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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
17/81

俺は自由だ!

前回のあらすじ~

「あんたみたいなクズに誰が付いて行くかー!」 ドカ!

「…お金がないから、体で払うわ…」

「了解!」

甘い声。漏れる吐息。

2人の熱が絡み合う中、サーガは記憶の霞の中に誰かの影を見ていた。


(誰だ?)


なんだかとても良く知っている気がする。手を伸ばせばその全貌を知れるような気がして、サーガは必死にその影に向かって手を伸ばす。

アオイの腰が跳ねる。それに合わせてサーガも動く。


「…は、あ!」


アオイに合わせてサーガも上りつめる。

それに合わせるように影の人物も近づいてくる気がする。もう少しでその顔が分かる。


「ああ…!」


気を放った瞬間、その影に手が届いた。しかし影を掴むことはできず、指の間を溢れ落ちて行った。


(誰なんだ?!)


影は霞の中へと消えて行き、ただ燃えるような赤い色だけが強く印象に残った。












赤い髪? 赤い瞳? それとも服か装飾品か?

目を開けてみればすでに明るくなっていた。昨夜のことを思い出し、あの影のことを思い出す。

なんだかとても大切なことだった気がするが…。

そんなことをぼんやり考えていると、何故か横から突き刺さるような視線を感じる。

そちらに目を向けてみれば、布団で顔を半分隠してジト目でサーガを睨みつけているアオイがいた。


「おはよ、アオイさん。起きてたん?」


なんだか不機嫌そうに見える。サーガは刺激しないよう当たり障りのないことを話しかける。


「あんた、16歳って言ってたけど、サバ読んでない?!」

「いや、ないよ。記憶はないけど何故かそこはしっかり覚えてるから」

「だとしても慣れすぎよ! なんであんな…あん…」


何故か顔を赤くして、ますます顔を隠してしまうアオイ。


「え? 俺なんかした?」

「なんかって! あんな…あんなの、初めて…」


耳まで赤くして、とうとう顔を布団で隠してしまう。


「初めて? あれおかしいな? アオイさん、俺とすでに1度寝てるよね?」


布団を掴んでいるアオイの手がピクリと動いた。そーっと顔を出してくるが、ものの見事に目が泳いでいる。


「えええ? あ、あの時は、サーガ、酔ってたからもう少し雑というか…」

「「あんなに激しいの初めて」とか言ってなかったっけ?」

「う…」


言葉のブーメラン。

サーガがニヤニヤしながらアオイに顔を近づける。


「おかしいとは思ってたんだよね~。あの時臭いがしなかったし」

「に、臭い?」

「そ。俺は鼻も特別製でね。した後の臭いが分かるのよ。まあなんというか、した後はお互いの臭いが混じり合ってるのが分かると言うのかな」

「な、な…」


サーガがアオイに顔を近づけて、これ見よがしに臭いを嗅ぐ。


「うん。今日のアオイさんからは俺の臭いがする。しっかり絡み合ったからね~」

「ちょ、馬鹿! 嗅ぐな!」


慌ててアオイがサーガの顔を手で押して遠ざけようとする。


「この前はまったくしなかったんだよなぁ。ね? アオイさん? なんでかなぁ?」


指の間からニヤニヤとアオイを見つめるサーガ。

アオイはたまらず手を放して顔を背ける。


「アオイさ~ん。ちゃんと話してくれないと、イタズラしちゃうぞ」


とサーガの手が伸びてくる。


「や、馬鹿! どこ触って…」

「ちゃんと話してくれたら、もう1回シテあげるけど」

「!」


アオイの顔が再び沸騰したかのように赤くなる。

その後も目が泳ぎまくりオドオドしまくり何かを葛藤した後、アオイが口を開いた。


「そうよ。あの日は何もなかったわよ…」

「やっぱり! 言質は取ったぜ!」


サーガが飛び起きてガッツポーズを取る。

アオイは盛大に溜息を吐き、全てを語りだす。


「どうせあたしも今日で終わりだし、まあいいか。テッドリーの手下に喧嘩を売ったあんたがいれば、テッドリーの気がしばらくはあんたに向かうと思ったの。これ見よがしに側に置いておけば余計に腹を立てるかと思って。女将さんにも相談して、一芝居打ってどうにかあんたを側に置けないかって。それで酒に薬を混ぜて酔い潰して、借金背負わした事にしちゃおうって。あ、借金は女将さんの案ね」


がめつさ極まれり。


「あの日のお客さんは馴染みの人だったから事情を話して協力してもらって、壊した備品は適当に買って来た安物とアカネが前に壊しちゃったやつ。あんたは薬でおねんねしてたから何もしてないわよ」

