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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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5-1 悪い行いに震える心

********


 自分の身体に風が戻ってきたようだった。

 お土産物の仮面を付けた人々が往来する中、アーリアは軽やかに路地ろじけ抜ける。


「また宝石泥棒が出たぞ!」


 宝石泥棒を追う警察の姿を見かけ、顔をベールで隠し、小道に入って深呼吸をする。

 そこも人があふれかえっていた。

 食べ物を口に運びながら談笑だんしょうする少女達、おもちゃにきょうじる子供達、足を怪我けがした恋人を背負おうとする男性、今日は遅くまで起きている老人方……。

 賑わいの中から、毅然きぜんとして祭りに挑んでいるというイルマを褒める声がして、アーリアは従姉の顔を思い出す。


(わたしは、イルマと夜明けに会うんだ。会うために、彼女のために、生きるんだ!)


 決意を新たにして、坂の上を小走りし、建物の壁面に貼られている住所のプレートを見てから家を探しつつ進んでいく。

 そして蔦に覆われた緑の邸宅に辿り着き、玄関の戸を叩いた。

 しかし何度叩いても人が出てきそうな気配はなかった。


 また、忍び込むしかないのだろうか……。


 だとしたら、今度は、一人で全てやらなくてはならない。

 エンツォとダニエレとは離れて行動することになった。もう時間がわずかしか無く、全員で固まって探してはいられないのだ。


(わたしが精霊に負けたら、この国に災いが起きるかもしれない)


 ポケットから今日の売り上げ分の金貨を一枚出して、目の前で握りしめる。


(凶作に不漁なんて起きたら、大陸から離れた小さな島国だもの……直ぐに危機になってしまうわ)


 アーリアはすっと垣根の中へ入り、糸杉に囲まれた小さな庭へ移動する。

 そしてレオンの真似をして、躊躇ためらいながらも小石で格子窓の端を割った。

 鋭利えいりに割れたガラスの隙間からかぎを外し、窓を開く。

 泣きそうになりながらそっと窓から内部へ侵入し、金貨を一枚窓枠に置いた。


(ああ、そうか。宝石泥棒さんが金貨を置いていくのは、窓の修理代なんだ。そしてきっと、忍び込んだことへのおびなんだ)


 そこまで思ってから、アーリアは項垂れそうになる。


(お金を払っただけで、おびになるとは思えないけど)。


 落ち込みながらも、明るすぎては見つかるから……とハンカチで覆っていたランタンを解放する。

 室内がランタンの細い火で照らされ、闇がオレンジ色を纏いながら透けていく。


(どこを探せばいいんだろう)


 さっきはレオン達がいてくれたから、少しだけ安堵して作業をすることができた。

今は独りぼっちで、何からどう手を付けたらいいのか分からない。


 ふわっと風が窓の隙間から入り込んで、被っていたベールを動かす。

 びくりとして振り返り、ただの風の仕業しわざだと知って緊張で上がっていた肩を落とす。

 だが、作業をしようとすると、また肩が上がってしまう。


(……ごめんなさい、ごめんなさいっ)


 もし、無事に戻れたら……と彼女は心中で思う。

 不法侵入した家に、謝罪の手紙を書いて送りたい。

 直接会って謝った方が良いとは思うけど、それではレオン達のこともバレてしまう。


(ごめんなさい。こんなことしか考えられなくて)


 辛くて動きを止めたアーリアの耳に、柱時計の音が入り込む。

 時を刻む時計の音が心音と重なって――ああ、わたしはもう少しで死ぬかもしれない――とこれから先を考える。

 死ぬ前に、何かをイルマに残したい。


(わたしが死んでもイルマが安心できる、何かを……)


「……駄目だ」


 死ぬことばかりに心を囚われそうになるが、アーリアは頭を振って嫌な考えをてようとした。

 生きるのだ。

 生きるために行動するのだ。

 精霊に負けてはいけないのだ。

 ぐるりと部屋を見渡して、椅子のクッションをどけては戻し、椅子の裏を見たり、棚を開けていったりしていく。

 国民を守るという責任と、忍び込んでいることと、死を目前としていることで、鼓動こどうがどんどん早くなり、呼吸は長く制止する。

 震える足で台所に行き、お母さんが貯蔵庫ちょぞうこに宝石を隠していたことを思い出す。

 台所隣の貯蔵庫の扉を開けて、干したハムが並ぶ中に頭を入れる。

 

 ガタッ。

 

 戸に腕がぶつかって、大きな音が鳴り響く。

 するとすごく近くでギシリと床を踏む音が聞こえた。


(――誰かいる!)


 体温が急激に冷えていく感覚に襲われながら、慌てて貯蔵庫に逃げ込んだ。


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