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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
14/81

3日後の約束

前回のあらすじ~

「俺が逃がしてやろうか?」

「いいの?!」

「報酬として、100万エニー」

「! 人の足元を見て!」


アオイがサーガを睨み付ける。


「街壁の上にも見張りはいる。俺だってバレたらただじゃ済まない。それに1人100万じゃなくて1人50万だったら安い方じゃない? 合わせて100万」

「だったら、この街出てあたし達はどう暮らせってのよ!」

「彼氏さんが金用意すれば良いじゃない」


アオイがぐっと言葉を詰まらせる。


「か、彼は…商家の三男坊で…そんなに自由になるお金がないって…」


なんだかヒモ臭い臭いがしてきた。


「もしかしてだけど、今までに小遣い渡したりしたことって…」

「あるけど?」


ヒモの臭いしかしなくなった。


「アオイさん…?」

「何よ?」

「ええと、俺的な意見で申し訳ないけど、その男やめといたほうがいいんじゃない?」

「あんたまでそんなこと言うの?!」


すでに誰かに言われていたらしい。


「いやだって…」

「あの人はあたしのことを分かってくれる人なの! 何も知らないくせに知ったようなこと言わないで!」


いや、誰でもヒモ臭いとしか思えないと思うが…。

これ以上出会ったばかりのサーガが何かを言っても逆効果だと思ったので口を噤む。


「わ、分かった分かった。もう何も言わない」

「ふん」

「それで? 100万払う?」


今度はアオイが言葉を詰まらせる。


「ちょ、ちょっと考えさせて…」

「あいよ~」













次の日は晴れた。とても気持ちよく。

となるとアオイは自由時間にお出掛け。サーガは護衛で付き添い、ツナグは道案内で付き添う。

風の祠の所へやって来て、アオイがジト目でサーガを見る。


「…行って来る」

「いってらっしゃい」


祠の裏へと回っていくアオイに向かってサーガが手を振って見送る。


「そんなに叶えたいことがあるんですかね」


ツナグがぽつりと呟く。


「そりゃ人間なら1つ2つと言わず、10も20もあるだろう」

「10、20はサーガさんだけでは?」


それを欲張りと言う。


「僕も後で行ってみようかな…」

「やめとけ。ここにいる精霊様は女好きだから男の願いは叶えてくれないよ」

「なんですかその情報…」


適当情報です。


「それよりお前、顔色だいぶ良くなったな」

「? そうですか? 女将さんが何かしら食べろ食べろと押しつけてくれるんですよね。そのせいかな」

「…太らせて食べる気じゃねーだろうな…」

「女将さんをなんだと思ってるんですか」

「金にうるさい鬼ババア」

「言っておきます」

「ちょ! 今のなし!」


そんな風にツナグと戯れながらも、サーガの耳には2人の会話が聞こえていた。


「ルーデン、外に出る方法が見つかったわ」

「本当かい?! とうとうこの街から出られるんだね! で、どんな方法なんだい?」

「それが、信じられないかもしれないけど、空を飛べるって人がいて…。その人に街壁を飛び越えて運んで貰おうと…」

「…アオイ、大丈夫? 魔法が使えるっていっても、魔法は万能じゃないんだよ?」

「その人ね! なんか、特別な方法で飛べるんだって! だから…、それに、他に方法も見つからないし…」

「確かに、街壁をそのまま飛び越えてしまえば、門は関係ないか…。でも、本当に?」

「…本当よ」


そういえば話しを聞いただけでアオイも飛んでいる所は見ていない。ちょっと自信がなくなる。


「アオイがそう言うなら信じるけど…。分かった。とりあえず試してみて、駄目だったらまた他の方法も考えよう」

「ええ」

「街壁を飛び越えるとなると…、昼間はまずいよね」

「うん。考えたんだけど、3日後が新月の夜じゃない? その時なら闇に紛れて壁を越えられるんじゃないかと思うの」

「なるほど。早い方がいいものね。よし。じゃあ決行は3日後の新月の夜に」

「上手く抜け出してくるから、ルーデンも荷物をまとめてここで待っていて」

「分かった」


2人が軽く唇を交わす。ルーデンの手がアオイの胸に伸びる。


「駄目。今日も連れがいるから…」

「護衛だっけ? 待たせておけばいいじゃない」

「あまり待たせて疑われても困るでしょ?」


すでにバレているけれど。だからこそそんな声など聞かせたくない。


「もどかしいな…。もっと君と一緒にいたいよ…」

「あたしもよ…」


最後とばかりに2人は固く抱き合う。そして惜しむように体を離した。


「それじゃあ、またね」


アオイが小走りでサーガ達の元へと帰ってくる。


「お願い事は叶いそう?」


サーガがそしらぬ顔で聞いて来る。


「ええ。きっとね」


そして2人を引き連れて、満華楼へと帰って行った。














決行日まであと2日となった日の夕刻。

アオイはこそこそと旅の準備を整えていた。この街を出て東へ進めば、聖教国との国境の関所に辿り付ける。聖教国に逃げ込んでしまえば追っ手も簡単には追ってこられないだろうと2人は考えていた。

しかしサーガに今持っているほぼ全財産の100万を支払わなければならない。もちろん前払いでと言われている。

残ったお金をかき集め、お客さんからも少し多めにチップをもらい、当面の生活費をなんとか工面していた。向こうで運良く仕事にすぐにありつければいいが、もし見つからなければ…。


(向こうでも、体を売るの?)


