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サーガとクロムの異世界譚  作者: 小笠原慎二
本編
13/81

100万エニー

前回のあらすじ~

「暇そうだから捕ってきたぜ~」

ドサドサドサドサ

蛙の山が出来ました。

風とは音にも精通している能力である。

つまり、サーガは話が上手い。

抑揚の付け方、テンポ、話しの間。語り手として生まれてきたのかとも思える程に聞く人を引きつける。

語り始めたサーガの話に、娯楽に飢えていた事もあり、アオイは話にのめり込んだ。


「それでそれで?」

「うん、それで、続きを話す前に、扉の前のお姉さん達入って来たら?」


バタガタと音がして、少し静かになる。そして扉がゆっくり開けられた。


「ごめ~ん」

「立ち聞きするつもりはなかったんだけど…」


数人の娼妓達が顔を出す。漏れ聞こえるサーガの話しを皆扉越しに聞いていたらしい。


「いいよいいよ。お姉さん達こういう話しはあまり聞かないだろ?」


ここは高級娼館なので、来るお客もそれなりの人達。あまり野蛮な種類の男は来ない。なので冒険譚など聞く機会はほとんどなかった。


「アオイさんの部屋じゃ皆寛げないな。どうせなら広間で話す?」

「そうしてサーガちゃん!」

「さ、行きましょ!」

「ちょっと! あたしが聞いてたのに!」


女達がサーガを引っ張り、暇な時に皆で客を待ったり、接待したりする広間へと移動する。アオイも慌ててその後を追った。


広間にある椅子に皆座り、サーガが真ん中で身振り手振りを交えて続きを語る。その声を聞きつけ、他の娼妓達もやって来て、広間はいつもよりも人が集まって賑やかになった。

その中に女将さんもちゃっかり混じっていた。

いや、女将、仕事はどうした。













雨のおかげかお客もほとんど姿を見せず、それほど邪魔も入らぬうちにサーガの語りは終わりを迎える。


「面白かったわ~」

「サーガちゃんすご~い」


お姉さん方の拍手を頂き、慇懃な礼をするサーガ。こういう所はしっかりしている。


「でも~、その沼って確か馬車でも半日近くかかるんじゃなかったっけ?」


多少地理に詳しい者がいたらしい。サーガの動きがギクリと止まる。


「え? そうなの?」

「街の近くにそんな沼なかったわよね?」


ザワリザワリとそんな呟きが増える。そしてサーガに突き刺さる視線も増える。


「そこは、俺の裏技だから、簡単には教えられないヨ!」


人差し指を口元に当て、教えませんのポーズ。


「ベッドの中で二人っきりでだったら教えてあげてもいいけど~」

「あはは~サーガちゃんったら」

「冗談が上手ね~」

「冗談じゃないんだけど…」


手練手管のお姉さん達は、サーガが見た目通りの少年だと思っている。そこは青年と言ってあげて欲しいけれど。

苦笑いをしていたサーガが、女将の射殺しそうな視線に気付いて後退った。


「うちの子達に手を出したらただじゃおかないよ…」


女将の視線はその言葉を如実に物語っていてとても怖かった。











「下手に手を出したら借金が倍々になりそうだな…」

「何か言った?」

「いえ、なんも」


アオイの部屋に避難してきたサーガ。いや、護衛だから側にいなければならないからなのだ。逃げてきたわけではないのだ。


「ねえ、サーガ」

「ん?」

「その、特別な移動法って、どんなの? あたしでも出来る?」


サーガはお目々をパチクリさせて、問いかけ返す。


「教わってどーすんの? 逃げるのに使うとか?」


アオイの顔がギクリとなる。


「ななな、何? 逃げるって何よ?」


どもりまくっているうえに視線が泳ぎまくっている。嘘下手か。


「さっきも扉の向こうで静かにお姉さん達が俺の話聞いてたの気付いたろ? 俺の耳は特別製なの。だから、祠でアオイさんが恋人と会ってんのも知ってる」

「!!」


アオイの顔が青くなる。


「ついでに逃げる算段の話しをしてたのも知ってる」

「・・・!!」


口をパクパクさせるアオイ。何か言いたいのだが言葉が出てこない。


「原因はテッドリーって奴? それともこの仕事から逃げたい?」


サーガが問いかけると、アオイは視線を落として腕を掴み、体を震わせる。怒りからか、恐れからか。


「…両方よ。好きでこんな仕事してるわけないでしょう」


アオイの低い声が響く。


「アオイさんも借金苦?」

「そんなところよ。あたし、これでも貴族の娘だったのよ」


顔を上げたアオイ。その顔は何かを諦めたような表情だった。


「本当なら、今頃は貴族の通う学舎に通っているはずだったのに…。父親が騙されて借金作って。挙句の果てに貴族の地位も奪われてこんなところに売られたのよ。笑えるでしょ」