「やった! 借金もなし記憶にないこともなし! 俺は自由だ!」


サーガが涙を流しながら喜ぶ。

それを聞いてアオイの顔が暗くなる。


「良かったわね。自由になれて」


アオイの言葉に喜び勇んで上げていた両手を、しずしずと下ろす。


「ご、ごめん…」

「別に…」


暗い顔になってしまったアオイに、サーガが近づく。


「ちゃんと話してくれたし、良かったらもう1回シテあげようか?」

「な、な、な、何馬鹿言ってんのよ!」


言葉の割に顔が真っ赤になっておりますが。
















それから少し時間を置いて、サーガがベッドから降りて素早く服を身につける。


「どうせ奴が来るのもまだ時間はあるだろ? 少しゆっくりしときなよ」

「そーする…」


ベッドにはぐったりしたアオイが転がっている。何故かはご想像にお任せします。


「俺は女将さんとちょっとお話しすることがあるからね~」


半分怒り、半分笑いを含ませて、サーガは戸口を睨む。


「サーガ」

「何?」


アオイが気だるそうに顔を上げる。


「今までいろいろ、ありがと」


一瞬キョトンとしたサーガだったが、すぐににっかり笑う。


「俺も。ご馳走さま」

「…! お馬鹿!」


枕を掴んで投げようとしたアオイだったが、力が入らず途中で枕を引き抜くことを諦めた。


「じゃね、アオイさん。少しゆっくり休んで」


サーガの手がアオイの髪を優しく撫でた。

その声音と手の温かさに、なんだかほっとして力が抜ける。

風が優しく頬を撫で、扉が開いて閉まる音がした。

もう数時間もすればテッドリーが迎えに来るだろう。それまでには仕度を整えなければならない。

ただもう少しだけ、サーガの言う通りに休んでいようと、アオイは静かに目を閉じた。













執務室の扉をノックする。


「なんだい?」


中から声がしたのでサーガは扉を開けて入った。


「女将さん、お話があるんだけど~」


怒りマークをつけつつ笑顔を保ち、どかどかと部屋を進む。


「なんだい?」


少し強めにバンと音を立て、机に手を置く。椅子に座って余計に背が低く見える女将を見下ろす。


「アオイさんがゲロッた。あの日俺は何もしてないってな」

「そうかい」


女将さんは睨み付けるサーガに怯むこともなく、机の引き出しを開けて書類を取り出した。


「ほらよ」


サーガの借金の証文だった。

それをひったくり、ビリビリに破り捨てる。


「よっしゃあ! これで俺は自由だ! …じゃなくて、なんか一言ないのかよ」

「悪かったね」


全然悪びれている様子が見られないが。


「てか、随分素直に出したな。もしかして最初からこうなるって分かってたのか?」

「もう少し時間は掛かるとは思ってたけどね。いずれはバレるだろうとは思ってたよ」

「最初から素直に俺に依頼すれば良かっただけの話しだろう?」

「口ではなんとでも言えるがね、本当に銀月にびびって逃げ出さないか確信が持てなかったからだよ。借金で縛り付けておけばとりあえず逃がさずにはいられる」

「うわあ…」


あとは依頼料をけちりたかったから、とまでは女将さんは言わなかった。


「でもまあ、そうなると、俺のこの数日の働きに見合う報酬は勿論請求していいんだよな?」


まあそうなるだろう。


「まあ仕方ないだろうね。働きに応じた料金は払おう。そしてそこからここにいる間の宿泊費、食費、設備利用費なんかをさっ引くと、プラスマイナスゼロだね」

「ちょっと待て! それはいくらなんでも!」

「なんだい? 娼妓達をジロジロ眺め回してた見物料も取って欲しいのかい?」

「うぐぅ…」


確かにあの子はいいお○ぱいしてるなとか、いいケツしてるなとか眺め回していたりなんかしたりしましたけれども。まさか気付かれていたとは!


「いい女達に囲まれた良い生活が出来たんだ。感謝してもいいくらいじゃないかい?」

「く…」


確かにそれはいい思いはしてはいるけれども…。見るだけで触れないという蛇の生殺し状態でちょっと鬱憤が溜まっていたりもするんだが…。

なんだか納得はいかないが言い返せない。下手に言い返そうものならさらに料金をふっかけられそうで怖い。


「くそう…、俺が金の交渉で負けるなんて…」


がっくり膝を付く。


「ふん。あたしに勝とうなんざ100年早いよ」

「100年なんて生きてねーわ」


諦めた顔のサーガが立ち上がり、再び女将さんを見下ろす。


「そいで、も1つ話しがあるんだが」

「なんだい?」


書類に目を通していた女将がサーガを睨め上げる。


「俺がテッドリーって奴をぶっ飛ばすって言ったら、幾ら出す?」


女将の両目が驚きに見開かれた。


お読みいただきありがとうございます。


まだまだまだ放出中。

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