終章3 誤解と友情
アーリアは、さらに速度を速めた。
弓は連続して矢を射られない。どうしても第二弾までに間が開く。
それくらい武器に詳しくなくても分かる。
(――だから、今は攻めるのみ!)
彼女の素早さに神兵達は驚嘆し、矢をつがえる動きがのろくなる。
すぐに、矢にこだわると危険だと思ったのか神兵は弓を棄てて立ち向かってきた。
大きな大人の身で立ちはだかれると、アーリアも対処できない。
身軽さだけを取り柄にして必死に攻撃を躱していくが、あっさりと限界に近づいた。
武芸という点に置いて、彼女の能力は発展していない。
躱す動きさえ読み切られ、とうとう建物の前でわしっと腕を掴まれてしまった。
「このクソババァ」
「違う、若い女だぞっ」
神兵達が二人、アーリアを押さえ込み、一人が彼女の腕を後ろにひねり上げた。
「……痛っ」
動きが取れなくなっても、彼女は必死に神王の寝室を見上げた。
あのベランダの向こうにレオンがいる。
(レオンがいるんだから!)
暴れて神兵の足を踏み、頭突きをして、しゃかりきに前を目指そうとする。
(わたしはレオンに会いに来たんだから!)
自由になっている片腕を振り回して神兵から逃れようとすると、方々から駆けつけた神兵達は剣を構えて襲いかかろうとしてきた。
「やめろ!」
きりっとした一喝が、騒がしかった中庭を鎮圧した。
「皆、どけろ。彼女は天姫だ!」
ベランダから飛ばされる声に、誰もが動きを止める。
そして神兵達もアーリアも神王の寝室を仰ぎ見た。
ベランダの手すりに右手をついて、猛る獣のように降りてくる者がいる。
金刺繍が輝く漆黒の長衣を着て、長くなった金髪を後ろで結っているレオンだった。
「天姫から手を離せ、解放しろ」
神兵達はレオンの出現に戸惑いながら、アーリアを解放する。
「散れ、ここには近づくな」
レオンが言うと神兵達は納得していない表情をしながら、各々の持ち場に戻っていった。
アーリアは荒い呼吸を押さえ込んで、また少しだけ背が伸びたレオンを見上げた。
「わたし、何度も心の中でレオンを呼んだのよ!」
アーリアは、まずそう言いはなった。
「毎日、あなたと会えるように祈ったの。どうして来なかったのよ!」
だんだんと口調が怒鳴りになってしまい、レオンが苦い顔をする。
「今の立場で、気軽に外には出られない。都なんて行けるはずがない」
「そんなの、抜け出しちゃいなさいよ」
滅茶苦茶なことを言うと、レオンは困った感じで腕組みをした。
「みんなの前から俺がいなくなったら全て上手く行くんだと、最近になって気がついた。神王の子である俺がいると、迷惑をかけてしまうかもしれない」
「……なにくだらないこと言ってるの」
「それにさ。アーリアの隣にはエンツォ、イルマの隣にはダニエレ。そこに俺が入り込もうとするから、ややこしいことになるんだ」
「あなたが考えすぎて、ややこしくしているのよ」
「俺は、ちゃんと、心の底から真剣に考えた」
真顔で言ってくるが、さっぱり言わんとしていることが分からない。
「アーリアのためを思うと、俺が横から入っていくのは、あまり感心するべきことじゃない。仲間の輪が乱れてしまうし、アーリアの幸福はエンツォの側にいることだ」
「そりゃ、エンツォの側にいられるのは幸福よ。あんただってそうでしょ」
言い返すと、レオンは頬を硬くしてそっぽを向く。
「俺の幸福と、アーリアの幸福は、別の感覚だろ」
「同じよ。エンツォだけじゃなくて、イルマやダニエレの側にいられたら幸福でしょう? わたし達、仲間なんだから」
アーリアが言葉を重ねると彼は歯を食いしばって頬を歪めてから、ゆっくりと口を開いた。
「仲間から恋人になりたいんだろ、エンツォの」