いや、笑えないけど、とも言えなかった。


「あたしね、ここを出られたら小さくて良いからお店やってみたいって思ってたの。可愛いものを売るお店。そして女の子達を可愛くして笑顔にしてあげられたらなって。だからいろいろお店見て参考にしてるんだけどね。あの人はそんな時にたまたま出会ってね。そんなあたしの夢を素敵だって言ってくれたのよ」


アオイの表情が柔らかくなる。


「あたしが娼婦だって言っても、そんな夢を持てるなんて素敵だって。応援してくれるって言ってくれたのよ。あたし、あんな風に言われたの、初めてだったから…」


惚れちゃったわけだ。とは口にしなかった。


「最初から叶わないなんて知ってるわよ。でも、テッドリーに目を付けられて。あんな奴の所に行ったら…、どんな目にあうか…」

「で、逃げようと」

「そうよ。この街から逃げて、別の街で2人で暮らそうって。でもこの街から出る方法がなくて…」

「女将さんには相談した?」

「出来るわけないでしょ。借金もまだ返し終わってないのに、奴隷を逃がす奴隷商なんていないわよ」


アオイが奴隷と言い切った。


「不思議なんだけどさ~、そのテッドリーとかいう奴? なんでここに押しかけてこないの?」

「1度来たわよ。でも女将さんに無理難題押しつけられてすごすご帰って行ったわ。あの時はちょっとスカッとしちゃった」

「腕に自信のある奴が?」

「あたしを欲しけりゃ身請け金10億用意しろって啖呵切ったのよ女将さん」

「じゅうおくぅ?!」

「暴れようとしたけど、女将さんもだてにここで長生きしてないわ。それなりの知り合いがいるみたいで暴れたければどうぞってな感じよ。あの時はちょっと格好良かったわ」

「うへえ…。伊達にババアやってねえな…」

「女将さんも地獄耳よ?」


サーガが慌てて口に手を当てた。


「借金増えたりしない?」

「さあね?」


サーガの顔が引き攣る。


「で、テッドリーは正攻法じゃ手に入れられないから」

「無理矢理にでもってわけになって来たわけ」

「そこに現われたのが俺か」

「あいつを怖がらない奴なんて珍しいしね。女将さんも「活きが良いのを拾って来たね」って言ってたわ」

「活きが良いって…」


魚じゃあるまいし。


「ふ~ん、しかしなぁ。ここから逃げて、生活できる当てでもあるの?」


頼れる誰かがいるのか? と聞いてみる。


「少しだけど…。お金、貯めてるから…」


小さな声でアオイが答えた。


「ほう、お客さんからのチップ?」

「そ」


お店に払うものではなく、アオイ本人に渡すお金は見逃されることも多い。娼婦はそういうお小遣いを貯めて自分の物を買うのだ。それをこつこつ貯めていたようだ。


「ちなみにどれくらい?」

「…言わなきゃだめ?」

「貯めた金額によっては街を出た途端に路頭に迷うことになる」

「う…。でも、100万あれば、しばらくは大丈夫でしょ?」

「ひゃ…」


サーガが言葉を失った。

娼婦へのチップなどたかがしれている。それをそこまで貯めたアオイ。今回のことがなければお店の開店資金にでも充てるつもりだったのだろう。


「うへ~。頑張ったね~アオイさん」

「当たり前じゃない」


ツンとそっぽを向く。照れ隠しか?


「なるほどなるほど」


サーガが顎をさすりさすり、何かを考えている。


「ね、その方法教えてくれない? 教えてくれるなら少しは出すわよ?」


短い付き合いだが、サーガの扱いは心得ている。


「いや、教えても無理。俺しか出来ないらしいから」

「そんなに難しいの?」

「うん。だって、空を飛ぶんだもの」

「は?」

「俺が魔法使えるのは話したでしょ? 俺は魔法で空も飛べるの。だからアオイさんには無理だろ?」

「え? そら? うそ…」

「でなけりゃ1日に離れた所の依頼を3件もこなせるわけないっしょ」

「あ…」


納得出来てしまった。空を飛べるなら森の中を彷徨うことなく現地まで一直線。馬車がなくとも、いや馬車より速く移動出来るだろう。


「そんな…」

「だからさ、アオイさんが金払うなら、俺が2人を壁の外まで運んでやってもいいぜ?」

「え…?」


暗くなりかけたアオイの顔が微かに輝く。


「本当?」

「ああ。ただし、壁を越えるにもいろいろ危険がつきまとうだろうから、それなりのお値段を支払って貰わないとやらないぜ?」

「い、いくらよ?」


サーガがニヤリと笑った。


「100万エニー」


お読みいただきありがとうございます。


書き溜めた分一気に放出。

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