が片眉を上げる。


「ああ、それだけの活動をしてたのか…。おや? 確かランクを上がる時には試験がいるとは聞いているが…」


いつそんなもの受けに行ったのかと首を傾げる。ここ数日はアオイにべったり付きまとっており、唯一の自由時間が取れた日には冒険者の仕事をしていたと本人が証言している。


「俺、特別なんだって。そんな試験なんて受けずにCになったぜ?」

「は?」


女将の知っている冒険者ギルド情報となんだか話しが違う。


「試験も受けずにC? 今のギルドはどうなってるんだい?」


女将さんも冒険者ギルドについてはそこまで詳しく知っているわけではない。しかしランクを上げるには厳しい審査がいるとは知っている。


「だから俺は特別なんだって。そんで? テッドリーぶっ飛ばしたら幾らくれる? 花街組合みたいなところから予算出せんじゃねーの?」

「?! 組合のこと知ってたのかい」

「風の噂で」


まさに風。

テッドリーはこの界隈ではまだ新参者だ。故に古くから付き合いのある楼閣達が手を取り、テッドリーに対抗する為に組合を作っていた。しかしその一画を担う満華楼が正攻法でテッドリーに屈したとあれば、このままではテッドリーに花街を実質上乗っ取られてしまうかもしれない。そのことについて女将は頭を悩ませていた。


「組合の予算ね…」


手を取り合っているとは言え、ライバルでもある。今は結束しているが、満華楼が瓦解すればこの先どうなるかは分からない。

ただ、女将はふと考える。サーガの実力はよく知らないが、ぶっ飛ばすと言っている以上何かしら算段があるのかもしれないと。もしこれで上手いことサーガがテッドリーをなんとかしてくれたなら、満華楼は周りの楼閣に恩を売ることも出来る。

そして、今手元にはテッドリーからぼったくった予算がたんまりとある。

そんな事を頭の中で計算し、女将はニヤリと口角を上げた。


「いいだろう。もしあんたがテッドリーをなんとかしてくれたなら、あたしが金を払おうじゃないか。ちょうどいい金もあるしね。成功報酬で1千万ってなとこでどうだい?」

「いっせんまん?!」


サーガの喉がゴクリと動いた。


「ちょ、ちょ~っと、や、安くないかぁ?」


どもってるぞ。

しかし値段交渉は基本である。


「あんた、昨日の夜は何してたんだい?」

「へ?」

「朝も、なんだかみょ~~~~に静かだったんだが。ナニしてたんだい?」


女将の意味深な視線に、つい視線を逸らしてしまうサーガ。


(あれ? 風の結界ちゃんと張ったはず…)


風の結界で音が外に漏れないようにしていたのだが…。


「アオイはいい女だったろう?」


女将がニヤリと笑う。

サーガは嫌な汗が流れた。


(なんで知ってる?!)


いや、冷静に考えれば、男と女が一晩同じ部屋にいるならば、そういうことがあってもおかしくない。そうだ。女将はカマをかけているに違いない!


「な、なんのことか~…」

「風の精霊がアオイの部屋の周りにいやに集まってたね。あれ、あんただろう?」


今度こそ汗がどっと出て来た。


「え? 婆さん…、精霊、分かるの?」

「あたしは実はハーフエルフでね。多少だけど気配を感じる事が出来るんだよ」


ニヤニヤと女将が笑う。


「ハーフエルフ?」

「エルフと人の間に生まれたってことだよ。人より少し寿命が長くて少し魔力量が多いってだけだけどね」


エルフ。確かギルマスのヤンが言っていた奴だ。


「身請けの決まった娼妓に手を出すなんてね。この街のルールに則るなら、チョン、だね」

「チョン?」

「そう。チョン」


女将が指をハサミの形にして、何かを切る動作をする。


「人様の物に手を出したんだ。泥棒と同じ事だろう? だから、その罰として、チョン」

「チョン…」


思わず股間を庇ってしまうのは、男だからだろうか。


「アオイは口が軽いからね~。少し脅してやればすぐに昨夜の事も全部話しちまうだろうね。となれば…」

「1千万か。妥当な値段だな!」


サーガが食い気味に話しを逸らす。


「だろう? もちろん、あたしも何にも見ても聞いてもいないよ?」


ニコニコと笑う女将。ニコニコと返すサーガ。


(鬼ババア!!)


