5-2 再会と嫉妬
ぎゅっとランタンを抱き、かぼちゃとトマトの籠にぶつかりながらも超えて、うっすらと埃を被ったワインの棚に背を押しつける。
(……どうしよう)
見つかったら、精霊との遊戯ができない。
レオン達や神王が神王の星を見つけてくれたら助かるだろうが、人手が減るのは確実だ。
(時間が、あと少ししかないのに)
アーリアは固く目を閉じた。
(――イルマ)
熱いランタンが胸を焼き、約束の文字をあぶり出す。
夜明けになったら会うとイルマに約束した。
それはみんなを助けることであり、自分が助かる道を選べたことであり、イルマの側に、これからもいられるということである。
(お願い、わたしだけのためではなく、みんなのために見つからないで)
ギシ、ギシと足音が近づいてくる。
(……怖い)
緊張しすぎたせいか、胸が熱いのに鳥肌が立ってくる。
お腹の底が痛い気がするし、背筋には冷や汗が流れている。
(――怖い)
人影が貯蔵庫の前で動いた。
(レオン、助けて!)
思わず、心の中で名を呼んだ時、
「……アーリア?」
求めていた人の声が戸惑いながら聞こえた。
中途半端に開いていた貯蔵庫の戸が開き、彼の姿が見える。
乱れた金髪、汗で濡れた額、少しだけよれた服……疲れを感じさせる姿で、彼が……レオンがアーリアの目の前に現れた。
一気に脱力して、彼女はへたりと座り込んだ。
「……おい、大丈夫か」
「もう一度、会えると思わなかった……」
「アーリアの声が途絶えてから、ずっとアーリアの気配を探っていたんだ」
一気に感情が押し寄せて、彼女の目尻に涙が溜まりそうになる。
だが、夜明けが近づいているという恐怖が涙を押しとどめた。
恐怖は理性となり、理性はアーリアに冷静になるよう訴えかける。
彼女はぐっと手を握り、力が抜けてしまった足を力ませて立ち上がった。
「落ち合えて良かった。精霊の呪いは解けたのか?」
精霊に呪われたことを知っているなんて、やっぱりレオンは不思議だ。
だけど、そこを深くアーリアは聞こうとしない。
エンツォなら、そういった人の心の壁を好奇心で払い除けられるが、彼女にはできなかった。
聞いてしまえば、レオンが遠くへ行ってしまう気が……随分と昔からしていたのだ。
「カオスを隠すとしたら、薄暗くて目に付かない場所だ。だが、台所には神殿の気配は感じない」
「レオンなら大切な物はどこに隠す?」
「……俺は大切な物は、持ち歩くさ」
そう言ってレオンがズボンのポケットを軽く押さえた。
何か言いたそうだけど彼は何も言わない。
ただ、ランタンに照らされたアーリアの姿を見ていた。
「珍しいな……服買ったんだ?」
「あーこれね、エンツォが買ってくれたのよ」
こんな服装をしているのが恥ずかしくて顔を俯かせると、レオンは「ふーん」と小さく言って、ポケットを押さえていた手を外した。
「綺麗だ」
ぼそっと言われて、アーリアは驚いて顔を上げる。
「レオン……」
「腹が立つほど、悔しいな……」
「なんで腹が立つの?」
「わからないか?」
「分かんないわ……」
素直に答えると、レオンはむっとした顔をしてアーリアに背を向けた。
「家の者が起きないように、これからは無言で行動しろ」
(なによ、突然、むすっとして)
アーリアはそう思いながらも口を結んでレオンの後ろをついて行く。
二人の足音が、重なり合いながら家中に響いた。




