上杉智里
振り返ると仁王立ちした智里が居た。
「この旦那は、アタイのこれよ」
そう言うと智里は、親指だけを上に揚げ、他の指は畳んだ。サムズアップである。つまり、労働者としては、合格と言うことか、、、、ん?本当にそうか?何か意味があったような。そこだけが、靄にかかったように思い出せない。
「そうです。私は、智里のコレです」
労働者。雇われた者。被雇用者。その単語を子供に分かり易く伝えている。なんて素晴らしい女性なんだ。
二人の子供は、呆然とした後、勢い良く駆け出した。
「アナタ、そろそろ昼食にしましょうか」
「ありがたい」
そうして、初めて入れて貰った家は、他と比べて大きいなぁと思っていたが、中も凄かった。白塗りの壁。釜は、三つもある。床は、板張りにニスを塗ってあり、和室もあった。スリッパに履き替えて進む。
「もしかして?」
「はい。上杉智里と申します。」
貴族だったー---。モノホンの貴族だ。ヤバいヤバいヤバいヤバい。うん、風林火山の心得だ。
「私は、次男坊で家督とは関係ありませんぞ?」
「アナタは、そのままでいいの。惚れました。是非婚姻を」
ねえねえねえねえ、急展開過ぎない女神ハン。そらちょっと、対応力の限界だよー---?うっっ女神の顔が思い出せない?!なんでだ?これも罰なの?今、助けてくれたら、改宗して信徒になるのに、あの糞女神め。
『お返事を』
「はい!喜んで」
「嬉しいわぁ。天也だからテンちゃんって呼んでいい?」
「それは、ちょっと…」
天也は、頬を膨らませる智里をよそに思案していた。さっきの頭の中に響くような声、どこかで…。
「もー、ア・ナ・タどうしましたの?」
「いや、君も元服の儀なんだね」
「はい。18になります」
日本の元服は15だから、違うなぁ。これは、一体どういうことだ?思考が纏まらん!
「ささっこちらへ」
厨房の方に歩く智里についていく天也。
竈に薪を入れ準備する智里。天也は、火打石を目で探していると智里の声が聞こえた。
「火の理を持って、薪に火種を灯したまえ」
すると竈からパチパチと薪が燃える音がした。
天也の思考が消し飛んだ。