もちろん口には出さなかった。














「またアオイさんに嵌められた? でもテッドリーぶっ飛ばすことは知らんはず…」


そも自由の身にならなければやろうとも思わなかったのだけれども。

ダブルブッキングはいけません。


首を捻りつつサーガは足を進め、その場所へとやって来た。

10年程前に建てられた、まだ新参と言える娼館「清流閣」。満華楼に負けず劣らずの立派な建物で、開店当時は満華楼のように身なりの良いお客がわんさか訪れたらしい。皆新し物好きであるからして。

北の清流閣、南の満華楼と謳われる程の店として名が売れ始めていたのだが、ここ1、2年程前から客層が何故か一気に悪くなった。

その頃に台頭して来たテッドリーが、どうやったのかこの店を拠点にして活動し始めたからである。その頃からこの店の楼主の姿が見えなくなり、皆テッドリーに何かされたのではと噂し始めた。

しかしなんら確証はなく、表だって暴れるわけでもない。何か被害に遭えばそれなりに対処も出来ようが、多少のいざこざはあれど何もなければただ客層が悪いだけの楼閣である。客層の悪さに眉を顰めながらも、周りの者達も何もできずにいた。

そしてどんな手を使ってか、少しずつ花街の中でもテッドリーに汲みする者が増えていったのである。女将達がそれに対抗する為に組合を作ったわけであるが、何故かその中からもテッドリーに寝返る者が出て来ており、それにも頭を悩ませていた。


「何見てんだガキ」


入り口に立っていた見張りだろうか、の1人が、清流閣を見上げていたサーガに声を掛けてきた。


「嫌な臭いがするなぁ…」


そんなことをポツリと呟き、すぐさまにっこり声を掛けてきた男に質問する。


「テッドリーって奴ここにいるんでしょ? ぶっ飛ばしに来たんだけど、どこにいるか教えてくんない?」


一瞬ポカンとした男は、隣に立っているもう1人の見張りと目を合わせ肩を竦めた。


「おいおいボウズ。お前何言ってるのか分かってんのか?」

「分かってるけど」


何故かサーガの言葉はいつも冗談として受け取られることが多い。顔のせいかもしれない。


「どんな顔だ!」


そんな顔。


「あれ? 俺誰にツッコんでんだ?」


首を捻るサーガ。さて誰にだろう。


「何言ってんだボウズ。ほれ、子供は帰った帰った」

「俺はボウズでもねーしガキでもねーよ!」


構わずズカズカ中に入ろうとしたサーガの肩を、見張りの男が掴もうとした。


「おい、ちょっと待てぇっ?!」


掴む寸前で男の動きが止まる。


「女の子に触られるのは好きだけど、男に触られるのは好きじゃねーんだわ」


サーガの足が伸び、見事に男の股間を蹴り上げている。

地面に倒れ込み悶絶する男。


「てめえ! 何しやがる!」


もう1人がサーガに殴りかかる。それをひょいと避け、ついでに伸ばされた腕を掴んで余計に引っ張る。


「な…!」


もう一つついでに足をご丁寧に引っ掛けてやれば、その男は顔面から地面に突撃した。

気絶したのか動かなくなる。


「まあ、案内されなくても、居場所はもう分かってるんだけどね」


そう言って意気揚々と清流閣の中へサーガは入って行った。

たまたま店の前を通りかかった数人の通行人が、なんの冗談かとその光景を眺めていた。


お読みいただきありがとうございます。


あと一息、続きます。

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