終章1 欠けてしまった仲間
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祭りの日の夜明けに、神王は、レオンの父親は死したという。
死した、と言われるが遺体があるわけではなかった。
寝台に石の粉のようなものが人型となって残っていたそうだ。
葬儀は盛大に行われ、国中が三ヶ月の喪に服した。
五百年以上行われた神王の統治の後、何が起きるのか国民達は不安に思っていた。
しばくして、神王に子供がいるかもしれない……という噂のようなものが都中に流れ始めた。
神王の子供がレオンであることを示唆する言葉も、神殿に深く関わっている者達の中から零れ始めていた。
それらの話を、アーリアは街中からかき集めている。
あれ以来、レオンと会っていない。
神官の下っ端のダニエレもレオンに会えていないという。
会いに来られないのか、会いたくないのか分からず、アーリアは悶々《もんもん》としていた。
「アーリア、新しい情報を手に入れたよ」
この頃、探偵みたいになっているエンツォが、神殿の情報を仕入れてアーリアの店に飛び込んだ。
「なになにっ」
アーリアはカウンターから飛び出して、エンツォの前へ行く。
「レオンの部屋が移動されて、今は神王の寝室にいるようだ」
「じゃあ、レオンが国王になるの?」
「そうなるだろうね」
「……わたし達は、もう二度とレオンに会えないの……?」
問いかける声が酷く細かった。
悲しみに喉が詰まって、うまく話せない。
だが、レオンが玉座に着くのは歓迎するべきことなのだ。
もう会って話はできないだろうが、日陰の身だった彼が日向を歩けるのは喜ばしい。
「アーリアが諦めれば、そうなるかもしれないね」
「わたしが?」
エンツォはニヤリと笑ってリュックの中から一枚の畳まれた紙を取り出した。
開くとそれは大きな建物の設計図である。
「真夜中にダニエレと一緒に神殿に入って、神殿の図書館の鍵をちゃちゃと開けて、資料保管庫の鍵をちゃちゃと開けて、もってきちゃった。これは神殿兼王宮の設計図」
「え!」
驚いてしまって、なんと言ったらいいのかすら分からない。
エンツォはカウンターの上に設計図を広げて、中心の一角を指さした。
「ここが、神王の部屋」
ごくりと喉を鳴らして、アーリアは彼の真意を汲み取る。
忍び込め、と言っているのだ。
「レオンはさ、自分から此処へ来たくても来られないかもしれないよ。即位を前にして軽い行動は取れないとか思い込んでいるだろうし、上手く派閥ができるまでは私達も謁見は許されないかも」
「だけど、王宮に忍び込むなんて」
「あそこは案外、手薄だからね」
「そんなわけないでしょ!」
否定したが、エンツォは笑って難しさをうやむやにした。
「私は、アーリアをレオンの元に行かせたい」
彼の唇から流れた言葉が暖かさに満ちている。
「私が忍び込んでも良いけれど、レオンには私では解決できない心の闇があるから。君が行って、レオンは私達に会いに来ても良いのだと知らせてあげなさい」
言われて、アーリアは黙り込んだ。
(……そうだ。レオンは即位を前にして一人で悩んでいるのかもしれない。辛いのかもしれない)
神殿を制圧していた大神官は、未だ大きな支配力を持っている。
あの山頂にいた者達だけでは太刀打ちできないだろう。
(違う、そんな問題じゃない。わたしには神殿や王宮のことを解決できる力はない)
ただ、側にいて、励まして、一人ではないことを伝えるのだ。
また彼を孤独の中に落とすことなどできない。
アーリアは設計図を睨み、そしてエンツォを見た。
「わたし、行くわ」
「そうこなくっちゃ!」
エンツォは屈託のない笑顔を見せた。
「実はね、ダニエレはもう準備をしているんだ」
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