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1-3 幼なじみレオンのお仕事

********


 アリキート国の南には、世界有数の港、メイ港がある。

 羽ばたく鳥のような形をした港の前には、中央郵便局があった。

 

 東大陸と西大陸に挟まれている島国アリキートには、様々な場所から郵便物が集まる。

 郵便物が東大陸各地から西大陸各地に行く場合、またその逆の場合、必ず中間地点のアリキートを通るのだ。

 海を渡る郵便物のほとんどが、この国に集合し、各地に向けて仕分けされる。


「海外からの郵便物まで……増えすぎじゃないか……」


 レオンはアリキート国の第三層八地区と呼ばれる場所に届いた手紙の山を見て、困惑した表情になる。


 去年の末、ちょっとした乱闘騒ぎの後でレオンは神殿を追い出された。

 それには神殿内部と彼の家の込み入った事情があるのだが、アーリアは深くは聞いてこなかった。

 ただ、彼女はいつも通り、ちゃちゃと動いて、彼の仕事先を決めてきた。

 それが、寮もあり、常に人員が足りない郵便局員である。


 最初は、倉庫での郵便物仕分け作業がレオンの仕事だった。

 かなりの肉体労働であるが、神殿で黙々と教典を書き写す作業より性に合っていたので、文句も言わずに働いた。

 すると、なぜか倉庫長の目にとまり、いつしか噂が流れに流れて、郵便局長の耳に届いた。アーリアが言うには、レオンが良くも悪くも目立ちすぎるからであるそうだ。

 郵便局長は、「切手を流行らす手段をみつけた!」と叫んで、身寄りのない彼を郵便配達員にした。

 国内の郵便物に切手とポストを使うのは、最近他国から取り入れられた手段だった。


(俺が郵便配達をすることで、切手が流行る?)


 謎に思いながらも、仕事を引き受けると……。

 行く先々の家で女性達が顔を真っ赤にして郵便物を待つという習慣が配達地区で広がった。

 彼が担当する地区だけは、手軽に投函できるポストに満杯の手紙が入り、異常なまでに郵便物が多くなっていった。


「これも、これも、これもアンタの担当」


 同僚がむすっとした顔で言いながら、郵便物が入った箱をレオンの机上に重ねていく。

 彼は第一層一地区の配達員なのに、やたらとレオンにちょっかいをかけてくるわ、第三層の配達に口を出そうとするわで、色々と面倒な人だった。

 他の職員は、こちらのやりとりに気がつかず、仕分け作業が終わった郵便物を棚から引き出したり、予定表を確認したり、配達バッグを肩に提げて出て行こうとしていた。


「ほらみろよレオン、宛名が全員、女の名前だぜ」


 同僚は、それが気に入らないというのをはっきりと顔に出した。

 視線は刺々しく、口角は下がり、頬は堅くなっている。


「アンタさぁ、いっそのこと男の人気もとれよ。その、すましたお綺麗きれいな顔と体でさ」


 彼の言葉を聞いてレオンは表情を冷たく研ぎ澄ませる。


「男の人気か」


 言って同僚の頬を人差し指で優しくなぞった。ぽっと熟れてしまった同僚の耳に、レオンは口を寄せる。


「こうすれば、不満が消えるか?」


 ふっと耳に息を吹きかけてやると、同僚がへなへなと床へ崩れ落ちていく。


「こらこら、男までもてあそぶな」


 レオンの悪戯いたずらを目にした郵便局長が、楽しげに声を掛けてくる。


「……まるで俺が女性を弄んでいるようなことを言わないでいただきたい」


 言い返すと、豊かな白ひげが特徴的な郵便局長は朗らかに笑った。


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