アオイに他に手はない。かと言ってルーデンも当てにはできない。


(ううん。ルーデンの為なら)


唯一、アオイの事を本当に理解してくれる人なのだ。共にいてくれるだけでいい。それにルーデンも頑張って働いてくれるかもしれない。そしていずれお金を貯めて、2人で店を開くのだ。

その未来がもうすぐ近くに来ている。

アオイは浮かれていた。


「アオイ! 大変よ!」


同じ娼妓のコムラサキ姉さんが部屋に駆け込んできた。ちなみに今はまだお客が来ていないので、サーガもアオイの部屋で寛いでいた。


「どうしたの?」

「テッドリーが来たのよ! しかも…、どうやらどうやってかお金を揃えてきたみたいなの」

「ええ?!」


10億もの大金を?!


「アオイさん待て!」


思わず部屋から走り出ようとした所で、サーガに肩を掴まれる。


「下手に出るな。今頃女将さんが頑張ってくれてるから」

「でも、でもだって…」

「いいから、まずは落ち着け」


コムラサキにアオイを任せ、サーガは扉を閉めてその前に陣取る。

その耳には応接室での女将とテッドリーの会話が聞こえて来ていた。













「10億だ。確認してくれて良いぞ」

「ああ。もちろんさ」


女将とツナグとあの下働きの女の子のアカネがせっせとお金を数えている。なにせ10億である。数えるだけでもかなりの時間が掛かる。


「女将さん、確かに10億、ありました…」


ツナグが青い顔をしながら数え終わった金貨を袋にしまう。

女将も偽金でもあるのではないかと目を光らせていたが、どうやら全部本物の金貨のようだった。


「これで文句はないだろう? さあ、アオイを寄越せ」


女将さんの顔が険しくなる。


「分かった…。アオイはあんたに渡そう…」

「女将さん!」

「女将さん?!」


ツナグとアカネの悲痛な声が響く。

テッドリーがその凶悪な顔を歪ませて笑う。


「ふはは。まさか俺が正攻法で来るとは思わなかったか? さて、じゃあ早速アオイを連れて行くか」

「お待ち! アオイは満華楼の看板娼妓だよ! 身請けするにも身支度ってもんがあるんだ!」

「ああ?」

「正攻法で手に入れたいんだろ? だったらその辺もちゃんと手続きを踏むんだね! 嫌なら金持ってとっととお帰り!」


テッドリーが女将を睨み付けるも、女将はまったく怯む様相を見せない。


「ち。分かったよ。どのくらい時間がかかる」

「お客様達への挨拶とあの子の身辺整理で、そうさね、3日は時間をもらうよ」

「3日だと? これからさらに3日?」

「嫌ならいいんだよ」

「ち。仕方ねぇ。待ってやらぁ。ただし、きっちり3日後にはまた迎えに来るからな」

「ああ。もちろんさ」


お互いに少し睨み合い、そしてテッドリーは手下を引き連れて帰って行った。


「女将さん…。アオイ姉さんは…」


アカネが悲痛な面持ちで女将に尋ねる。


「まさかきっちり揃えてくるなんてね…。あたしの計算が甘かったよ…」


女将が頭を押さえ、苦しそうに呟いた。

ツナグも何も言えず、ただ拳を握り締めるだけだった。












「アオイさん」


目を閉じていたサーガが顔を上げた。


「何?」

「話し合い終わったようだよ」

「本当? どうなったの?」


何故そんなことが分かるのかと不思議そうにするコムラサキだったが、そこは空気を読んで口を挟まない。


「奴が10億揃えてきた」

「まさか…!」


そんな大金、どうやってとも思うが、良い噂を聞かないテッドリーだ。いろんな汚い手を使って集めたのかもしれない。しかし1娼婦を手に入れるためだけに10億も払うとは思わなかった。


「女将さんも断り切れなかったみたいだ」

「嘘…。嘘よ…」

「応接室だ。行っておいで」


サーガが扉を開けた。よろめきながらアオイが扉から出て応接室へと向かう。


「女将さん…!」


ノックも忘れて中に入ると、金貨が詰まっているのだろう袋が山積みになっていた。その影で女将が頭を抱えているのが見えた。


「アオイ…」


女将の顔も青白く見える。


「女将さん…、そんな、そんなこと、ないよね?」


アオイが女将に縋り付く。


「すまない、アオイ…。守ってやれなかった…」

「女将さん?」

「まさか本当に金を用意してくるとは思わなかったよ…。だいぶふっかけてやったのにね…。あたしも耄碌したかな…」

「女将さん…じゃあ…」

「すまない。覚悟を決めておくれ。3日後だ。奴がやって来る…。その時には、あんたを引き渡さなきゃならない…」

「3日後…」


逃げ出すのはその前日。もし上手く逃げられなければ、その先は絶望しか待っていない。


(絶対に逃げ切ってやる!)


アオイは心の中で固く、固く決意したのだった。


お読みいただきありがとうございます。


一気に放出中。

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