ある日、森で一角熊と出会った
いつの間にか、寝ていたらしい。見上げると木々があり、傍らには革袋があった。中には、ナイフ、黒パン、水の入った水袋、干し肉、よくわからない絵が描かれた硬貨数種類。
「なんとかなりそうだな…、よっしゃー!」
ガサッ
「ん?」
クマさんがいた。まだ、立っていない四つ足歩行状態で。頭の中で駆け巡る、漫画で見た知識が。熊を刺激してはならない。死体のふりをしてはならない。クマさんは、木登り上手。ここから得られる解は…。
皮袋を置いてそろりそろりとクマさんから遠ざかる。角を生やした熊は、革袋を嗅ぎ始めた。そっとその場から立ち去った。風下や熊の肉体構造的に苦手な下り坂を音を立てないよう静かに。
そして、気付いた。あの場所に放置したのは、女神だと。これは何かの嫌がらせではないのかと?
〈その頃、天界〉
女神は、ハラハラしながら見守っていた。いきなり森の中で大声を張り上げた時は、気が気じゃなかった。天使たちに他の人々を見守るように指示を出した女神は、天罰を与えた人間を見守ることにしたのだ。
『良かったわ。でも、この先どうしましょう?みーちゃん』
「私の名前は、ミリアリアです。ミレーネやミルクルト、ミサリア、ミーリント、『わかったわ、ごめんなさい』宜しい。39あるハラスメントに抵触する行為は、謹んで下さい」
女神は、しょげながらミリアリアを見た。
『アリアとかは?』
ギロっと擬音がつきそうな目の動きで創造主を睨んだ。
『お母さん、悲しいなぁ…』
はあっと息を吐き出したミリアリア。
「で?何を聞きたいのでしょうか?」
ぱあああっと後光を背負いながら、女神は微笑んだ。
『不老不死を渡したあの方に、どう手助けすればいいか分からないの』
「放置で」
『ええええええええええええ、ミリアリアはどうして冷たくなったのかしら』
「人間などと言う下等生物よりも森や川、海で暮らす生き物の方が好きなもので」
よよよよっと大げさに芝居をしていた女神に、ミリアリアは更に言う。
「永遠の餌である不老不死には、あそこで捕まって欲しかったですね。人間の村や町、王都に行かれると厄介ですので」
『じゃあ、魔族領に行かせた方が良かったかしら?』
「そうですね。再生能力や寿命の長い種族がいますから」
『私のバカバカバカカバ』
「反省してるのか、ふざけるのか、どちらかにして下さい」
女神は、ぷくっと頬を膨らませた。
『海よりも高く、山よりも低く反省してるわ』
ミリアリアは白けた目で女神を見るのだった。