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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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6-4 目前の死と命の恩人

********


 太陽は光線こうせんの羽根を天へ伸ばし、夜空だったものが朝空へと変わっていく。

 空の下で、精霊を前にした人々が蟻のように散っていく。

 山頂前さんちょうまえで交通規制をしていた神官達も、途中で解散かいさんするはずの仮面の男達も、精霊に飲み込まれ、数々の叫び声が震えながら響き渡る。


 精霊がアーリアの足を噛みくだこうとし、彼女は小岩につんのめって転んだ。

 すると精霊達が笑いさざめき、一斉にアーリアを取りかこんだ。

 赤い気を纏った色鮮やかな精霊達は、とぐろを巻いて彼女を押しつぶそうとする。

 それでも立ち上がり、精霊をがむしゃらにきわける。

 しかし、彼らは実体があるようでいて、掴むと何の手応えもない。

 ただ、触れた部分が熱を奪われて重くなっていくだけだ。


(……寒い)


 身体中の筋肉が外側から凍っていくようだった。


(これじゃ、走られなくなるっ)


 歯がみして呻き、麻痺まひし始めた足を引きずった。

 砂利に線を書きながらずるりと足を動かしていく。

 ここであきらめるわけにはいかないのだ。

 きっと仲間が、神王の星を見つけてくれる。だから、倒れてはいけない。


 そう思っているのに、身体の熱が徐々《じょじょ》に奪われ、呼吸も浅くなり、意識がもうろうとしていく。

 己の力のなさを嘆くことすらできない。


(……ぁ)


 精霊達に両腕で抱きしめられ、アーリアはくたりと倒れた。

 砂利に頬を擦りつけ、二度三度動こうとする。

 だが、なまりに押しつぶされたように身体の自由がきかない。


(――みんな……)


 肺から小さな息が漏れた時、彼女は思わず目を閉じる。

 全身が麻痺まひして地にした感覚さえ失われていく。

 感情さえも奪われて、意識が遠くへ流れていきそうになる。


 (殺されてしまう。みんな、ごめん……)


 死に心囚こころとらわれた時、身体を掴んでいた精霊達の手がゆるんだ。

 のろのろと瞼を上げると、誰かがけ寄ってくるのが分かる。

 窒息ちっそくしそうなほど密な闇の中で光を投げかけられたように、その人の姿は眩しく見えた。だが、視線がぶれて相手が誰なのか確認できない。


(――レオン)


 神々しい面影から連想される幼なじみの名を呼んでみたが、反応はなかった。


「あの子のお願いだからね」


 声がした途端とたん、身体の重みが消え失せる。

 にぶかった感覚や、歪んでいた視界がきりりと正常に戻った。


「……宝石泥棒さん」


 アーリアは地べたに頬をすりつけながら、けつけてきた人を見た。


「起き上がって、まだ走れる。そして、あの子と次の世代を継ぐんだ」

(……あの子?)

「さあ、先に進め!」


 青年は彼女の前で立ち止まり、両腕を伸ばした。

 すると精霊の大群がざわめきながら遠くへ追い出される。

 青年が精霊を払ってくれたらしい。


「君は山頂さんちょうへと逃げ続けるんだ。山頂の天姫が殺される前に!」


(山頂の天姫……イルマだ!)


 アーリアは飛び起きて、また走り出す。

 宝石泥棒の手から逃れた精霊や、新しく来た精霊が、アーリアに襲いかかっていく。

 足がなかなか前に進まない。


(――でも、イルマを助けないと)


「私の足よ、動けッ」


 精霊にやられなくても、もう両足の筋肉は限界を超えている。

 辛くて、吐き気さえこみ上げてきて、涙がこぼれるが、止まるわけにはいかない。


(全てが無事に終わればいい。みんなが無事になる未来が来ればいい)


 アーリアは無我夢中むがむちゅうで山頂を目指す。

 木がなくなり、植物は岩間に少しだけ見え、砂利道の石が大きくなっていく。

 夜露よづゆで濡れた山の岩々は、朝明けの光でうっすらと輝き始め、いびつな形を見せ始めていた。

 人の形のような巨岩が連なる谷間を突き進み、自然に作られた岩のアーチへ向かう。


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