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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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6-1 国一番の善人とは

********


(アーリアは夜明けまでは、殺されない)


 どんなに精霊が追いかけてきても、捕まえたとしても、人間と精霊の神聖な約束を破るはずがない。


(だから、俺が夜明けまでに神王の星を見つけるんだ)


 レオンはけながら空を仰いだ。

 東方からしらみ始めていて、星のきらめきも淡くにじみ始めていた。もうすぐ遊戯の期限が終わり、朝が来る。

 彼は全力で曲がりくねる大通りの坂を下っていった。


(レオンッ……、……聞こえるか?)


 エンツォの声が頭の中で弱々しく反響はんきょうする。

 必死に祈りながら声を発して、自分に知らせてくれているのだ。


(……善人リストのカオスは……星になっていない。残りの三軒を……アーリアが探しているけれど、もしかしたら彼女も……見つかっていないかも)


 途切とぎれ途切れにエンツォの思念しねんが届く。

 アーリアは星を見つけていない。

 と、なればリストの善人の元に星は降りてこなかったのだ。

 では、誰の元に星が降りたのだろう。

 アーリアが警官から聞いた言葉を分析ぶんせきすると、天姫の星は大神官の家にあったのだろう。

 だからあの家のカオスは盗まれたのだ。

 

 神王の星は無欲むよくな者の元に降りるという。


無欲むよく……誰が無欲だろう?)


 無欲であるということは、自分のことより他人のことを優先したりする人だ。

 親切で優しい人だ。

 ふっと一人の女性の姿が頭に浮かんだ。


(――クールオさん)


 働いているところしか想像できないほど、彼女は働き者だ。

 かといって稼いだお金で贅沢ぜいたくをしているわけではない。

 心底、人が良いのだ。

 腰が痛いのに世界中から髪飾かみかざりの予約を受け続けている。

 人々がほしがる恋の幸運を必死に与えている。

 

(だが、髪飾かみかざりは銀貨一枚もするぞ)


 悩みながらも、なぜか彼女しかいない、と感じた。


 金は確かに取るが、いつも人に親身になってくれて、色んな人の恋の相談も毎日毎日何時間も聞いている。

 善人を絵に描いた様な人柄は誰からも好意を持たれている。


(そうだ。髪飾りに神殿で祈りを捧げた綿を使っていると言っていた)


 ズボンのポケットの上から髪飾りに触れる。

 神殿の清浄な空気が、そこから漂っていた。


(神殿でこういったものの祈りを捧げるには、金貨一枚はかかる)


 髪飾りの布は絹のようだし、クールオさんが手作業で一個一個作っているから……もしかしたら大した稼ぎになっていないのだろうか。

 レオンは膝から手を離して、大通りを眺めた。

 もう少し降りれば、クールオさんの家へいける。


(――迷っている暇はない、行こう!)


 足を一歩大きく前に出した時、筋肉が悲鳴を上げる。

 体力の限界げんかいが近づいているが、そんなものは超えてやるのだ。

 己の身体がどうなろうとも、たとえ死んだとしても、アーリアを守りたい。

 彼女は、十年前のあの日、孤独こどくに震えていたレオンを優しく抱きしめてくれた。

 人の体温を初めて感じ、人に触れられることの嬉しさに泣いた。

 以来、ずっと、本当にずっと、彼女はレオンを支えてくれたのだ。


 アーリアには話していないが、レオンは大神官を憎むあまりに彼を殺そうとも思っていた。

 あの人さえいなくなれば、悪夢のような日々から解放されると信じていた。

 

 それを行動に移さなかったのは、アーリアがいたからだ。

 人の心の温かさを彼女が教えてくれた。彼女が友情という愛を与えてくれた。

 だから彼は狂気に心を動かされなくなったのだ。

 

 どこまでも深く広がる感謝の念と、揺るがない友情と、気持ちを駆り立てる恋心を栄養にして、レオンは走りに走った。


 膝の間接が痛み、振り上げる腕がきしみ、腹に力が入らなくても速度をゆるめなかった。

 そうして大通りを曲がり、階段状の小道に入り、石段を駆け上がっていった。

 目的の店にたどり着き、レオンはバルコニーを仰ぎ見る。


「クールオさん!」


 こんな時間だ、寝ているかもしれない。

 だが、呼ばずにはいられなかった。


「クールオさん!」


 何度も繰り返して彼女の名を叫んだ。

 しかし、バルコニーから人が出てくる気配がない。

 バルコニーの奥に寝室があるはずだった。

 レオンはじれったくなって、店の戸に手をかけた。

 錠がかかっていて開きそうにない。


(……また、侵入するしかないのか)


 躊躇ためらっている時間はない。やるしかないのだ。

 悪事を働く度に痛む胸を押さえた時だった……。


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